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85.ラッガナイト城塞防衛戦8 ~新生カーネ連隊~

広域念話帯エロズィオーンを発動しているフェアンはマリゴールから緊急報告を受けていた。


彼女は現在、令嬢に変身したアマレロと一緒に市井しせいに潜り込んでいる。


もちろん透明化して、だ。


アマレロが聞き出す情報を一緒に聞き、フェアンに伝えるのが役目である。


このした諜報活動を現時点において行っている目的は2つだ。


1つは敵の戦術情報を少しでも多く入手するためである。


敵部隊の直接監視はもちろん遠見のギフトを持つフォルトウーナロッソが行うが、しばしばその情報は一義的になりがちだった。


それを補うために多様な情報を持つ領民に対して、情報収集を試みているのである。


もう1つは理由は、領民たちの意識をリアルタイムに観察するためであった。


というのも今回の防衛作戦において、彼らの動向が極めて重要なポイントになってくるのだ。


まあ、何はともあれ今回のマリゴールドからの報告は1点目の目的に即したものだった。


つまり、敵の戦術情報に関する事項である。


「大陸一の弓兵、ですか・・・」


「ええ、どう思いますか? 少し警戒した方が宜しいように思ったのですが・・・」


マリゴールドの言葉にフェアンは周囲を見回す。


イッシとプルミエは敵最大戦力と推定される合成獣キメラたちの討伐に向かった。


そのため今ここにはいない。


もちろん、ホムンクルス王国の指揮系統はそれくらいの事では揺るがない。


何といっても自分たちの最大戦力はイッシとプルミエなのである。


したがって、両者が出撃することは当然、想定の中に入っていた。


こうした場合は階級に基づき指揮権が粛々と委譲されることになっている。


「え? まさか、またわたしなのかー・・・?」


緑の髪を長く背中に垂らした少女、空間把握をギフトとして持つベルデは、うなだれた様子で言った。


そう、ここにいるのはベルデ、フォルトウーナロッソ、フェアン、ソワンの4名だけである。


そして、この中で最も階級が高いのは少佐であるベルデであった。


フォルトウーナロッソも同格なのだが、ベルデの方が先任なのである。


「すみれがもどってきたらー、すぐーあっちにもどらないといけないよー?」


彼女は困ったように眉根を寄せながらも、


「まーでもーそれはまでならー、りょーかいだー!」


彼女は両手を天に突き上げる。


と同時に、魔力の波動が周囲何キロにもわたって放出された。


それによって空間情報をたちまち把握すると、彼女は早速グラリップの居所を特定する。


「ロッソーにおねがいー。さかのー、ちゅーばんあたりかなー? もにたーいどー」


「はいはい、ちょっと待ちなさいよ」


ベルデの指示にフォルトウーナロッソは素早く応じる。


映し出していた城門の風景が消え、坂の中腹あたりの映像に切り替わった。


「したにー、したにー、ああーいきすぎだー。ちょっとうえー。あっぷあっぷー!」


「人使いの荒いことッ!」


文句を言いながらも、矢継ぎ早に出されるベルデの指示に従い、画面を一人の男に合わせる。


筋骨隆々とした歴戦のつわものといった風情の男だ。


彼は厳しい目つきで城門の上を眺めていた。


ソワンが頭上の輪っかを明滅させる。


するとフェアンが頷いた。


「ソワンの言う通り、あれが敵将グラリップですね」


ベルデが「んんー」と言いながら男の様子を眺めた。


「じょーもんをーみてるー? えっとー、さっきーえんぐんにーだれいったー?」


「新生カーネ連隊です」


「新生って、何だかかっこいいわね! でも、ただの何でも屋になった気もするけれど・・・」


フェアンの回答にフォルトウーナロッソが応じた。


「むー・・・?」とベルデはひとしきり首を傾げた後、うん! と言って立ち上がった。


「トロペをねらってるねー。ほっといたらーこれー、ころされちゃうー、じゃねー?」


少女の言葉にフォルトウーナロッソが「ええ!?」と驚いた声を上げる。


そのとなりでフェアンが冷静に頷いていた。


「敵将グラリップの力量は分かりませんが、隙をつかれれば悪食あくじきは難しいでしょう」


ソワンがいつもより多めに輪っかを明滅させる。


「そ、そうよ。ソワンの言う通り! それだったら誰か助けに行かなくちゃ!!」


「ふむ、では私が行きましょう。なあに、私の剣に切れぬものは多分ありません」


フェアンは出撃のチャンスとばかりに立ち上がる。


彼女はギフトのせいで城塞内にカンヅメ・・・いわゆる後方勤務となっていたが、性格には合っていなかった。


はっきり言って戦闘を好む性質たちなのである。


だが、ベルデはすぐにやめさせた。


「だめだよーまにあわないよー。それにー、ふぇあんとー、そわんはー、せんりゃくのかなめなんだからー。まんがいちがーあったらおこられるー。それにー」


少女はにこりと笑って言う。


「かーねだよー? なんとかするさー。もーつくしー、じょーほーてーきょーだけしておいてー」


モニターの向こうではグラリップがちょうど部下に弓を運ばせているところであった。


・・・

・・


「フェアンからの緊急連絡は皆、聞いたでありますな!? それにしても急ぐためとはいえ、ラピッダの俊足は勘弁であります。すごく酔うのであります! ゲロゲロであります!!」


「そないなこと言われたかてなあ・・・。イヤやったら自分で走ってもらっても良いんやで?」


「今度からは僕のワイヤーで移動しようか。一気に上昇して、それから急降下するんだ。エルブとこの前試したんだけど実行は可能だよ」


「絶対反対でござる・・・。パラのアレは隠密のそれがしですら、途中から気を失いそうになったでござるよ」


4人の会話に、新たに連隊に加わった2人、No.0989のシャッテンとNo.0333のミミカが口を挟んだ。


「楽しそうな所、大変申し訳ありませんね、先輩方。でもそろそろ準備をしませんか? もうすぐ屋上に到着しますからねぇ」


「しますからねー!」


シャッテンと言う少女は黒髪、黒目がちの娘で、どこかうさんくさい雰囲気をまとった少女である。


一方のミミカは赤と黄色が入り混じった奇抜な髪の色をしており、常に視線をキョロキョロと動かしている。とにかく落ち着きがない娘であった。

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