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82.ラッガナイト城塞防衛戦5 ~もう一つの戦場~

フェアンは長い黒髪をした広域念話帯エロズィオーンをギフトとする少女であり、ソワンは頭上の輪っかを浮かべた広域回復帯レスレクシオンを操る少女である。


前回の城塞占領作戦に引き続き、今回も戦場全体の連絡網と回復を担当する重要な役回りであった。


二人はフォルトウーナロッソの発言を補足するかの様に口を開く。


「城門の方は映像で御覧になられた通り、悪食のトロペがそこそこ時間を稼ぐでしょう。守備隊からの全通信内容を分析しましたが、今のところ悲観的な言葉は聞かれません。いつも通り、ワー、キャーとはしていますが」


涼やかな声でフェアンが言った。


一方のソワンが目を閉じたまま輪っかを明滅させる。


イッシは頷いて口を開いた。


「ソワンの言う通り、今のところ死傷者はいないようだが警戒が必要だ。特に合成獣キメラの動きがないのはおかしい。城門の方にはいないんだろう?」


彼の質問にフォルトウーナロッソとフェアンがそろって「はい」と答える。


「ロウビル公爵軍の幹部に張り付くか、クルオーツ少将のソーサラー部隊にいた合成獣キメラたちだけど、いつの間にか少数を残して姿を消しているわね。どこで何をしているのやら・・・」


広域念話帯エロズィオーンにおいても情報は聞かれません」


そうですか、とプルミエは少し考えると、


「ベルデを呼べますか? 拡大索敵をさせましょう」


そう言ってフェアンを見る。


「分かりました。聞こえるか、スミレ、ちょっとベルデを連れて戻って来てくれないか」


彼女がそう言うと、少ししてからベルデを連れてスミレがテレポートして来た。


「待たしちまったな。アッチもばたばたしててな」


「なんでしょー、ますたー? むこーもー、そろそろ、おおづめですー。ごあんしんくださいー。あ、でもー、はやめにもどらないといけないかもー」


少女たちの言葉にイッシは謝る。


「すまないな、忙しいところを。敵軍の合成獣キメラの姿が見えない。念のために拡大索敵をして欲しい」


とんでもないですー、とかぶりを振るとベルデは「とりゃー」と言ってバンザイのポーズをした。


見えない魔力の波動が周囲数十キロにわたって広がる。


「おおー?」


ベルデがこてん、と首を傾げるのを見て、フォルトウーナロッソが「どうなのよ?」とれた様子で尋ねた。


「さかのはんたいにー、てきえーありー。壁をのぼってきてるいるとーおもわれるー」


少女の言葉にイッシは思わず立ち上がりプルミエを見る。


プルミエの方もイッシの方を見ていた。


「また原始的な手段を・・・。裏側というと一番近いのは厨房か?」


「はい、コックのセルビトラたちがいる辺りですね」


彼はプルミエの回答を聞いて少し考えた後、


「何でも料理しようとする料理馬鹿たちだからなあ・・・。採取とか言って無茶しそうだ。助けに行くか?」


そう言ってスミレの方を見たのである。


・・・

・・


「ほらー、そこつまみ食いはダメよー。前線のお腹を空かせたたちに早く持ってってやんなくちゃいけないんだからねー!」


「もぐもぐ。はーい、セルビトラ料理長~、了解でーす」


少女たちは広い厨房を所狭しと駆けまわっていた。


10人はいるだろうか。


包丁を振るう者、ジュージュー鳴るフライパンを見張る者、スパイスを振り掛ける者と多種多様である。


そう、彼女たちこそホムンクルス王国の台所を預かるコックたちであった。


そして、茶髪をポニーテールにした少女こそが彼女たちのリーダー、No.0321のセルビトラ料理長である。


最近、大量の新鮮な人間の血を入手した彼女は、新たな料理の開発に余念がなかった。


もちろん、そのまま飲むだけでも生きためだけなら十分である。


だが、より美味しいものを! よりバラエティーに富んだ味を! より幸福な時間を! という料理人としてのさがが彼女たちを否応なく駆り立てるのであった。


「50人分、新しく出来たわよ! ほら、持って行ってやんな!!」


今、セルビトラたちが作っているのは、城の人間たちの血を混ぜ込んだ、鶏肉と葉菜ようさいのサンドイッチである。


それがかごにに積み上げられていた。


一人の少女がその籠を抱え上げると、急ぎ足で戦場へ駆けて行く。


その後姿を見ながらセルビトラは溜め息をいた。


「悪食のトロペがいるからね~。あの、美味しそうに食べてはくれるから普段なら作りがいがあるんだけどねえ。今日みたいな日には全くコック泣かせだよ」


ほら、あと100人分行くよ! と気合を入れ直す。


周りの少女たちはからも「はいっ!」と元気の良い返事が飛んだ。


だがその時、彼女はふとぎ慣れない匂いを鼻にした様に思った。


料理人たるもの良い鼻と良い舌を持つことは当然である。


カーネの様に犬並みという程ではないが、セルビトラも尋常ではない嗅覚を持っていた。


「お前たち、何か感じたかい?」


またもやつまみ食いをしようとしていたスパイス係の娘が飛び上がって驚く。


「い、いえ料理長ー。まだ味見してません~。だから何も知りませんよー」


誤魔化すように笑う少女に、セルビトラは肩をすくめる。


「はあ、アンタたちもまだまだだね。ちょっと私は空気を吸いに行って来る。腹を空かせた娘たちがいるんだ。さぼらずに料理を続けとくんだよ」


彼女はそう言うとコック帽を近くの棚の上に置くと、エプロン姿のまま勝手口から出て行った。


「・・・なんだか知らないけどチャーンス!!」


少女たちが鬼の居ぬ間に、と料理に手を伸ばそうとした時、


「ただし、つまみ食いは厳禁だよ!!」


勝手口から頭だけ出してセルビトラの注意が飛んだ。


「はっ、はーい。もちろんでーす!」


少女は苦笑すると、今度こそ匂いのもとへと向かうのであった。

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