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73.ロウビル公爵軍の華麗なる軍議

「グラリップよ、何度もすまぬが、もう一度ホムンクルスどもが城塞に現れた時のことを教えてくれるか」


けわしい顔をしてロウビル公爵が口を開く。


その息子であるサリュートも深く頷いた。


少しでも情報を得るために、何度目かの聞き取りをグラリップに行う。


グラリップは快く「承知致しやした」と答えた。


「俺の部下が城塞から脱出し、早馬でもたらした情報です。ホムンクルスの化物どもはいきなり現れて殺戮を開始したんです」


「帝国はジルムの町の他にもホムンクルス兵を隠しておった。いつの間にそのような悪魔の大軍を幾つも・・・。いや、それはまあ不可能ではない。しかしな・・・」


ロウビルは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「何百という化物どもが城塞内に突如現れた、などというのはまことなのか? やはり何かの見間違いではないのか? 誰かが手引きしたという方がまだ信じられる」


その通りですな、とクルオーツが言う。


「確かに出陣前に城塞へ侵入された痕跡があったとは聞いてはおりました。ですがアレは帝国の極めて高度な訓練を積んだスパイによる仕業だと結論したはずですぞ?」


その言葉にグラリップは冷静に答えた。


「皆さんのおっしゃられている通り、俺も最初聞いた時は信じられなかった。ですが、部下の報告はいちいち詳しかったんです。ありゃ、実際に見ていなきゃ語れん内容でした。そいつは新人でしてな、あの日は偶然、城門の上にあるやぐらの見張り当番だったそうです」


彼の言葉に皆、耳を傾けている。


「そいつが気づいた時には既に化物たちは訓練場にいたそうです。何百、いやもしかしたら千はいたのではないか、とのことでした。いずれも不気味に輝く金色の瞳、ホムンクルスで間違いありやせん。もちろん、城門は一切開けておりませんでした。そいつは化物どもを発見した時、咄嗟に物陰に隠れたのだそうです」


何度聞いても臆病なことだ、と呆れた様子のクルオーツの言葉を聞き流し、グラリップは続けた。


「新人ということもあり恐怖が勝ったと正直に申しておりました。すぐに奴らの非道な虐殺が始まったそうでしてな、その者は恐れをなして櫓から飛び降り、難を逃れたそうです。その際、大怪我を負いましたが何とか街で馬を調達し、昼夜を問わず俺のところまで駆けて来たという訳です」


「しかしなあ・・・」とサリュートは首を傾げる。


「そのホムンクルスどもが城塞に現れた方法というのが、私にはどうも信じられんのだが・・・」


彼の言葉にグラリップも「気持ちはわかりやすぜ」と応じた。


「俺も最初、部下を疑いやした。なんせ”空からホムンクルスどもが現れた”。そう言うんですからね。だがソイツは”門が閉じてた以上、それしかない!!” とかたくなに言いやがるんです。確かに一理ありやした。それで俺はふとある事を思い出したんです。クルオーツ少将から聞いた帝国に仕える魔法使いの存在をね」


クルオーツが「ううむ」と悩まし気な表情をする。


グラリップは自分の勘を確信するようにまくしたてた。


「そうです。かつてクルオーツ少将がおっしゃられていた魔法使いですよ! 自由に空を飛び回り、失われた禁呪すらも操る、恐るべき輩が帝国にはいると・・・。まあ、あくまで噂だとおっしゃられてはいましたがね。現実にそんな奴がいるとは到底思えねえと」


だが、噂ではなかったとすれば? とやや興奮気味に言うグラリップに、


「まあ、噂か否か、という点は今は重要ではあるまい」


と、ロウビルは冷静に言った。


「噂は噂にしか過ぎぬのじゃからの。だが、1000のホムンクルスどもが一斉に城塞へ現れた。この点は紛れもない事実なのじゃろうて。もはや、そう考えざるを得まい。じゃとすれば使用されたのは、恐らく広範囲への浮遊魔法・・・。それほど高度な魔法が行使されたとはにわかには信じがたいが・・・今は信じるより他あるまい。つまり、それが噂の人物なのかどうかはともかく、そうした手練れの魔法使いがいるのは紛れもない事実ということじゃ。だとすれば・・・」


彼は顎をさすりながら、


「その恐るべき魔法使いの急襲を警戒せねばならん、ということじゃな。幾らホムンクルスが攻めてこようとも、武にけた我らのこと。撃退することは容易たやすかろう。卑怯にも不意を突かれた城塞の兵たちとは違う。だが、その魔法使いは恐ろしい。空からの攻撃もありうる。それらを四六時中警戒し続けることは難しいじゃろう。人間である限りはな」


おっしゃる通りです、とサリュートが同意する。


「だからこそ、警備を強化して参りました。魔法使いの存在・・・半信半疑ではありましたが、グラリップ少将の強い進言もありましたのでね。昼夜を問わず、クルオーツ少将の製造した合成獣キメラたちに身辺を守らせています。ホムンクルスのような半端ものではなく、忠実な下僕であり腕も立ちます。また念のため糧秣も見張らせています」


うむ、とロウビルは深く頷く。


「不意さえ突かれなければ恐るるに足らん。このまま警戒態勢を維持せよ」


はっ、とサリュートたちは返事をした。


城塞を帝国の卑怯な奸計によって占領されてしまったとは言え、まだこちらには1万の兵が残っている。


1000のホムンクルス兵など恐るに足りぬし、邪悪な魔法使いなど撃ち落としてやる。


何よりも自分たちは長く王国の安寧を守ってきた。


そんな自尊心が彼らの心に火をつける。


「よし、兵も十分休んだじゃろうっ! 明日の朝にはラッガナイト城塞に到着するぞ!! 全軍しゅっぱ・・・」


「たっ、大変です、公爵様!!」


ロウビルが進軍の指示を口にしよう瞬間、天幕に一人の部下が血相を変えて駆け込んで来た。


「何事じゃ、こんな時に騒々しい!」


せっかくのセリフを邪魔されたロウビルが怒鳴る。


だがそんな叱責にもめげず、伝令兵は悲鳴を上げるように報告した。


「てっ、帝国兵の旗がッ! 帝国兵の待ち伏せです!! 数はおよそ1000!!」


「なんじゃとッ!?」


叫び声が天幕にこだました。

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