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71.謀略の時間

「分かっています」


だがプルミエはそれら指摘を予想していたとばかりに頷いた。


彼女が元帥に任命されたのはひとえにその能力ゆえにだ。


無茶な命令を大切な姉妹たちに下すつもりは毛頭なかった。


「マスターもその辺りはよく理解していらっしゃいます。敵軍の足に縄を付ける必要があるとおっしゃられていました」


その言葉にナハトはニコリと笑う。


「時間稼ぎか。また謀略の時間が始まるね。一番良いのは暗殺かな? すぐ終わるなら僕が行くよ」


だが、アルジェが大きくため息をついた。


「いや、それはどうかの。どうも暗殺をな、随分と警戒しておるようなのじゃよ。まあ、それでも断行するという選択肢はあるがのう」


彼女の言葉にナハトは「なんで!?」と驚く。


それに対してプルミエが口を開いた。


「原因は2つあります。1点目は参謀本部作戦”トワイライト”の過程において城塞へ侵入した際、敵兵を一人殺傷しました。残念ながらこの死体は回収する前に敵側に発見されています。彼らはそれを帝国の仕業だと勘違いしているようですが・・・。いずれにしても手練の暗殺者がいると思ったようですね。2点目は今回の城塞制圧作戦が原因です」


あー、とナハトは察した様に声を上げる。


「今回あれだけの人数が城塞にいきなり現れたんだもんね。テレポートの瞬間を見られちゃったかな?」


だがプルミエは、いいえ、と答えた。


「テレポートとは思ってはいないようです。第1発見者については、うまくカーネたちが始末してくれましたので。ですが違う形で情報が伝わったようですね」


マロンが言葉を引き継ぐ。


「敵兵の一人が城塞からうまく逃れたようなのである。そいつはどうやら、ホムンクルスが集団で浮遊して壁を超えて来た、と報告したようなのである」


クレールも口を開いた。


「テレポートとはさすがに思わなかった模様。1000近い集団を飛行させる程の極めて優秀な魔術師がいると誤認した様子。やや間抜け。ただ、個人的には暗殺はやめといた方が無難と進言」


プルミエが、「なぜそう思うのですか?」と尋ねる。


クレールは軽く頷きながら、


「簡単。百聞は一見。フォル、もう一度映像を出して欲しい」


はいはい、と彼女は言いながら四角形に切り取られた映像を宙に映し出す。


そこにはロウビル公爵や他の幹部を取り巻く兵士たちの姿が見えた。


剣士や魔法使いで編成された近衛兵たちのようだ。


それを見たナハトは「ふーん」と首をかしげ、


「確かに厳重な警戒はしてるし、一筋縄では行かなさそうだけど、僕なら何とかなるんじゃないかな?」


彼女の言葉にプルミエは同意するように頷く。


だがクレールは水色の髪を揺らしながら首を振った。


「彼らは純粋な人間ではないように見える。恐らくマンティコアと同じ種類の合成獣キメラ。統制も取れている」


そうですか・・・、とプルミエが口を開いた。


「再生能力のことは聞いています。ナハトとは相性が悪い部類ですね。アルジェもそうでしょう。逆にマロンやクレールならどうですか?」


その質問にマロンは「そうであるなあ・・・」と気乗りしない口調で答えた。


「こいつらなかなか厄介そうに思うのである。ただの雑兵なら良いのであるが、れっきとした剣士が混じっているのである。魔法合戦をしながら近接戦をこなすのは骨が折れるのである」


「僕と一緒に繰り出すとか? でも、それなら有利な城塞で大人しく篭城戦をするべきだよね」


そうじゃなあ、とアルジェも同意する。


プルミエは頷くと結論を下した。


「暗殺は実施しません。非常に魅力的なのですが・・・、スミレのテレポートの精度もあまり高くありませんからね。私の方で検討した別案がありますので、そちらの審議をお願いできますか?」


「なんじゃ、それを最初に言わんか」


アルジェが呆れたように口を開いた。


・・・

・・


「ますたーとおっさんぽ、たっのしーなー!」


緑の髪を長く背中に垂らした少女が上機嫌で歩いていた。


隣にはイッシもいる。


二人は手をつないで城塞の門の前に来ていた。


いつも忙しい彼と二人っきりでいられるというのは珍しいことである。


だからこそ、ベルデが歌いだしたのも無理からぬことであった。


「別に散歩というわけもでないが・・・、まあ、楽しそうならそれで良いか」


暗いよりは明るい方が良いに決まっている。


あと数日で戦争が再開されるのだ。重苦しい雰囲気は邪魔なだけであった。


「あー、ますたー! あそこにとりさんたちがいますよー」


そう言って嬉しそうに小枝こずえに留まった小鳥たちを指差す。


「おー、かわいい小鳥さんだなー。仲良しそうだなー」


イッシはニコリとしながら答えた。


「わたしたちみたいですよー、ほらー、おててつないでぷらぷらーん!」


そう言って繋いだ手をぶんぶんと振る。


どうやら嬉しくて仕方ないらしい。


これでミグサイドべりカ防衛戦の指揮官を務め上げたのだからホムンクルスとは分からい。


「よしよし」


彼も彼でニコニコとしながら話を合わせた。


その様子ははたから見ると仲の良い親子のようでもある。


だが、彼らは別に遊びに来ている訳ではなかった。

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