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67.玉座の間にて(後)

「ドラゴンの試乗は上手くいったみたいだな」


銀髪を揺らして死神アルジェは頷いた。


「さようじゃとも館様。ここにいるドラコで神話に聞く竜騎士とやらを再現してみたが爽快じゃったよ」


プルミエが肩をすくめて、


「細かい戦術は軍団長に任せてはいますが、城内でドラコを変身させるとは無茶をしましたね」


アルジェは「ふっふっふ」と笑った。


「まあ、それを試す意味もあってのことじゃよ。幸いながらドラゴンの短所も長所も実戦で知ることが出来た。のうドラコよ」


水を向けられて赤い髪をショートカットにした少女が頷いた。


「はい、アルジェ。狭い所は戦いにくかった。攻撃手段が限られる。あと肩がこる」


「それは何でだい?」


イッシの質問にドラコはやや緊張しながら、


「はい、我が王。城を壊さないように注意しないといけない。・・・からです。また周りを巻き込まないように尻尾にも神経を使う。・・・使わなければなりません」


「普段の言葉使いでいい。もう一度頼む」


彼の言葉にドラコはアルジェを見る。


頷くのを確認すると、いつもの調子で口を開いた。


「城を壊さないよう注意がいる。飛ぶことは論外。天井が落ちる。尻尾も気軽には振れない。背後の味方や壁を巻き込む可能性があるから。翼も羽ばたけば窓が割れる。だから不用意に動かせない。火球はサンソ? というのがなくなるから禁止。そうアルジェに言われた」


その報告にイッシは「なるほどな」と納得する。


「ではやはり屋内での戦闘は難しいということかな?」


しかしドラコは首を振った。


「そんなことはない。今のは短所だけ言った。かなり制約があるというだけ」


長所を述べる、と少女は続けた。


「ドラゴンの皮膚を傷つける方法は少ない。前衛にいるだけで後衛の味方がかなり安全になる。また前進するだけで拠点制圧が可能だった。あと、騎乗者次第では攻撃面の手数も増える」


「それからの、館様」とアルジェが補足する。


「何よりも敵へのプレッシャーが甚大なのじゃよ。戦う前に逃げ出したり、戦意を喪失したりしよるのじゃ。此度の戦いでもたちまち潰走かいそうしおった。戦わずして勝てるというのは他にない利点じゃよ」


その言葉を聞いて、イッシは「ふむふむ」と興味深げに頷く。


プルミエが「宜しいですか?」と口を開いた。


「かねてからの計画通り第1軍のもとに竜騎士団の創設を元帥として提案したく思います。アルジェ、準備は間に合いますか?」


彼女の言葉にアルジェは、


「もちろんじゃよ、姫。人選も一通り完了し訓練もだいたい終わっておる。今回は篭城戦という最高のロケーションじゃからの。せいぜい公爵軍を翻弄してやるとしようかのう」


そう答えて少女らしくニコリと笑ったのである。


・・・

・・


「へっ、間抜けな帝国軍どもが雁首揃えてやがる。よくもアレだけの人数を集めたもんだなあ」


勇者カザミは屋上から遠方の大軍を見下ろし、余裕の表情であざわらった。


彼がいる場所は山岳地帯に作られたセブパラレス砦であり、東からの帝国軍の侵攻を食い止めるための最重要拠点であった。


周囲には岸壁が高くそびえ立ち、天然の要害となっている。


この砦を突破せねばこれ以上、帝国は王国へ近づけないという訳であった。


勇者は改めて山岳の裾野を見下ろす。


そこには30万人にも及ぶ敵兵が隊列を組み、進軍開始の合図を待っていた。


前回の大敗北により権威を失墜したバキラ帝が、なりふり構わず国中から兵を募った結果である。


見れば明らかに年端もゆかない子供や枯れたような老人、少数民族であるエルフやドワーフもいる。


無理やり徴兵された者たちも少なからず存在するようだ。


だが、勇者カザミにとってそれは何ら攻撃をためらう理由ではなかった。むしろ・・・、


「俺はただなあ・・・」


彼は舌なめずりすると国王より下賜された聖槍ブリュ-ナクを掲げる。


そして、それに魔力を込め始めた。


眩い輝きが槍に集まり、やがて目を開けられぬほどの光を放つ。そして・・・、


「殺戮を楽しみたいだけなんだよッ!!」


そう叫んで聖槍ブリュ-ナクを敵の中央へと投げ込んだのである。


だが、それはただの槍投げとは次元が違った。


敵までの距離は数キロある。にも関わらずその距離を一瞬にして縮めた聖槍は、地面に刺さると同時に大爆発を引き起こしたのである。


「はーはっはっはっはっ!! 楽しいねえ!!」


大笑いを上げながらカザミは屋上からジャンプし、丸で跳ねるようにして単騎で敵へと向かう。


と、そこへ隣に並ぶ者が現れた。


常人では絶対について行けないカザミの動きに並走したのはバザル翁、そして剣士クワンガン、格闘家アレフ、神官マイの4人である。


バザル翁は持った杖を振り上げる。


そして、いきなり勇者カザミの頭に振り下ろした。


「痛ってええええ!! クソじじい!! てめ、何しやがるんだ!?」


「何もクソもあるか!!」


本気で青筋を立ててバザル翁が怒鳴る。


「カザミ、お前には篭城戦の意味が分かっておるのか!? あの堅牢な砦で奴らの士気が挫けるのを待つ作戦じゃと何度説明すれば理解するのじゃ!?」


だが勇者カザミは「けっ!」と言って歯牙にもかけない。

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