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55.ミグサイドベリカ防衛戦3 ~迫り来る1000人の傭兵部隊~

「ああん? おい、お前。あそこに人影が見えねえか?」


ミグサイドベリカ砦を制圧するために別働隊を率いるアギレスが馬上から部下に言った。


「はっ、そのようでありますね・・・。3人の・・・少女、でしょうか?」


その言葉にアギレスはにやり、と笑った。


「どうやら上の読みは当たりらしいな。見ろ、あの目の色。遠くからでもはっきり分かるぜ。おいっ!! お前たち、前方にホムンクルスがいるぞ!!」


彼の言葉に1000名の兵士たちがニヤリと笑い武器を構えた。


兵は全て傭兵により編成されている。


アギレスもまた、その腕を買われてロウビル公爵軍に雇われた元傭兵であった。


よって、部隊の気風も荒々しい。悪く言えば粗暴極まりなかった。


「間抜けな奴らだ! こっちの動きには全く気付かなかったらしい。もう間もなく砦だ!! 目の前の人形どもごと一気に押しつぶすぞ!!」


司令官の言葉に部下たちも「オウっ!!」と威勢良く応じた。


「へへへ、アギレス隊長ッ!! 約束通りホムンクルスどもは好きにしていいんですな!!」


部下の一人が質問してきたのでアギレスは鷹揚おうように頷いた。


そして、改めて部下たちへ大声で告げる。


「化物どもはお前らの好きにして良いッ。 焼くなる煮るなりするがいいさ! 自分で楽しんでもいいし、売ってもいい! 大金が手に入るぞ! さあ、早いモン勝ちだ!! 取りっぱぐれたくなけりゃあ、俺に続けええええええええッ!!!!」


金と女に目がくらんだ兵たちが「オオォォォオォオオオ!!」と雄叫びを上げながら突撃を開始した。


目の前の少女たちはこちらに気づいた様子だ。だが、もう遅い!!


猛猛たけだけしい男たちの最初の獲物として、その身体も、尊厳も蹂躙されてしまうだろう。


だが彼らのほとんどは気付かなかった。


彼女たちの金色の瞳が細められ、唇が美しく歪められたことに。


何人かの目の良い兵たちはその微笑みを見て取ったが、絶望ゆえのものだと思い込んだ。


だが、少女たちとの距離が半分程度になった時、突如としてそれは起こったのである。


カッ!! と、それまで晴れていたはずの空に雲が湧き出し、たちまち雷が落ちたのだ。


それはアギレスの部隊の近場に落ちたらしく、周囲に轟音と衝撃をもたらした。


「ぐあッ!! な、何なんだ急に!!」


雷鳴のせいで馬が逃げだし、落馬してしまったアギレスが泥まみれで叫んだ。


部隊も突然のことながら一時進軍を止めている。


だが、周りの状況を見て更に驚くことになった。


なぜならば雷は近くに落ちたどころではなかった。まさに部隊の真上へと落ちていたのだから。


落雷に晒された兵士たちの焼け焦げた死体が5つ、ブスブスと煙を上げながら無惨に横たわっていた。


人の体の焼ける嫌な臭いがたちまち周囲に漂う。


「な、なんでだよ。さっきまで晴れてたじゃないか・・・」


突然、広がった雷雲を見上げながら兵の一人が言った。


だが、彼らは気づかない。


3人の少女たちの笑みは更に深まっていることに。


そして、一人の少女がぽつりとこぼした言葉に。


「雷の生成に成功。引き続き気候の急速修正を行います」


その少女のセリフとともにポツポツと小雨が降り出したのだった。


・・・

・・


「ベルタンの気候変動のギフトは上手く作動したようじゃ」


狐耳をピコピコと動かしながらタマモが言った。


ベルタンは周囲に幾つもの球体を浮かべながら、彼女の言葉に微笑む。


「はい、成功して良かったです。精度が高くないのが玉にきずですけど。あと次の攻撃までは少しお時間を頂くことになっちゃいます」


彼女が青い球体を人差し指でつつくと、雨足が更に強くなり始めた。


それを見て白衣姿のナルコーゼが「くっくっくっ」と笑った。


「では次はわたしに任せてもらおうか。イッシさんのために人間種にだけ効く薬を開発してたのだよ。その製造過程で出来た副産物だ」


「そ、そうなのかえ? それはちと、危なくないのかえ?」


タマモが尻尾を立てながら問うとナルコーゼは鼻を鳴らした。


「ふふん、まあ見ててくれたまえよ。大丈夫、わたしたちホムンクルスには効かない」


「本当かのう・・・。前もそんなことを言って、フォルトウーナロッソが散々な目にあっていたような気がするが・・・」


「ふふふ、失敗は成功の元さ。アレは幸せな気持ちになれる薬のはずが、なぜか笑いが止まらないという効能に特化してしまっだけだ。すでに問題点は克服している」


「我が主からその後、破棄を命じられておったようじゃが?」


「ふむ。では行動を開始するとしよう」


「こやつ無視しおったぞ・・・」


ナルコーゼが白衣の内ポケットから栓のされたフラスコを取り出した。


中には赤黒い液体が入っている。


「ベルタン、風向きを操ることはできるか?」


「難しいこと言いますねえー。今、雨雲を操作してるので気圧のバランス調整が難しいのにー。できますけどね」


「なら風向きを南へ。敵に向かって吹かせてくれ。そよ風で良い」


「はいはい」


ベルタンは巡回する球体たちを優しく撫でた。


するとたちまち、風向きが敵側に変わった。


「では、ごろうじあれ!」


ナルコーゼはそう言うと、フラスコの栓をスポンと抜いた。


そして地面へその液体をぶちまける。


だが、周囲にはなんの変哲もないように見えた。


敵兵たちもすでに態勢を立て直しつつある。


突然の落雷は不運な出来事ではあった。しかし大勢に影響があるわけではない。


しょせん部下が数名、命を落としただけなのだ。


アギレスは獰猛な意志を取り戻す。


そして再度、突撃を命じようとした、その時。


「かぺ・・・」「んぎっ?」「げッ・・・!」


何人かの兵士たちが突然、血を吐いたのであった。

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