48.ラッガナイト城塞占領作戦3 ~死を呼ぶドラゴンナイト~
「委細承知したぞえ、ベルデよ。まあ、とりあえず1階におったネクロマンサーのトートモルテを呼んでくるがええ」
「何でか分からないッスけど、了解っす」
そう言ってアマレロが駆け出した。
「それからの、ラプソディーや。この前の歌をお願いできるかえ? 楽団を連れて、遅れて戦場へ来るがええ」
「えへ、分かったよ!!」
ラプソディーは音楽を奏でられると聞いて上機嫌で部屋を飛び出して行く。
「さて、わらわとベルタン、そしてナルコーゼでとりあえず時間を稼ぐとするかえ」
「私たちはのそれは雪と墨のようなギフトですが、疾風に勁草を知るとも申します。正念場ですね」
「しょーさんはいかにー?」
ベルデの質問にナルコーゼは軽く頷いて答えた。
「私たちも補助用のギフトしか持たない身だが、いちおう一桁ナンバーと言われる立場なのでな。多少の抵抗は可能だろう。とはいえ敵の数が多い。決定的な部分については、ともかくトートモルテを早く呼ぶことだ。何せこの場所は、ビブリオテーカから聞いた話だと・・・」
「私、何か言ったっけ?」
首を傾げる少女にナルコーゼは微笑むと、
「そのうちわかる」
と答えたのであった。
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「ふうむ、なかなか抵抗が強いの。先ほども部下の一人が死にかけおったわ。今はあやつのギフトのおかげでだいぶ回復しとるようだがの。ナハトよ、そちらのほうはどうじゃ?」
埃をかぶった銀髪を手ではたきながら、アルジェは遠方にいるナハトへ、フェアンの広域念話帯のギフトを通じて念話を行う。
「僕の方はサックサクだよー。怪我した子もいないし、そろそろ食料貯蔵庫も制圧できそう。ラクショーって感じだね!! あっ、でも別に油断してる訳じゃないから安心してね。それはグレーギンさんの時に反省済みなんだから!!」
「フム、そうか。こちらは武器庫へ向かっておるが、なかなか手厳しい抵抗にあっておる。時間の問題じゃろうが、今しばらくかかるであろう。もし余裕があるようならば館様と姫の部隊を支援されたい。玉座の間へと向かっているはずじゃ」
「了解!!」
と声が聞こえて念話が切れた。
「さてと」
アルジェは呟くと手に持った大鎌を軽々と持ち上げる。
前方には大盾を前面に構え、隙間から長槍を突き出したパイク兵が通路一杯に広がり隊列を組んでいた。
100人はいるだろう。
アルジェの部隊の少女たちが少しずつ敵の数を減らしてはいるが、一気に潰走に追い込めるほど圧倒的でもない。
こちらの方が数は多いのだが、通路の幅に限界があるために数の優位を活かせていないのだ。
アルジェがごり押しをしても良いが・・・。
「色々と勉強になるわい。やはり聞くのとやってみるのとでは大違いじゃな。これだけ戦力が優越しておっても、なかなか勝利とはならん。のう、そう思わんかドラコよ」
「別に思わない。私はずっと我慢している。そろそろ参加したい。肩がむずむずする。もう限界」
アルジェはドラコと呼んだ少女の方を見る。
すると彼女の雪のような白い肌の一部には鱗の様な物が生え始めていた。
また、服の下の肩甲骨の部分が蠢くように波打っている。
彼女の身に尋常でない何かが起きているのは間違いなかった。
「少しお預けを食らわせすぎたようじゃの。狭いから戦いにくくなると思って遠慮しておったが、うむ、ではもうよかろう。時間もかかるようじゃしのう」
彼女の言葉を聞きドラコはパァッと笑顔を見せる。
その微笑みは少女らしいかわいいものであったが、覗いた牙はあまりにも禍々しかった。
アルジェが大きな声で叫ぶ。
「第1軍団の皆、聞け!! アルジェとドラコが参戦する!! 巻き込まれぬよう注意せよ!!!」
彼女の言葉が念話にて第1軍団全員に届くと、「こりゃまずい」とばかりに今まで猛烈な攻撃を加えていた少女たちの波が一斉に引いて行く。
パイク兵からしてみればいきなり攻撃の手が引いたので一瞬戸惑う。
「なんだ? とうとう攻めあぐねて撤退するのか?」
そう考えてパイク兵の指揮官が攻勢に転じようとした矢先、
「グググググググググググルルルルルルルルルルルオオオオオオオオオ!!!!」
という、城全体を震撼させる獣の如き唸り声が響き渡ったのである。
その声は周囲の窓ガラスを砕き、一部の兵士はそれだけで戦意を喪失してしまう程であった。
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「グググググググググググルルルルルルルルルルルオオオオオオオオオ!!!!」
突然、鳴り響いた咆哮に、パイク部隊の老練なる隊長、シザールは心臓が押しつぶされるような圧迫感を受けた。
隣の兵などは足がすくんでしまい、尻餅をついたまま立ち上がることすらできない。
金色の気味の悪いホムンクルス兵が突如攻め込んで来たのが数時間前。
自分たちは防御を固めることで耐えに耐えた。
そうして、ついに相手が諦めたのかと思った瞬間、凄まじい唸り声が鼓膜を震わせたのだ。
「一体、これは何事なの・・・だ・・・」
彼がつぶやきながら前方を見た時、最初自分の見たものを理解することができなかった。
いや、それどころか悪い夢を見ているのだと、まじめに考えたくらいだ。
だが、鼻をつく死の匂い、立ち込める熱気、肩から流れる血は本物だ。
ならば、目の前の光景も本当なのだろう。だが、なぜ、どうしてなのか。
「な、なぜだ!? なぜレッドドラゴンがラッガナイト城にいる!?」
シザールがそう絶叫した瞬間、ドラゴンの口から放たれた火球が辺り一帯を吹き飛ばしたのである。