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44.ラッガナイト城塞占領作戦1 ~強襲~

兵站と言っても本来の役割である糧秣りょうまつの確保は、イッシの血を貯めた物を回せば事足りる。また武器もそれぞれのホムンクルスがそのギフトに応じて所持していることが多い。


兵站部隊が確保すべき物資は少なく、いずれも町から徴用することで足りてしまった。


このような経緯から、兵站部隊の役割は食糧確保という本来任務ではなく、完全に諜報や謀略、奇計といった側面に偏っていたのである。


従って、彼女たちは必ずしも前線に張り付いている必要はないのであった。


「さて、それじゃあそろそろ行くか。フォルトウーナロッソ、敵の進軍の具合はどうだ?」


「はい、イッシ様。既に全軍が7日前に城を出発しており、バームトロール平原へ接近しております。数はおよそ1万。ものすごいスピードです」


「そうか、作戦通りだな。それで、城の中はどうなっている?」


「多少の兵は残っていますが、こちらの戦力で強襲すれば、少しの被害もなく占領することができると思います」


それを聞いてイッシは下知を下した。


「分かった、ではスミレ」


「ハイッ、兄様、準備は完了しております!!」


そう言うと彼女足元に大規模な魔法陣が紫の光を放たれる。


そして瞬く間に堂全体を包み込んで行った。


「ラッガナイト城塞都市の攻略計画、その第一段階を発動する。兵站部隊を除く912人の集団テレポートを敢行せよ! 城内を制圧する!!」


・・・

・・


その日の光景について、都市の住民はよく晴れた気持ちの良い朝だったと回想している。


そう、ラッガナイト城塞都市に金色の瞳をした化物たちが突如として現れるまでは。


異変に気づいたのは警備の者でも出入りの商人でもない。たまたま王国より来ていた使いの者であった。


帝国が東に兵を集めていることを受けて、もしもの時は援軍を出すようにという王の親書を届けに来たのである。


だが、なぜか城内はピリピリとした雰囲気に満ちており、ロウビル公爵や嫡男のサリュートなど、主だったメンツがなぜか姿を見せないという奇妙な状況であった。


担当者からは二人が流行病はやりやまいにかかったため面会できない、という説明を受けた。


だが、どうにも何か隠しているように思われてならない。


それに、城内もいつもと比べて人が少ないような気がする。


確か以前来た時は、もっと厳重で物々しい雰囲気であったはずなのだが・・・。


とはいえ、彼は使者としてそれ以上追求することは出来なかった。


親書を公爵に直接渡せる状況になるまで城内に留まるしかなかったのである。


そして、彼が2日間を城内で過ごした頃、突如として奇妙な光景を見かけることになった。


彼の泊まっている客室からは、ロウビル公爵に仕える騎士たちの訓練広場がよく見える。


ここ数日は誰もそこを使う様子も見せず、それはそれで不思議だったのだが、その日は更に不思議な光景を目にすることになった。


彼が昼食を終えて窓から広場を見た時、千にも届く程の少女たちの集団が、そこに佇んでいたのである。


そして彼女たちを率いるように、黒髪の若い男が先頭で何かを指示しているようだった。


遠くて何を言っているかまでは分からない。だが、一つだけ気づいたことがある。


「金色の瞳の化物・・・?」


そう、普通なら見かけることすらない邪悪な色をした瞳である。


奴隷か、もしくは壊れた状態でしか見かけたことのない人形だ。


彼が何かの間違いかと思って目を擦り、もう一度広場に目を向けてみると・・・、


「なんだ、やはり錯覚か」


そこにはただの広場が広がっているだけであった。


彼は安堵してほっと息をく。


だが、次の瞬間、ごとり、という音を聞いて視界がぐるぐると回った。


(なんだ? おかしいな?)


そう思って手足に力を入れようとするのだが、なぜか思うように力が入らない。


丸で地面に転がるように視界が天井と床を往復する。


そうしてやっと止まると、彼の目には天井が映っていた。


(何が・・・どう・・・な・・・)


一体自分に何が起こったのかと考えている内に、視界が暗くなってゆく。


やがて間もなくその意識は永遠に途絶えた。


・・・

・・


「目撃者を始末しました。聞こえておりますでしょうか、アルジェ隊長殿」


「よう聞こえておる。参謀本部のフェアンの”念話”のギフト、感度良好のようじゃ。わしらも城内へ侵入した。抵抗は軽微じゃ。各自、報告を怠らぬようにな。あと死ぬな、と我が館様が隣でしつこくおっしゃっておる。その下知に従うようにの。No.0085、カーネ連隊長よ、分かったかの」


「御意、であります。こちらから敵の匂いが濃厚に漂っております。カーネ連隊、突貫いたします!!」


「待て待てっ!? お主、本当にわかっておるか? まあ良いわ。くれぐれも気を付けよ。貴様に肩にかかっておるのは自らの命だけではない。部下4人の命も担っておることを忘れんことじゃ。では健闘を祈る。館様にこの城を捧げよ。オーバー」


ハッ、と言って誰もいないにも関わらず敬礼をするカーネを、部下の4人は生暖かく見守っている。


「で、これからどうするんや? 隊長はん。建物の中に入ってもうたら私のギフトでも、あんな早い動きはもうできひんから用心していかんとな」


No.0111、ラピッダが、短めに切り揃えた茶色の髪を撫でつけながらそう言った。


目撃者の男は高層階にいた。


そこに一瞬で辿り着けたのは、ラピッダの健脚のギフトと、別の少女のギフトを組み合わせて使用したからであった。


「そうだな、用心していかないとな」と頷く他の3人に対して、カーネは「任せるのであります!」と言って胸を叩いたのである。

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