29.聖女プルミエ
「で、では、クレール、マロン、前に出よ」
「承知、了承」
「言われるがまま参上つかまつるのであーる!」
イッシは姉妹型ホムンクルスの二人に向けて口を開く。
「二人には大魔法使いとしての働きを見せてもらった。その証としてペアのトルマリンの髪飾りを授ける。そして同時に魔将軍に任命する。100のホムンクルスを編成し、元帥のもと、魔法専門部隊をまとめよ。地位は左、右将軍の同格である」
「拝命、イッシの言葉を我が唯一の命として受領」
「了解したのであるっ! まずは魔法系ギフトを持つ子たちをリストアップするのであーる!」
そう言ってお互いに髪飾りを付け合うと、元の場所へと戻っていった。
さて、最後は少し多くなるが・・・。
「ベルデ、フォルトウーナロッソ、アマレロ、マリゴールド、スミレは前へ」
はい!という声とともに5人の少女たちが前に進み出た。
「5人には今回の戦いにおいて敵軍の情報収集、地形把握、潜入調査、急襲離脱、大量輸送など多岐にわたる働きをしてもらった。その貢献は大きい。これらの活躍をたたえ、ここに守護者の証としてフローライトのペンダントを授ける。そしてお前たちには軍の兵站を担ってもらう。所属は参謀本部で階級は少佐とする。名前を読んだ順番が先任である。ところで、この世界の一般的知識ではどうだが知らないが、兵站部隊はもっとも軍事において重要な部署だ。もう少し言えば、お前たちの働きが今回の戦争の趨勢を決める。心してかかれ。空間把握、遠見、変身、透明化、テレポートは全ての戦争において切り札になるだろう。元帥府直轄の参謀本部にて、プルミエのもと90人の兵站部隊を編成せよ」
「了解しました!」「お任せ下さい!」「分かりましたわ」といった声が響き、それぞれが受け取ったペンダントを身につけると元の場所へと戻っていった。
(ふむ、これで今回の叙勲は全員完了だな)
そう思って肩の力を抜くと、正面の一番前に立っていたプルミエが改めて前に進み出る。
(おや、こんなことは打ち合わせになかったはずだが?)
そんなことをイッシが思っている間にもプルミエは彼の前まで歩いてくると、
「王様、せっかくの機会でございますので少し訓示を述べてもよろしいでしょうか?」
と言ってきた。
なるほど、たしかに全員がこうして一堂に会する機会などそうあるものではない。
軍隊の発足という機会に皆のモチベーションを高めるのは悪くない案である。
そう思ってイッシは気楽に頷く。
するとプルミエは振り返ると高らかに歌い上げるように語り始めた。
「ホムンクルスの皆、よく聞きなさい。今ここに王国の開闢はなりました。ですが、これは私たちだけで成し遂げたことではありません。これまで築き上げられた私たち姉妹の屍なくしてありえなかったことなのです。私たちが無窮にわたり人々から刻まれてきた痛苦があったからこそ、マスターは私たちを見つけて下さり、そして慰めてくださったのですから」
その言葉はまるでシスターの語る聖句のように響く。
「そうして今やマスターは、私たちの王となり、こうして一緒に戦って下さる。今でも忘れません。マスターは私にこうおっしゃられました。君たちは自分たちのことを人形といった。だが、君たちのように優しくて美しい者が生き物でなくて何だろうか、と。これはつまり、この世界の人々が私たちを生き物と見ていなかった中で、マスターが初めて私たちを生物として発見して下さったということなのです。そう、私たちはその時から、この世界にただの生き物として誕生することができたのです」
滔滔と語る言葉に少女たち全員が引き込まれてゆくのが分かった。
(アジテーターの才能もあるようだ)
などと、イッシは少し別の感想を浮かべていたのだが。
「私たちがただの生き物であるならば、私たちが人形ではなく、ただのホムンクルスという種であるならば、人間からの攻撃や圧迫、重圧や痛苦に抵抗することは至極自然な行為だと言えましょう。だからためらう必要はありません。今回の戦いがどういった結末を迎えるのか、それは私にもわかりません。王であるマスターでさえ預言者ではありません。私たちは苦痛の内に倒れるかもしれないないのです」
悲嘆するような声で言ってから、「ですが」と力強く語る。
「そのようなことは問題でないことを私たちはよく知っているはずです。私たちが滅びるとき、それは生き物として死ぬのです。人形として壊されるのではない。これまでの歴史上、一度としてなかった、ただ生存競争の結果としてこの世界に屍をさらすのです。それだけでもホムンクルス1000人が人間たちに挑む意味があります。さあ、マスターとともに最後まで歩みましょう! 自由と平等を手に入れるために。あとついでに、イッシ様にこの世界の全てをプレゼントするためにッ!」
最後の言葉に「へっ?」という声をイッシが上げるが、その言葉は少女たちの歓声に打ち消されるのであった。