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27.ウェハル家の闇

「父上、これが本当ならばかなり厄介なことですな」


口ではそう言いながらもまだ30を超えたばかりに見える若き元帥サリュートは、皮肉気に唇を釣り上げた。


公爵の息子という七光りだけでその地位に就いたわけではなく、王国の騎士学校を主席で卒業した彼は、自他ともに認めるロウビル自慢の息子であった。


実際、彼にはやや自身の出来の良さと卓越した剣技を鼻にかけるふしもあったが、それは貴族であればある程度は持ち合わせている矜持きょうじであり、その秀麗な容姿も相まって社交界で日夜話題に上るほどであった。


彼は少しくすんだ金髪の髪をかき上げると「ふむ」と頷いた。


「これを持って来てくれた伝令兵はディアンの側近グレーギンが使わせた者とのことですね。自分に万一があったときは、この者がこの書状を我らに届ける手はずになっていたようです」


うむ、とロウビル公爵は言った。


「詳しい事はまだ分からん。先ほど手飼の斥候を放ったので数日で詳細がしれよう。しかし、そうのんびりともしているわけにはいかぬ。その理由が分かるか、サリュートよ」


その質問に、もちろんです、と彼は微笑みながら答えた。


「北部州は帝国からの侵略にまだ晒されておらず、それをやっかむ恥知らずな貴族がおおございます。その最中に内乱、ましてやホムンクルスのそれともなれば、われわれの統治能力に問題があると糾弾する機会をみすみす与えることになるでしょう」


「その通りじゃな」


ロウビルは息子に政治の才がある事を喜ぶと、すぐに表情を引き締めて口を開く。


「では次にやるべき事も自然と知れような」


「はい、秘密裏にジルムの町へと向かい、ホムンクルスたちを皆殺しにいたします。いえ、皆殺しにするだけでは証拠が残ります故、残念ですが目撃者である町の住民ごと焼き払うことと致しましょう。無論、すべての目撃者を殺しつくすことは難しいかもしれません。既に町を出た者もいるでしょう。ですが、決定的な証拠さえ残らなければ何とでも言い逃れができます。無論、国王への賄賂わいろは、今まで以上に増やさねばならないでしょうが」


自分が考えていたことと同様の結論にサリュートが辿り着いたことに満足しつつ、ロウビル公爵は一点だけ補足した。


「ホムンクルスどもや町を跡形なく燃やしつくまでは良い。だが忘れてはならんぞ。今回の一件、どうやらフルテラ・イッシという若者が人形どもを焚きつけて起こしたそうじゃ。こやつを捕え、処刑することも肝心な点になる。逃せばいつまた再び、邪悪なる者どもを率いて、我らに反乱を企てんとも限らんからの」


その言葉にサリュートは忌々し気な表情をして頷いた。


「まったくです。唾棄だきすべきホムンクルスたちを率いて王国に弓するなど、まともな人間のやることではありません。捕まえた後は拷問の上、惨たらしく死んで貰う事としましょう。無論、王国に見付からぬよう、我らウェハルのみが知る地獄の監獄の中でね」


そう言うとサリュートは恍惚とした笑みを浮かべる。


彼は誰にも言えぬ秘密として、人を拷問するのが好きというサディストの性癖を持っているのであった。


特に綺麗な少女や若い男性が苦悶にのたうち回るのを見るのが好きなのである。


届けられた手紙によればフルテラ・イッシは年若い、どこか中世的な男性とのことだ。


(きっと良い声で鳴いてくれるだろう)


サリュートは悪魔の軍団を率いるイッシを拷問にかける未来を予想し、舌なめずりするのだった。


・・・

・・


「はて、何だか背中に悪寒が走ったな。夜になって少し冷えて来たか?」


そう言ってイッシは窓を閉める。


そこはかつてディアン町長が私室として利用していた部屋である。


他の部屋にはホムンクルスの少女たちが何人かずつに分かれて寝室として使っていた。


それはジルムの町の戦争に参加していたメンバーだけでなくホムンクルス全員が、である。


(バカみたいに広い役所で助かった)


ちょうどグレーギンの傭兵部隊との戦闘に勝利を収めた直後、スミレたちが町の外に集団テレポートにより移動してきたのである。


そして、堂々と町の目抜き通りを歩きイッシたちと合流したというわけだ。


戦いの一部始終を見ていた住民たちは恐れおののき、そのホムンクルスの大群に手を出す事もできず、ただ自宅へと逃げ帰ったのであった。


そんな風にして新しい拠点での生活が始まったわけだが、数日たっても住民との交流はない。


まあ、狙い通り恐怖を植え付けることに成功したということだろう。


(しばらくは、ちょっかいは掛けて来そうにはないか・・・)


とはいえ、そのうち恐怖が薄まれば、こちらへ報復して来るに違いない。


そう考えるとなかなか面倒に思えて来る。


何か和解というのも考えた方が良いのだろうか?


「彼らにほんの少しだけでもホムンクルスを受け入れる気持ちが芽生えないものかなあ」


その呟きに、いつもそばに控えているプルミエが美しい微笑みを浮かべながら、


「別に宜しいのではないですか?」


と答えたのであった。

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