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25.ジルム町での決戦(中)

『デ・ギネス・エレ・アラヤ。ラ・ギネウスミル・パラヤ。ゴドネス・ウ・デモアール』


その声に呼応するように、それぞれが持った書物から魔力の奔流と思われるオーラが立ち上る。


姉のクレールの書からは聖なる粒子が巻き起こり、一方の妹マロンからは禍々しく狂気じみた気配が周囲に満ちて行った。


正反対のオーラであるが、両者は当たり前の如くその魔力を融合させて行く。


全く逆の魔術属性から、ひとつの魔法を完成させようとしているのだ!


「まさか、融合魔法、とでも言うのかっ!?」


そうグレーギンは思わず叫んだ。


融合魔法とは大陸でも使える者は数人といない、秘儀中の秘儀とされるものである。


グレーギンが帝国で傭兵をしていた時、偶然にもその話を耳にした事があった。


なんでも帝国最強の魔術師が、その融合魔法の使い手であるとの事であったが、その姿を見た者は誰もいないという伝説的な存在だった。


(それが、馬鹿なッ! そんな幻の魔法をこんなホムンクルスどもが扱える訳がっ・・!!)


だが、その魔力は本物であり、地面には光輝を放ちながら、大規模魔方陣が複雑な紋様を描きながら展開される。


融合魔法なのかどうかはともかく、かなり強力な魔術が行使されることは間違いない!


「くそっ、てめえら真正面から行くんじゃねえッ! 射線上から離れるんだ!!」


だが、その声は少しだけ遅かった。


『ガイガス・ド・アラヤ。告げる正邪なるアデキ、対立ののりを曲げ、我が前の敵を打ち滅ぼせっ!』


その宣言と共に、二人の目の前に恐ろしいほどの魔力が集中した。


そして次の瞬間、その魔力が一斉に解き放たれたのである。


魔力の塊は傭兵たちを何十人も巻き込みながらほとばしり、地面への着弾すると大爆発を起こした。


やがて煙が晴れると、そこには底すら見えない大規模なクレーターが作られており、100ではきかぬ死体が周囲に焼け焦げた状態で散乱しているのであった。


だが、そんな大変な状況を引き起こしたにも関わらず姉妹は、


「もう一発いくである。だいぶ手加減した初級魔法だったために威力が今一つなのである」「同意」


という会話を繰り広げており、イッシからはストップをかけられていた。


だが、そんな圧倒的な戦力と戦局の推移は、しばしば勝っている側に慢心と油断を引き起こすもの。


そう、爆発の余波から逃れ、立ち上る粉塵に紛れるようにして、100人斬りのグレーギンが秘かにイッシの方に迫っていたのである。



・・・

・・


「今の魔法でほとんどの敵は死んでしまうか重傷を負ったようだな」


イッシの言葉に、マロンとクレールは手をつなぎながら大きく頷いた。


「全く持って余裕だったのである。まだまだ暴れたりないのであーる」

「同意。だが今次戦争で私たちの出番は終了。次戦まで待機」


そんな呑気な会話を繰り広げるイッシの背後に、素早く迫る人影があった。


爆発の余韻に紛れながら一切の気配を消し、ホムンクルスたちの首魁ことフルテラ・イッシの背後へと肉薄したのは100人斬りのグレーギンであった。


彼は暗殺者のごとく密かに迫り、彼の首を狙ったのである!


イッシがそれに気づいて振り返ろうとするが一歩遅かった。


そう、なぜならば、どう見ても武器なぞ振るえそうにもないプルミエが、仮にも100人斬りと謳われたグレーギンの剣を、片手に持ったナイフでやすやすと受け止めていたからである。


「なっ、何だと!?」


今日一番の驚愕に目を剥いた男に対して、プルミエは涼やかな表情で言った。


「よく皆さんに勘違いされるのですが」


そう言いながらグレーギンの剣を腕力だけで押し戻す。


「な、なんだとっ!? 俺が押し負けるッ!?」


悲鳴を上げる男に構うことなく、プルミエは言葉を続けた。


「私たち1000人のホムンクルスの中では私が一番、総合力では強いんですよ。速さではアルジェに負けますし、腕力ではナハトにかないませんけど」


グレーギンは押し負けると感じて一旦大きく飛び退くと、再度大きく振りかぶって、プルミエに斬りかかる。


すると今度はプルミエは手で直接、その剣を受け止めた。


しかもその受け止め方は人差し指と親指で摘まむようにして、だ。


それで完全にグレーギンは剣を動かすことができなくなってしまった。


「そんな・・・こんな・・・馬鹿なことが・・・」


今までの常識が崩れ去るのを感じて、グレーギンはとっさに剣を放り出すと、踵を返して逃げ出そうとするが、振り向いた先にはなぜかプルミエがいた。


そう、彼女は実に単純なことに素早く彼の後ろへと回り込んだのである。


「お、お前たちは一体何だッ! ホムンクルスごときになぜそんな真似ができるっ!? 聞いたことがないぞ。そんな力が宿っているなどとッ!?」


そうですねえ、とプルミエが微笑んで答える。


「セイラム様の邪神アデキ様復活のために付与された「ギフト」という新しい力ですので、貴方たちが知らないのも無理はありません。ねえ、マスター」


その言葉にグレーギンが思わず後ろを振り向くと、イッシが剣を抜き放っていた。


「てっ、てめえはこの化け物どもを率いてどうしやがる気だ。この世界を破滅させようってのかっ!?」


その言葉にイッシは、


「おいおい、そんな野蛮な真似をするわけがないだろう」


そう言って馬鹿にするようにして溜め息をついた後、


「まあ、確かに勘違いをしているこの世界の人間たちを再教育してやるつもりではあるがな。ちゃんとホムンクルスたちを人間扱いをするように。そのためにはまず、この王国をのっとる必要があるが」

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