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20.グレーギンの逆襲

「迎え撃つ場所はここだ」


そう言ったのは1000人のホムンクルスの少女たちの王、イッシである。


周囲を取り囲むのはプルミエ、アンジェ、ナハト、アマレロ、マロン、クレールの6人だ。


マリゴールドは別行動中である。


イッシはこの町の地図を机の上にひろげて、その1点を指さした。


そこは今いる役所から徒歩5分程度の場所にある大広場である。


確かに決戦をするには悪くない場所と言えるが、


「しかし、こちらは敵に対して少人数になると思われます。こういった戦いでは籠城戦、というものを行うものだと、セイラム様から頂いた一般知識にはあるのですが・・」


プルミエの言葉にイッシは「そういう考え方もあるな」と答えてから、「しかしそれでは駄目だ」と首を振った。


「なぜならば今回のこちらの戦力を分析した場合、必ずしも有利とは言えないからだ。アルジェの死神の鎌やマロンとクレールの魔法は使用しにくいだろうし、俺の剣も振り回し辛い。それに今回はどうしても外で戦う必要があるんだ」


「必要、でございますか?」


そう問いかけるプルミエに彼は頷きつつ、


「そうだ。威圧、だよ」と呟いた。


その言葉にプルミエは「なるほど」と頷くが、他の少女たちは首を傾げてしまう。


だが、イッシは構わずに言葉を続けた。


「そう威圧だ。恫喝、とも言うかな。プルミエ、僕たちが今後、戦争を進めるに当たって絶対に必要でありつつも、どうしても達成が困難な課題がある。それは何か分かるか?」


彼女は悩むことなく「はい」と答える。


「兵が集まらないということでございますね。私たちはホムンクルス。邪悪な存在とラステルの教義にも謳われる存在です。手を貸そうとする人間はもちろんいないでしょうし、傭兵すらも雇われることをこばむやもしれません」


正解だ、と彼は頷く。


「僕たちはたった1000と1人でこの戦争に勝ち続けないといけない。きっと、数で相手を上回ることは、今後一度としてないだろう」


戦争とは数の暴力であり、数の理論だ。


プルミエに植え付けられた知識には少なくともそうある。


ならば、それに優越できないということは、この戦いに未来などないという事なのだろうか?


少女たちが顔を見合わせ、不安そうな表情をし始める。


だが、そんな悩ましい問題を、王の声は一瞬にして吹き飛ばしてしまった。


「だが、まあそれは作戦次第で何とでもなる。大した問題ではない」


「へ?」


と少女たちは思わず声を上げるが、イッシは構わずに続けた。


「むしろ問題なのはともかく単純に人手が足りない、ということなんだ。つまり、全体に目を行き届かせることができないから、町をきちんと占領することなんて出来やしない」

 

「成程である」、とマロンが腕組みをしながら声を上げる。


「つまり、公衆の面前で相手を見事打ち倒すことで、我々に心酔させようという魂胆なのである。さすが、ご主人なのである」


「マロンは正座。話を聞いていないかの発言。明らかにそれは無理。推定は誤認。むしろ余計な行動を抑制こそ目的」


妹の言葉を否定した姉のクレールに対して、「その通りだ」、と言って頭を撫でる。


特に反応しないのは嫌がってはいないということだろうか?


「せめて町の住人たちには余計な行動をしないように恐怖を植え付けておこう。でないと次の戦争の邪魔になるからな。今できることと言えばそれくらいだ。彼らが君たちに公平に接するようになるには、長い時間をかけた再教育が必要だろう。だがそれはこの王国との戦争に勝利してからの話だ」


ああ、あとそれに、とイッシは付け加えた。


「この建物を新しい拠点にしたいと思う。前の砦も悪くなかったが、この建物は無駄に広いし、豪華だからな。今回の戦いで籠城すれば少なからず損壊してしまうだろう。それは少しもったいない。人間たちの文字通り血税で作られた建物だ。せいぜい大切に使わせてもらうこととしよう」


そう言った次の瞬間、いきなり扉がひとりでに開き、そしてまたすぐに閉じた。


入ってきたものの姿はない。


だが、うっすらと花の蜜のような匂いがイッシの鼻をくすぐる。


「戻ったのか」


彼の言葉に、空気が僅かに動くような気配がしたかと思うと、いつの間にかマリゴールドがイッシの前にたたずんでいた。


「それでどうだった。町の様子は?」


そう、マリゴールドは透明化して町の状況を調査するように、イッシから特別の命令を受けていたのである。


「はい、傭兵たちの詰所が南の方にあるのですが、そこでグレーギンを発見いたしましたわ。町中の戦力をかき集めているようですね。そろそろこちらへ出陣してくるのではないでしょうか」


「おお、また戦じゃの」「腕がなるねッ!」と言いながら、アルジェとナハトが嬉々とした様子を見せた。


「人数が何人くらいだったかは確認できました?」


プルミエの質問にマリゴールドは「もちろんですわ」と頷く。


「およそ200人。わたくしたちの30倍ですわね」


・・・

・・


「へへっ、随分集まったもんだぜ」


傭兵団の詰所には200人前後の強面こわもての男たちが集まっていた。


町長ディアンの懐刀であり、実質的にこの町を暴力の側面から取り仕切る、100人斬りのグレーギンによる緊急招集命令である。


この町で傭兵稼業をして行く以上、その命令を無視することなぞ出来なかった。


「よく集まってくれたな。まずはてめえらに礼を言う。だが最初に言っておくと今回の敵は手ごわい。油断するんじゃねえぞッ!!」


そう声を張り上げるグレーギンに、集まった男の一人が早速質問を投げかけた。


「緊急招集っていうからには、相当厄介な相手だろう。もったいぶらねえで、そいつが何モンなのかかさっさと教えてくれや」


他の男たちも同意するように声を上げた。


話の腰を折られて、「ちっ」とグレーギンは舌打ちをすると、その声に返事をした。


「今回の相手は邪悪なる人形、ホムンクルスどもだ」

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