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1.1000人の少女たち

新作開始しました。書き溜め完了していますので、基本毎日更新です。


前作はそのうち更新。

その秘密のアジトは深い森の洞窟の中にひっそりとあった。


そこに辿り着くには、幾つもの結界と惑わしの魔法、そして迷路のように入り組んだ森の中を抜けて来なければならないよう、念入りな処置がほどこされている。


なぜそこまでの処置をしているのかと言えば答えは明白。


アジトには邪法に手を染めた一人の男、魔法使いがいた。


男の目の前には通常の人間であれば受け入れられないような匂いを発するどろどろの赤い液体が、人ひとり簡単に入れるほどの大きな壺に入れられ、火にあぶられてごぼごぼと泡立っていた。


その魔法使いはいままさに恐るべき邪神アデキを復活させようと、いくつもの命をドブに捨てる様な悍ましい儀式とともに、また世界の表からは完全に秘された禁断の呪法を口にしていたのである。


そう、そして邪神復活にかかせない1000人の子供たちの命は、自らが生み出したホムンクルスの少女たちをささげるつもりであった。


男、名をセイラムと呼ばれる魔法使いのいる空間こそ、様々な拷問道具や見るだけで正気を失わせる禁書、処女の血の貯められた壺や新鮮な人の死体、魔女の爪、何らかのモンスターの骨、そういった様々な悍ましいものたちで占められ手狭である。


だが、地下につながる階段を下りれば、男が長年かけて作り上げた大空間が存在し、そこには試験管で培養された1000体のホムンクルスの少女たちが、邪神の生贄となるために眠っているのだ。


そして、その時はもう目の前に近づいていた。


セイラムの口元に思わず笑みがこぼれたのも、邪神復活と言う長年の夢が間もなく叶うことからすれば当然のことである。


男はやがて準備が整うと、世界から隠された呪文を呟きながら、邪神の一部と呼ばれる角を取り出した。


そうして、煮立った壺の中にそれを入れると、またしばらく頭が狂う様な邪悪な呪文を唱えながら禍々しい液体をかき混ぜる。


するとすぐにその液体に変化が起こった。


いや、あたかも消えてしまったように見える。


だが、それはなくなってしまったわけではない。


邪神の角が全て吸収してしまったのだ。


「これで素体の準備は整った。あとは1000人の命を吸収めされれば、復活されるであろう」


やや甲高い、だがしわがれた様な声で呟きながら、魔法使いはさらに不穏さの増した邪神の角をうやうやしく取り出すと、そのまま地下への階段を下りて行った。


そして、地下の大空間へと出る。


そこには1000の試験管とその中を漂う1000のホムンクルスの少女たちが眠るように存在していた。


男はその中を表情も変えずにゆっくりと進むと、やがて空間の中央あたりに広がる大魔法陣の元へと辿り着く。


角はその中央に置いた。


魔法陣からはすべての試験管に線が伸びており、そこからホムンクルスたちの命が邪神へと注がれるのである。


魔法使いは思わず口元をゆがめるとある呪文を唱えた。


すると、それまで眠っていた少女たちが一斉に目覚める。


そう、邪神に命を注ぐためには、意識をもった状態で吸い取らなければならない。


眠ったままでは困るのだ。


「ホムンクルスたちは、生き地獄を味わうであろうがな」


だが、そんなことを気にするような魔法使いでは当然ない。


そのことで邪神が復活するのである。


そのために、今までだって、村を焼き、人をさらい、禁書を集め、様々な恐ろしい実験をかさねてきたのだ。


何をためらうことがあろうか。


そうして、今まさに悪の魔法使いセイラムが邪神復活の儀式の最終工程を開始しようとした時であった。


ズドンッ、という強烈な揺れが起こり、天井からはぱらぱらと土が落ちてくる。


さらに、ズドン、ズドンと連続して洞窟全体が鳴動する。


「くそっ、勇者どもかッ」


そう男は忌々しく叫ぶと、急いで邪神召喚の儀式を始めようと召喚呪文を唱え出す。


大丈夫、階段は隠し扉の下にある。

そう簡単に見つかりはしない。


それにいざとなれば、この空間にはもう一つ、外に通じる別の秘密の通路があるのだ。


逃げおおせることは十分に可能だろう。


男は焦りながらも、揺れる洞窟の中で必死に召喚呪文の詠唱を続ける。


そうしてついに、魔法陣が光り出した。

呪文の完成が近いのだ。


だが、その揺れによって予想しないことが起こった。


天井の弱くなっていた部分が大きく剥がれ、その落石がちょうど魔法使いの頭に降り注いだのである。


落石は魔法使いを押し潰し、男の邪悪な夢とともに命を一瞬のうちに刈り取ってしまった。


だが放置された魔法陣は輝きを発し続ける。


もはや呪文のほとんどは完成され、あとは誰を召喚するのか、という状態なのだ。


だが、既に詠唱者は死んでしまった。


そのため、未完成な魔法陣が暴走し始める。


そしてそれは一つの悲劇を呼び起こした。


中途半端な状態に置かれた魔法陣が、誰でも良いから召喚しようと、あらゆる世界、あらゆる時代、そしてあらゆる場所から、ランダムに対象を選定を始めたのである。


やがて、魔法陣の輝きは地下の大空洞を太陽の如く照らし出した後、一瞬にして消え失せてしまった。


あとは壁にちらほらとある松明だけが、その空間を照らし出している。


だが、先ほどまでは異なる存在が魔法陣の中央にはいた。


「は? どこだここは?」


高校でさきほどまでテストを受けていた古寺一糸フルテライッシは、思わずそう呟いたのである。

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