表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死せる少女と魔法の法則  作者: 西玉
死せる少女
8/26

近くて遠い隣家

 五寸釘レオが育った神社と氏家の本家は、小高い丘を挟んで背中合わせの位置にある。レオとレイカが幼なじみだったのは、身体能力に優れたレオが丘を駆け昇ってレイカの家まで遊びにいくことができたからであり、普通に舗装された道を歩けば、三〇分以上かかる。昔のように丘を越えれば、車で移動している母親より氏家の屋敷に早く着ける自信があった。

 母親のクルミもレオと同じように身体能力の強化を得意としており、走ったほうが着くのは早いはずだ。あえて迎えの車を手配され、それに乗って行ったということは、格式にこだわる要件であるということだ。レイカと巫女姿の母が重ならず、レオは不安を募らせていた。

 無意識のうちに身体能力の強化をしたのか、わずか数分で氏家の屋敷を見降ろせる位置に到達した。氏家の一族は旧家であり、屋敷の背後から見降ろすことを許すはずがなく、丘はすべて氏家の所有である。レオが育った神社は、氏家の敷地を借りているにすぎない。当然丘を登ることも禁じられているが、宮司や巫女の健康のためと称して散策することは許されている。もちろん、丘の頂上から氏家の屋敷に向かって駆け下りるようなことが認められるはずがない。

 禁じられているはずの行為を、レオはあえて実行した。レイカに何かが起きている。それは推測にすぎないが、確信に近い実感があった。

 

 屋敷の裏手の塀に達する。真っ黒い板塀が、約三メートルの高さでぐるりと屋敷を囲んでいる。いい趣味とはとても思えないが、近寄り難さを演出するには最適な壁だった。

 板塀に見えるが、そもそもただの木の板とは限らない。レオは塀を見上げた。脚力を強化すれば、飛び越えることもできるだろう。今まで、試そうとしたこともない。そんなことをすれば、神社そのものが追いだされる事になりかねない。

 わずか一回の跳躍が、取り返しのつかない事態を招くかもしれない。

 もう一度、レオは携帯電話を手に取った。

 すぐに出た。相手の反応を待たず、レオは一気にまくしたてた。

「神社の五寸釘レオです。レイカさんの携帯電話にかけています。レイカさんと話をさせてください」

 答えたのは、女性の声だった。レオには聞き覚えがあった。レイカの世話をしている女性だ。

『お嬢様は話せないの。事情は言えないわ。旦那様が口外するなと……何が起きるのか、わたしには……あっ……』

 盛大な雑音とともに、通信が途絶えた。

 ――レイカ……何があった?

 携帯電話を懐にしまい、レオは迷いなく三メートルの板塀を飛び越えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ