厳しい主人
携帯電話の着信で、五寸釘レオは叩き起こされた。トイレの中で血まみれで倒れていたのを救急隊に救われ、救急車で運ばれている最中のことだった。
口には呼吸器をつけられていた。マスクをした男の顔が目の前にあった。
「気が付いた」
目の前の男が大きな声を出した。
「君、大丈夫か?」
隣にいた、別の男が声をかけた。
レオは自分の体をまさぐり、上半身の衣服が切り開かれていることを知った。携帯電話が鳴っている。出なければいけないような気がしていた。自分の体をガーゼが覆っているのがわかった。止血も治療もする余裕なく、意識を失ったのを思いだした。意識のないまま損傷した肉体の回復を図れるほど、レオは熟達していない。魔法使いによって応急手当はされていたとはいえ、あのままだたったら、死んでいたかもしれない。
それでも、役目は果たしたのだという安堵感があった。氏家レイカは助けると、その魔法使いが請け負ったのだ。
ハサミにより分断された服の中から、レオは携帯電話を取り出した。
「君、安静にしていた方がいい」
男がレオの手を抑えた。レオは携帯電話を見るために首を持ち上げた。男があきらめる。無理をさせないためには、押さえつけない方がいいと判断したのだろう。
知らない番号だった。
いや、知っていた。
脳内の記憶を探る。
知っていた。
交換したばかりの相手だった。
レオは携帯電話を耳に当てた。
『あんたいま、どこにいるの? 情報がだだ漏れじゃない! 魔法使いに喧嘩を売る気!』
「ち、違います。何かあったんですか?」
『私が乗っていたタクシーにトレーラーが突っ込んできたのよ! せっかく新調したスーツが台無しじゃないの! あんた、どう責任を取るのよ!』
「べ、弁償しますから……」
『そんなこと、当たり前でしょ! もしこれ以上、おかしな連中に出くわすことになったら、その女の子を助ける前に、あんたの仲間を皆殺しにしてやるから、そのつもりでいなさいよ』
「まっ、待ってください。オレはいま、救急車の中で、すぐには動けないので……」
『はあっ? 救急車? 私が直してやったのに? 何やっているのよ。あんた本当に中級魔法使いの端くれなの? そんなことだから、半人間って呼ばれるのよ! いいわね。私より早く、そのお屋敷とやらに行きなさいよ。もしあんたがいなければ、そのお嬢様、どうやっても蘇生できないように、ばらばらにしてやるからね!』
一方的に電話は切れた。確かに、火陀レンカはレオの体を癒した。自力で直せないとは言い訳はできない。レオは体を起こした。救急隊員が押さえつけようとした。
「ごめんなさい」
五寸釘レオは、心から謝り、救急隊員に言った。
「これから行くのは、病院じゃありませんよね?」
「いや、救急病院……じゃなかったか……」
「そうだな……どこだった?」
「いやだな。これから行くのは、氏家さんのお屋敷じゃないですか」
「ああ……そうだった」
二人の救急隊員に対して、レオは精神を操作する魔法を使用した。レオのことを警戒していない相手に対して、ただ目的地を変えるだけの操作である。上手く作用した。レオが診察台から立ち上がっても、二人とも止めなかった。レオは運転席の隊員に向かい、同じことをした。魔法は発動した。




