救出と逃走
五寸釘レオが二階に顔を出し、目に入ったのは鋭い刃物の切っ先だった。友好的な歓迎であるはずがない。
刃物を持つ男、奥で椅子に腰かけた男、縛り上げられ、目隠しをされた少女。
――レイカ。
「殺せ」
奥で座っている男が、鋭い声で命じた。目の前のナイフが動く。レオは首を倒した。
――やっぱり、簡単にはいかないな。
レオは自らを魔法使いと名乗るだけの、普通の人間にはない能力を有している。会話を交わすことができる相手であれば、会話を通して勘違いをさせることができる。従って、会話を成立させられない状況では通用しない。
眼球に傷を負うことは避けられたが、鋭利なナイフがレオの顔をかすめた。
顔の皮膚を傷つけ、突き出した腕がレオの頬を殴る。
突き出された男の腕をレオは掴み、後方に引いた。つまり、階段の下へである。
押し上げ式扉の戸口が狭いため、男は顔面で二階の床板を破壊することになった。
傷つけられたレオ自身の顔も痛んだが、無視することもできた。一気に二階に上り、奥にいた男に向かおうとした時、レオの足が止まった。
椅子に座り成り行きを眺めていた男が、目隠しをされた少女に向かって腕を伸ばしていた。腕の先に、黒い塊が握られていた。拳銃に見える。本物かどうかはわからない。
「動くな」
「その子を殺したら、身代金は入らないぞ。オレの家は貧乏だ」
男は答えなかった。ただ、冷笑を浮かべた。レオは右手を握りこんだ。飛び道具を準備するためだった。握りこんだ手の中で、中指の爪をはがす。痛みに耐え、肉体を武器とすることを、レオは得意としていた。
背後で男が立ち上がった。レオは振り返らない。首が折れても不思議はないほどの怪我のはずだが、丈夫な男だ。しかも、階段の下から上ってくる音が聞こえていた。精神の操作はちょっとしたきっかけで破られる。
少女に向けられていた拳銃の先端が、レオに向かう。その瞬間をレオは見逃さなかった。手の中に握りこんだ中指の爪を親指で打ち出す。男は顔を抑えてのけぞった。
レオは床を蹴った。同時に背後から殴られた。体勢を崩したが、前方に向かった。
発砲の轟音とともに、少女が悲鳴を上げる。目隠しをしたままだったので驚いたのだろう。拳銃はレオに向けられており、レオの太ももに銃弾が食い込んだ。
二発目が撃ち込まれる前に床を蹴る方向を変え、レオは男に達する直前で縛り上げられた少女に向かった。少女の柔らかい体に腕を回し、抱きかかえた。突然のことに少女の体が硬直したのがわかった。
「レイカ、オレだ」
すぐに少女の体から力が抜ける。
「レオ?」
答える暇はない。勢いを殺さず、少女を抱えたまま直進した。目の前には、倉庫の壁が見える。肩が痛んだ。銃弾が撃ち込まれたのだと理解した。
倉庫はプレハブだったが、鉛の板だ。生身で壁に突っ込んだところで、突破できるはずがない。レオは少女の頭を抱きこむように抱え、足の筋肉を限界以上に酷使した。頭部と肩の皮膚を硬化させ、同時に痛覚を遮断した。
重い衝撃とともに壁に激突し、硬化した皮膚を血まみれにしながら、プレは図の壁を破壊した。少女もろとも、レオは抱えていた倉庫の二階から落下した。




