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死せる少女と魔法の法則  作者: 西玉
死せる少女
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赤い背中



 五寸釘レオは、氏家の屋敷を飛び出した。時間がないうえに、手がかりまでないのだ。魔法使いを見つける唯一の方法は、通常では死なない人間を見つけることだと五寸釘クルミに教わった。つまり、人が死ぬような状況に立ち会わなければ、見つけることはできないのだ。

 屋敷を飛び出してから、レオは東京に向かうことにした。もっとも人が集まる場所だ。魔法使いが人ごみをどのように考えているのかまではわからない。とにかく、人の多くあつまる場所の方が見つけやすいのではないだろうか。ただの推測にすぎなかったが、手がかりがなにもない以上、レオは東京に向かった。

 電車で一時間ほどかかり、東京駅に着いた。始めてきたわけではないが、レオの青春は肉体や精神の操作のために長い時間をとられていたため、自由な時間はあまりなかった。数えるほどしか上京したことはない。想像通りの雑踏に、レオはさっそく目的を見失いかけた。

 東京駅でたたずんでいても、魔法使いが見つかるはずもない。魔法使いが目の前を通過しても、レオには見つけられない。

 ならば、魔法使いがいれば見つけられる場所に行く必要がある。

 東京のどこかでテロでも起きて、一人だけ無傷な者がいれば魔法使いの可能性が高いはずだ。だからといって、そう都合よくテロが起きてくれるはずもない。

 レオは知っている事故や事件を思い起こした。

 多くの犠牲者を出しているのは、地下鉄や若い世代に人気がある場所が多い。

 レオは地下鉄を目指した。

 地下鉄で電車を待ち、タイミングを見計らって多くの人を線路に突き落としたら、誰が魔法使いかわかるだろうか。

 レオが犯罪者として捕まってしまっては、交渉もできないし、レイカの家に案内することもできない。

 レオは地下鉄のホームでしばらく考えた後、あてもなく乗り込むことにした。

 東京の地下を縦横に走る電車に揺られ、何も得られることもなく、降りた。

 人の多い場所を探し、あまりの多さに疲れ、すでに何の手がかりもないまま、一〇時間が経過していた。

 五寸釘レオが座りこんだのは、渋谷のスクランブル交差点を見渡せる、駅前の広場だった。

 雑多な人々が待ち合わせなのか、たむろしている。多くが携帯電話を手にしていた。大量の人が行きかうのを、レオは茫然と眺めていた。

 この中に、魔法使いがいたとしても、見つけられるはずがない。

 絶望し、座りこんだ。

 レオのすぐそばを、赤いスーツの女性が颯爽と通り過ぎようとした。

 硬いものが割れるかのような音とともに、レオの足元でコンクリートの地面に穴が開いた。レオは目を疑った。自然現象であるはずがない。コンクリートに空いた小さな穴を中心として、細かな亀裂が走っていた。強い打撃を受けたのだろう。レオはすぐに、銃による狙撃をイメージした。ほんの二年前、レオは銃を持つ誘拐犯人と対峙していた。

 コンクリートに開けられた突然の穴から命の危険を感じとり、レオは咄嗟に屈んでいた体勢をさらに低く構えながら、銃弾が飛んできたと思われる方向に顔を向けた。

 赤い背中が見えた。

 華奢で、長い髪に覆われた背中は、明らかに女性のものだった。服が赤いため、誰も気づいていなかった。だが、服からあふれる液体を、レオは見た。赤い背中の人物は一方向をしっかりと見定め、走り出した。レオが弾丸の軌道の先だと感じた方向と一致していた。

 ――あの人、撃たれたんじゃ……。

 撃たれたことより、微動もしなかったことが驚きであるのは間違いない。撃った相手を捕まえようというのだろう。すぐに走り出したこともしかりである。

 レオであれば、レオのような半人間であれば、同じことができるだろうか。想像し、すぐに否定した。おそらく、心臓を貫かれている。突然心臓をえぐられ、即座に心臓の筋肉を操るほど、レオは自在に体をあやつれない。しかも、赤い服の女は狙われることになれている。

 ――魔法使い?

 思った瞬間には、レオは動きだしていた。走る女の背中が遠のきつつある。レオはアスファルトを蹴り、人々の頭上を越えた。目立つことなどどうでも良かった。この機会を逃したら、魔法使いを時間内に見つけることなどできるはずがない。その時、レイカは永久に失われるのだ。

 あまりにも人々が密集した渋谷の街で、五寸釘レオは赤い背中を追い続けた。


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