邂逅
氏家レイカの自室は、できる限りの低温状況に保たれていた。五寸釘レオが部屋に入ると、ベッドがあると思われる場所のまわりに天幕が張られていた。分厚いビニール製の幕であり、透明ではないので中の様子は一切見ることができなかったが、そのこと自体が中にいる者の状況を表しているようだった。
部屋に入り、二人の使用人と目が会った。いかめしい顔つきで睨みつける初老の大男より、無念そうに目を伏せる若い女性の顔つきが、レオに自らの無力を感じさせた。
「お嬢様はどこ?」
「こちらです」
大男の使用人が、天幕として張られた分厚いビニールを持ち上げた。ビニールがめくり上げられると、驚くほどの冷気が漏れ出てきた。
五寸釘クルミが、天幕に入る前にレオに視線を送ってきた。一緒に来いという意味だと判断し、レオはクルミに従い、足を踏みだそうとした。
レオの服の袖が、背後から引かれた。使用人の蛇目スズが、上目づかいで睨んでいた。まるで、レオがレイカを殺した犯人であるかのような視線だった。
レイカを守れなかった以上、レオが殺したと言われても仕方がない。レオはそう思った。それほどまでに、レイカの安全に気をつけていたのだ。
「どういうつもりなの?」
女の声とは思えないほど、スズの声は低かった。スズは、レイカの死を知らせてきた。その時は、クルミを止めてほしいと言っていたのだ。クルミとともに来たレオに、失望したと同時に怒りを覚えているのだろう。
「レイカを守りたい」
レオに言えるのはそれだけだった。それがすべてであり、真実だった。
「手遅れよ」
「そうかもしれないが、最善を尽くします」
スズが手を離した。
「どうするっていうの? お嬢様はもう……」
「何もできないでしょう。人間にはね」
スズは何も言わず、レオの顔を見つめた。レオのいう意味がわからなかったのだろう。当然だ。レオはあえて説明せず、立ち尽くすスズに背を向けた。
分厚いビニールの幕をかき分け、中に入る。
母クルミの背中越しに、無残な死体が横たわっているのが見えた。




