誘拐犯人のアジトに単身で乗り込む魔法使いの中学生
中学三年生の五寸釘レオ《ごすんくぎれお》は、仲間の一人として誘拐犯のアジトに踏み入った。
東京都郊外の古びた倉庫で、周囲に人家はあるが人気は少ないうらぶれた街角の一画である。
「どこの小僧だ?」
薄暗い、狭い倉庫の中である。扉を開けて第一歩を踏み込んだのと同時に、好意的とは思えない声がかけられた。動きやすそうな作業服に、革の手袋をしていた。武器こそ所持していないが、侵入者に殴りかかるのをちゅうちょするようには見えなかった。
「なに?」
背後から、レオを招き入れた男のとんきょうな声が聞こえた。
「ボクのことを忘れたんですか?」
前後をこわもての男達に挟まれながら、レオはほがらかに答えた。
「……誰だったかな」
途端に、凶悪だった男の顔に戸惑いが浮かぶ。レオはほくそ笑んだ。根拠のない自信ではない。レオの問いかけに相手が応じれば、操作するのは簡単だ。レオの普通の人間ではない。肉体と精神を操作する能力を持つ、中級魔法使いと名乗る存在である。
「ずっと一緒だったじゃないか。それより、様子はどうだい? 娘は?」
「……いや、異常はない。娘なら二階だ。大人しくしているよ」
「わかった。様子を見てくる」
「ああ」
男は道を開けた。倉庫の奥には二階へのぼる錆びた階段があった。一階の天井に押し上げ式の扉がついており、二階の様子は見ることができない。
レオが階段に向かうと、背後で男の声が聞こえた。
「これから、一人上に行く」
相手は無線機のようだ。レオは緊張しながら耳をそばだて、不自然ではない足どりで階段に急いだ。
『誰だ?』
無線機の声はスピーカーをとおしてはっきりと周囲にも聞こえていた。レオが階段にたどり着く。
「仲間だ」
『誰だ? 名前は?』
「えっと……悪い、名前を忘れた」
後半の言葉はレオに向けられていた。レオは階段を上り、扉に手をかけたところだった。
「奇遇だね。ボクはおじさんのことなんか知らないよ」
やはり、簡単には済まない。レオは状況を理解できずにぽかんと口を開けた男に舌を出し、扉を押し開けた。