9.親友
またお会いできましたね!再会できてうれしいです!
どうも神裂迅雷です!早速、本編をどうぞ!!
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REACT本部の医療施設。
『風間那拓 8歳』と書かれたネームプレートを首から下げた少年は、その曇った瞳で、ストレスによって半分が白く染まった自分の髪をただボーッと見ていた。
那拓の首から下は、元養親から銀刀で付けられた刺し傷、切り傷によって出血している為に血の染みた包帯が覆っている。それだけの傷を負いながらも何故か那拓は傷の縫合手術を受ける事がREACTの上官から容認されず、ただ病室での待機だけが許された。
産まれてすぐに檻の中に閉じ込められ、3日前に初めて太陽を見た那拓だが、既にアビリティが半覚醒していた那拓は、REACTの対応がどれ程異常な措置だか理解していた。しかし、これ以上傷は増える事がないんだな、と思えるだけで今の那拓には幸せだった。それ程までに元養親らの暴力とネグレクトは人間の域を越えていた。
1時間毎に、養親らは、那拓のいる檻の中に入って来て、鎖で拘束された那拓を毎回決まって3回ずつ銀刀で刺すか、斬るかをして檻を出る。養親の機嫌が悪いときには更にパンチやら、蹴りやら、時にはバットなんかでも延々と殴られた。その上、衣服は勿論、彼等は食事さえまともに出すこともなかった。たとえ出てきたとしても、何かの生物を叩き潰してミンチにしたものを生のまま出された。それは生暖かく、時折長く黒い毛や、丸い瞳の眼球、自分と同じくらい大きさで先の丸み帯びた爪が混ざっていたが、那拓の前に出されたそれはカス一つ残る事はなかった。それほどまでに当時の那拓は餓えていた。
今こうして病院で出された物を食べてみて改めて理解した。あれがどれ程不味く、奇怪で、大きな罪となる食事だったか…
そんな事を思い返す内に那拓はある一人の少女を思い出した。
あの養親達の館から脱出するときに助けたきれいな赤い瞳と金色の髪の女の子は今どうしているだろうか。あの子の心は、僕の養親なんかとは違ってずっと澄んでいて、僕の事を気遣ってくれた。そんな彼女の養親はいつもニコニコしていて、ヴァンパイアとウォーリアの間に産まれたその少女を軽蔑するどころか愛情を持って接し、どんな些細な出来事でも少女をよく褒めていた。あんな温かい家にきちんと戻る事が出来ただろうか。
…それとは裏腹にこの部屋は余りに寒い…
自分の経験は一生忘れられず、他人の記憶を観れる那拓は、他人と関わる事への恐怖と、自分に経験が無くとも他人と触れ合う事の喜びを理解していた。だから、その心には、『人間』への怖れがある反面、『孤独』による哀傷もあった。
那拓の病室は個室の為に、定期的に看護婦が包帯を替えに来るだけで他に人はいない。安心と寂寥が脳内で渦巻く那拓は、病室の鍵を閉めてから、短い眠りについた。
ドン!ドン!
那拓はその音で目が覚めた。どうやら誰かがドアを叩いているらしい。
まさか…逃げた僕を追い掛けてきたのか?
那拓は、ベットの下に隠してあるツールナイフを手に取り、足音を消してドアに近づくと、ゆっくり鍵を開ける。
カチッ!
という音とともにドアの向こうにいる人がドアを開けていく。
「巫南子?いないの?」
その人間が完全に病室の中に入ると同時に、隠れていた那拓が、後ろに回り込み、静かにドアを閉めると、その人の膝裏を蹴って、相手の体勢が低くなった瞬間に左腕で首を絞め、右手に持ったツールナイフの刃を相手の首に当てる。
「いやッ!」
そう叫ぶ女の子の声が病室の中に谺する。女の子は、両手で那拓の左腕を掴むも、恐怖の余り力は入っていない。那拓の視点からだと、その女の子がアクアマリンの様な色の髪をしている事しか分からなかったが、とにかく那拓の知らない人物なのは間違いなかった。那拓は片目をアメジストの様な色に変色させる。
「離しなさいよ…私はただ友人に会いに来ただけなの!…今離せば騒がないどいてあげるから…」
僕を殺しに来たんじゃないの?
養親らに舌を抜かれた那拓はそう聞く事も出来ずに時間が経つのを待った。
“助けて…まだ死にたくない…お願いだから私の言うこと聞いて…”
女の子の意思を読み取った後、すぐに那拓の頭に女の子の記憶が流れ込んで来る。
どうやらこの女の子の名前は富貴姫華というらしい。歳は9歳で、REACTの大株主である富貴家の分家の人間だったが、産まれてすぐに両親が他界して、養子縁組で本家の人達に引き取られた。財閥である養親達の影響もあって普段は強気な彼女だが、養親の権力もあって近づいてくる友人は皆、金にしか興味がなく、それを感じては時折一人で涙を流す様なデリケートな1面もあるらしい。
彼女も那拓と同じくプロディジーで、アビリティは一瞬でも自分に魅了された人間を絶対服従させる。一見、条件の厳しそうなアビリティではあるが、彼女の顔立ちは人形の様に美しく整い、声も透き通る様な綺麗なものだ。相当マニアックな人以外ならどんな人間でも、たちまちに虜にされてしまうだろう。更に好都合な事にアビリティによって操った事のある相手になら、相手がどこに居ようと無条件に、しかも何度でも操れる。
そんな高貴な美少女が、人脈の全くない筈の那拓の病室に入って来た理由は、唯一の友人の病室を間違えただけの事だった。
「私が誰だか分かってやってるの?…いい加減にしないと…」
姫華が話している途中で那拓は、足でドアを開けると、姫華ごと方向転換し、拘束を解くと同時に姫華を部屋の外に突き飛ばす。
「イタッ!何するのよ!」
倒れた姫華は、那拓を見上げ、目が合ったかと思うと、当惑して目を逸らす。そんな姫華を見た一人の人間らしからぬ人間が姫華に近寄ってくる。
その人間は、黒く長い髪を全て顔の前で垂らし、その間からピンクと紫を混ぜた様な瞳を覗かせていた。更に露出した腕は驚く程細く、ほとんど骨と皮だけで、それとは反対に爪は2センチ近くまで伸びていて、先が尖っていた。
これが姫華の記憶の中に出てきた友人、奇冷巫南子。巫南子ってより貞子みたいだ…
姫華の記憶だと、彼女もまた財閥の娘らしい。そのアビリティは姫華も知らない。
巫南子は姫華に近寄ると、その細い片手で姫華を引っ張り持ち上げる。
「大丈夫…?」
そう尋ねる巫南子の声は姫華とは正反対にガラガラ声だった。
「ええ…」
と姫華は適当に返事をすると、ドレスのホコリを払う。
「血…付いてる…」
「どのくらい?」
「か、な、り…」
巫南子は、低く鈍い声を出して姫華の背中に触れると、姫華の服に付いた血液は巫南子の手から滴り落ちる程に多量に付く。巫南子はまるで禁断症状を催したか様に急に息を荒くすると、手に付いた血を長い舌で舐める。そして、視線を那拓へと移すと、口を耳まで吊り上げて小さく「ふふふ…」と笑声を出す。那拓はその表情に全身の血の気が引き、ドアを荒く閉めて鍵を掛ける。
何だ…アイツ…
ドアの向こうからは2人の会話が聞こえてくる。
「服…大丈夫…?」
「えぇ…どうせ安物よ。それにしても部屋間違えたぐらいで凶器を突き付けなくてもいいじゃないの。確かに安物だけど、お気に入りのドレスだったのよ!その上、あんな低俗な人間の癖に私を投げるわ…あぁもっ!ムシャクシャするわねッ!パパにチクってやるわ!」
「別にいいじゃない…寧ろ得よ…結構イケメンじゃない…あんな男の子に抱かれてたなんて…」
「イケメン?どこがよ?しかも、アレを得だ、なんて貴女どうかしてるんじゃないの?」
「でも、姫華も満更でもない顔してたでしょ…?」
「はっ?そ、そんな訳ないでしょ!何であんな最低な奴…」
「私は好きよ…特にあの陰惨な目…堪らないわ…貴女にその気がないなら、私が貰うわよ…丁度執事が不足してたのよね…」
「どうぞ御勝手に」
二人の会話はそこまでしか聞こえなかった。
一方の那拓は『私が貰うわよ…』という巫南子の言葉に怯えていた。この時初めて、那拓は、人間の狂気とは異なる理解しえない怪異への恐怖を感じた。
貞子…怖い…
次の日。那拓の目の下には黒く濃い隈が出来ていた。
というのも、前日あの二人と別れて暫くした後、急に病室のドアの向こう側からとてつもない視線を感じるようになった。
那拓の元養親らは那拓に興味がなかった分、暴力と気紛れの生肉の食事の支給の時以外は基本的に那拓を1人にしてくれた。
そのせいもあってか、那拓は視線を感じる事に慣れてなく、遂に一睡もする事が出来なかった。
ドンドン!
ノックの音に那拓は思わず飛び上がった。あれからずっと握り締めていたツールナイフを更にグッ!と力を込めて握る。
「あの…あの…」
昨日とは別の女の子の声。那拓は昨日と同様に足音をたてずにドアに接近して、ゆっくりと鍵を開ける。
「あっ…開いたのかな?入るよ?いい?」
そう言って女の子は部屋に足を踏み入れる。那拓はその姿を天井に張り付いて様子を見ていた。
あと一歩進んだら仕留める…
那拓が出入り口をを注視していると、何故かその子は天井を見ながら部屋に入って来た。
「そんな所で何やってるの?」
気付かれた那拓は、仕方なく臨戦態勢の状態で女の子の前に飛び下りる。よく見ればその子は先日助けた金髪の少女だった。
それで納得がいった。ヴァンパイアの特性の一部をもつこの子なら血の匂いだけで僕の居場所は分かる。
女の子は、目の前に降りてきた那拓に視線を合わせては逸らし、合わせては逸らしを繰り返し、もじもじしながら手に持っていた物を那拓に差し出す。
「あの…コレ…高嶺のおじさんが御礼をもってけって…ケーキなんだけど…」
あっ…えっと…どうすればいいんだろ?
人生初のプレゼントに那拓もまごまごしながら受け取る。
ありがとう。
その意を込めて那拓は軽く頭を下げる。
「あっ…私の方こそ助けてくれて、ありがとッ!」
少女はにこっと微笑みながら深く頭を下げる。こんな状況で感謝される事も初めての那拓は、一緒に頭を下げる。那拓の反応に女の子はクスクスと笑う。
「何で頭下げるの?」
そうだよな…僕が感謝されてるのに何で僕が頭を下げてるんだ?
那拓が気恥ずかしそうに視線を外すと、少女が閃いたかの様に口を開く。
「あっ…そう言えば、名字の読み方ってカザマ?フウマ?名前も漢字が難しくて…何て読むの?」
話せない那拓は、ベットに付属した机の上からボールペンとメモ用紙を手に取り、『ふうま なたく』と書いて少女に見せる。少女は那拓の行動に驚き、少し申し訳なさそうに小さな声を出す。
「もしかして…口利けない?」
那拓が頷くと、少女は更に深く頭を下げる。
「ごめんなさい。私知らなくて…先日は、怖いから何か喋ってよ!なんて無理を言って…それに1人で勝手にテンション上がちゃって気づかなかったけど、身体の傷もまだ治ってないみたいだし、私…病室の前に立ったときから風間くんの強い血の匂いは感じてたのに…大丈夫なの?出血もまだしてるようだし、早くベットに横になって!あんまり動くと傷が開いてもっと出血しちゃうから!」
心配されるのまでも初めての那拓は少女に引っ張られるままにベットの上に横になる。少女の白い顔は更に青ざめる。
「すごい傷…これホントに大丈夫?痛くない?何か欲しい物ある?」
いや…そんなに急に心配されても何から答えていいか…
『あの一つ聞いていいかな?』
那拓は、横になりながら紙に書いて見せる。少女はすぐに気づいてそれを読む。
「何?ケーキ食べる?」
『違う…君の名前なんだけど』
その文で少女の表情は暗くなる。
『先日、僕のアビリティで勝手に君の記憶観たんだけど、名前だけは見忘れちゃって…』
少女は自分の服の裾をグッと握って、黙り込む。
確かにこの子が自分の名前を嫌ってるのは知ってる。だから勝手に観るのは止めた。でも今は…
『どうしても知りたいんだよ。人としては誰からも必要とされてない僕の事を、蔑む事もせずに優しくしてくれたのは君が初めてなんだ。だから、せめてそんな人の名前を知って置きたいんだ』
「初めて優しく…?」
少女は那拓からのメッセージに疑問を抱きつつも、少女は覚悟を決めてゆっくりと口を開ける。
「分かったよ。でも口では言いたくないから…紙に書くけどそれでいい?」
那拓は、優しく頷き、メモ用紙を一枚千切って紙とボールペンを少女に渡す。少女は唇を軽く噛みしめながらペンを動かす。そして名前を書いた紙を那拓に押し付ける様に渡す。その紙には『AR1S』と荒く書かれていた。
『ありす?』
那拓がそう書くと、少女は不思議そうに顔を上げる。
「えっ?」
『コレってローマ字だよね?“ARIS”アリスって言うんじゃないの?』
少女は、何かを言おうとしたが、それを止め、うんうんと何かを納得する。
「アリス…アリスか…うん!風間くんがそう呼びたいならそれでいいよ」
曇った表情をしていたアリスは、この病室に入って来たばかりのときの様に笑顔を取り戻す。
「あっ…ケーキ食べてみてよ。私の好みで買っちゃったから風間くんに合うか分からないけど…」
少女はそう言うと、那拓の意思を聞かずに持ってきた見舞品の箱を開けて中から2切れのチョコレートケーキを取り出す。
何で2切れ?
と思いつつ、那拓は机の上に広げられたケーキを一口口に入れる。
おいしい…ギリギリ残っている味覚でもチョコレートの甘さと苦みのハーモニーをしっかり感じられる。香りも食感も今まで食べてた何よりも好みだ。
那拓は、ムシャムシャと口に頬張る。
「どう?おいしい?」
アリスが顔を覗き込むと、那拓は笑顔で頷く。
「良かった!」
アリスはそう微笑んで言うと、今度は物欲しげにケーキを見つめる。
「もう一切れ食べたい…?」
指をくわえながら尋ねるアリスに那拓は自分の食べたい欲求を抑えて、そっとケーキをアリスの方に押してやる。
「いいの?」
那拓は仕方なく頷く。アリスは
「ホントに!ありがとう!」
と飛んで喜ぶと、ケーキを一口で完食してしまう。
「う~ん…やっぱりおいしっ!」
アリスは満足げに大きな笑みを浮かべる。
幸せそうだな。
そう思って那拓が、アリスの顔を見つめていると、突然何者かがドアをノックする。那拓は再びツールナイフを手に取る。
アリスとの会話でいつの間にか忘れていたけど、またあの視線が強くなってる。
那拓がベットを降りようとすると、アリスがそれを制する。
「私が見てくる。風間くんは休んでなきゃダメだよ」
アリスは口にチョコレートを付けたままドアの方へと向かう。アリスがドアにたどり着く前に相手は
「入るわよ?」
と言って勝手にドアを開けてしまう。ドアはゆっくり開いて行き、アクアマリン色の髪と高そうなドレスを着た美少女が姿を現す。それは、昨日病室に入りって那拓にあしらわれた姫華だった。自分以外の来訪者に姫華は、驚いた様な表情を見せる。
「貴女誰よ?風間那拓に今身寄りはいないはずよ?」
「あの…もしかして風間くんの…彼女?」
アリスの言葉に姫華はさらに愕然となる。
「はっ?そっ、そんな訳ないでしょ!?私が何であんな身分の低い人間と付き合わなくてわならないの!私はただ風間那拓について偶然耳にして、同情して来たあげただけよ…貴女こそ頬っぺたにチョコなんか付けて何やってるのよ?」
アリスは慌てて指で頬に触れると、指で取ったチョコをそのまま口に運び、再び幸せそうに笑う。
「私は風間くんに命を助けて貰った御礼をしに来たの。立ち話もなんだし、とにかく入って」
アリスは姫華を無理矢理那拓の下に連れ去る。
「ちょっ…私は別に風間那拓を看護する人がいたならそれでいいわよ」
姫華も必死に部屋を出ようとするが、アリスの力の前に結局那拓の隣に座らされる。仕方なく姫華は足を組んで那拓に向き直る。
『昨日はゴメン』
那拓はすかさず謝罪の一言を紙に記す。
「ホントよ!パパに買って貰ったお気に入りのドレスだったのよ?いくら貴方が心身に傷を負っていようと弁償はしてもらうわ」
「いくらなの?」
アリスが那拓の代わりに尋ねると、姫華は長い髪を後ろに撫で上げる。
「50万よ?インナーにも染みてたからまとめて70万ぐらいかしら?」
70万って…子供一人の手に負える額じゃないよな…
「それは無理だよ」
また那拓の代わりにアリスが意思を伝える。慌てる那拓とアリスに姫華はにやりと笑う。
「冗談よ。その程度のポケットマネーで請求なんかしたら、富貴の名に泥を塗ることになってしまうでしょ?」
「ポケットマネーって…」
姫華の非常識な言葉にアリスは言葉を失う。それとは裏腹に那拓はせかせかとペンを動かす。
『そこまで同情してくれて、ありがとう。同情も初めてされた。本当にありがとう』
「風間くん…これは同情って言うより、自慢話だよ?」
姫華の言葉を素直に受け取る那拓にアリスは思わず突っ込みを入れる。首を傾げる那拓にアリスが耳元で説明をする。
「だから、私お金持ちなんだーってゆう…」
アリスの説明で那拓は漸く成る程と頭を縦に振る。
『でも、お見舞いに来てくれたのは嬉しいな。なんか幸せってこんな事をいうのかな?2人が来てくれてホントに幸せ!』
那拓はその文を姫華とアリスに見せながら笑みを見せる。
「私…風間くんが助けてくれたから来ただけだし…当たり前の事しただけだよ…」
「わっ、私だって、偶々友人の見舞いがあったから寄っただけよ…」
2人とも赤面して話す姿に那拓はさらに嬉々とした顔をする。
「それにしてもよくもまぁそんな臭いセリフを堂々と…」
顔を隠す様に姫華はぷいと顔を背ける。
「でも私も楽しいな。こうやって歳の近い人と会話するの久し振りだし…」
アリスも顔を下に向け、にっこり微笑む。
きっとここだ。まだほんの数分のしか一緒にいないけど、確信した。ここが僕の居場所だ。
那拓はペンを走らせると、二人の手を掴む。二人はまたも驚きと何かを期待する様な表情で那拓を見つめる。
『今日から僕達ずっと一緒に居れるといいな』
この時、那拓は気付いていなかった。ドアの向こうから感じていた視線が鋭さを増していた事に…
寂しがり屋な子供が3人。
繋がりを求める者同士が意気投合するのはそう難しくなかった。
初めて那拓の見舞いに来た2人は半日もの間那拓の病室に留まった。あの後暫くの間2人とも顔を真っ赤にしていたが、その後は那拓の包帯を換えたり、共通の話題を模索しあったりして、気づけばまた3人で笑っていた。
それから毎日2人は那拓の下を訪ねるようになり、アリスは折り紙や将棋、トランプ等の庶民的な遊びを、姫華は珍しい物を手に入れるとそれを持ってきて3人で遊んだ。
10日もすると互いに完全に心を開き、気持ちと記憶を読むアビリティのせいもあって那拓はアリスと姫華のメンタルヘルスケアの先生みたくなり、毎日愚痴を聞くのが半分、遊びが半分になっていた。二人と遊べば遊ぶ程視線は強くなっていったが、それも気にならなくなっていた。そのくらい那拓は幸せな気持ちで満たされていた。
それでも、トラウマの消えない那拓は、看護師や医師、養親候補の人達の様な大人には心を開かず、病室に入ってくる人間には相変わらずの対応をしていた。
2ヶ月後、漸く那拓の傷は完治し、アリスと姫華の説得もあって何とかアリスの養親の所の養子となった。3人の関係はそれからも長く続き、それに伴うかの様に刺すような視線も常に那拓に付き纏っていた。
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???
日本東部第7支部玄関。
「今日は態々遠い所を来て頂きありがとうございます」
撫子が丁寧にあいさつをすると、白い衣を着た女性はにんまりと笑う。
「いいのよ…友人の頼みですもの…それで…一体どうしましたの…?」
「本当に忙しい時にすいません。うちの支部の風間那拓がちょっとばかし呪いをかけられてまして、これがちょっと厄介なんです」
「どういう事…?」
「効果自体は弱いんです。監視されるのと、写真やビデオに写ると那拓の部分だけ白い影が完全に覆ってしまうってゆうのだけなんですが…呪い効果が弱いのに、それに込められた魔力が大きい為にそこら辺の祈祷師じゃ解けないみたいなんですよ。それで今日は来て頂いた訳なんですが」
不安そうに相手の女性を見つめる撫子の肩をその女性が叩く。
「大丈夫よ…呪いは得意分野なの…それより…早く案内してもらえるかしら…」
「はい。こちらです」
撫子はその女性に背を向けて歩き出す。
待っててね…ナ、タ、ク…
長い髪の合間からは不気味に光るピンクの瞳が覗いていた
またまた読んでいただきありがとうございます!!
新キャラ2人の今後の活躍にも是非是非注目してください!
最近「読んだよ」のサインもらえてなくて、萎えつつあります!
読んだ方は、読んだという事を出来れば教えていただけると嬉しいです!