8.秘密
またお会いしましたね。どうも神裂 迅雷です。
早速本編をどうぞ!!
REACT日本東部第7支部に着いた那拓は、芳江、舞、リン、アリスを1番広い宿直室で待たせ、自分は支部の中央部にある総合管理室に行く。
そこは壮大としか言い様がない程広々としいて、設計図上では野球場2つ分の広さにも匹敵する。それにも関わらず巨大な機材が所狭しと置かれ、人が活動出来るのは迷路の様に入り組んだ通路の精々畳18畳の範囲だけ。そして、その巨大機材の山がたった10人の人間に寄って稼働させられている。
壁のディスプレイには支部管轄内の防犯カメラの映像と、町のマップが映し出され、カメラが動く物体を感知する度にその映像がアップされる。
また、1番手前の機器にはまだ新しい空間測量計が取り付けられ、値がちょこちょこと行ったり、来たりしている。
那拓はそんな景色に呆気に取られる事なく、目当ての女性を見つけると、作戦ルームに連れていく。
作戦ルームは所謂会議室だ。中央に大きなテーブル、そのテーブルにはディスプレイが仕込まれ、地域のマップとクリーチャーの核探知レーダーが映っている。更に、テーブルの周りを回転式の椅子が取り囲む。
那拓と女性は一番手前の席に座ると、那拓はすぐに話を切り出す。
「早速本題入る。俺の携帯さ、メアドをそのままで用意してくれる?」
「つまり、あのキメラの山は那拓さんに届いていたメールの無視が原因だと言う事でしょうか?」
そう尋ねる女性。スーツ姿で眼鏡を掛け、長い黒髪を首の辺りで束ねて1つ縛りにした身長は165㎝程。薄いメイクや、身形だけでなく、顔立ちからもその真面目さが伺える。
塙山撫子…26歳にしてREACT日本東部第7支部の兵士の管理及び第7支部管轄地区全警備システムの管理を務めている。
その撫子の質問に、那拓は確信を持って首を縦に振る。
「そうなると敵の能力はキメラの操作って事でしょうか?」
「記憶を観たけど、操られたってよりかは、何かに意識を乗っ取られた感じだった。人格って言うか、思考の根本が全く変わってたから、恐らく身体を乗っ取られたんだと思う。でも、それを1人の人間が同時に大量のキメラに、行うのは難しいよな…?」
俺の予想が正しければ、俺を狙うあの人にアビリティとかそういうのとは関係ないはずだけど…あり得るとするなら…
那拓が思考する横で、撫子が自分の考えを口にする。
「なら、ゴースト系か悪魔系のクリーチャーの仕業ですかね?彼らなら集団行動しますし、生物に取り付けば、思考も全く別物になりますもんね」
撫子の言葉に、いつの間にか部屋の隅で壁に寄り掛かっていた少女が立ち上がり、那拓と芳江の会話に入ってくる。
「だとしたら、主謀者は人である可能性は捨てきれないな。魔女なら悪魔系のクリーチャーを飼い慣らす者も中にはいるというし、巫女や祈祷師はゴースト系のクリーチャーを扱い、戦闘に参加した前例がある」
そう話す少女の名は木崎黒夜。
少し釣り気味の目に、凛とした顔立ち、豊満な胸元、剣道着を身に纏い、左腰には日本刀を携え、漆黒と言っても過言ではない程の黒い髪を後頭部で白いリボンで纏めてポニーテールにしている。
那拓の1つ上、17歳の黒夜は、戦闘の実力のみならず、周囲の人間達からの信頼を得て、去年、日本東部第7支部の兵長に就任した。
黒夜は今巡回の時間の筈だろ…またパートナーの火尖1人に巡回やらせてるのか…
その黒夜は顎に手を当てながら何かを考え込む。
「しかし、どちら片方に絞り込みたいところだな。ゴースト系と悪魔系…取り付き方に規則性は?」
黒夜が尋ねると、撫子が素早く答える。
「あっ!それなら簡単ですよ。ゴースト系は生前と同じ種の生物にしか憑かず、条件は自分の意識が対象の意識に打ち勝つ事。それ対して、悪魔系は対象の脳がある程度発達していれば何にでも取り付けます。というのも、悪魔系クリーチャーは対象に脳波を送り込み、テレパシーの様に脳内での会話であたかも対象にとっての“もう一人の自分”を演じるんです。そうして徐々に心に隙間を作り、その負の感情に満たされた心に入り込みます。階級の高い悪魔によっては遠隔で対象を操れたりします」
「俺が記憶観た感じ、テレパシーはなかった」
「そうなると、ゴースト系だな。キメラは人をベースにするから、場合によっては人のゴーストでも操れるのかもしれんな。那拓、ないのか?死んだ人間か、もしくは巫女や祈祷師みたいなゴーストを扱う様な人間のから恨みを買ったとかいう経験は?」
確かにあの人は祈祷師だけど…こんな物騒な方法で来る筈…どちらにせよ、あの人の話になったら、恨みを買う理由も聞かれるから…それはできない…
黒夜の問い掛けに那拓は視線をゆっくりと横にずらす。
「ない…」
黒夜と撫子は、そう答えた那拓を見て、ため息を吐く。
「あるんですね…全く…自分の事を知って欲しいいんなら、そんな分かりやすい嘘なんかついてないで、最初から素直に言って下さい」
撫子は那拓に哀れみの視線を送り、那拓の頭を撫でる。
「何すんだよ…」
「まぁ、それも仕方ないですよね。那拓さんは必要な時期に必要な愛情を貰えなかった訳ですし…悪いのは育てる気もない癖に那拓さんと養子縁組を結んだ人ですよ」
「どうでもいいから、人の頭を撫でるなよ…」
そう言いながらも那拓は両手を自分の座る椅子に押し付けるのみで、全く抵抗をしない。それどころか何処と無くもっと!と欲している様にも見える。
「ほぉ…那拓にも可愛い所があるのだな」
黒夜も撫子に交ざり那拓の頭を撫でる。
「よしよし…これからはお姉さん達が守ってあげるからな」
「おいッ!俺はもう子供じゃないんだぞ…」
那拓は照れ隠しに更に視線を反らし、表情をムッとする。
「子供じゃないと言ってる割には、反応が小学生だな」
「何が…」
「誉められて嬉しいけど、若干の反抗期を迎え、素直になれない小学生みたいな…?」
「何だよそれ…別に嬉しくなんか…」
那拓は赤面のまま、更に不満そうにする。
「嬉しくなんか…何だ?」
「嬉しくなんか…」
那拓は全身が温かくなるのを感じる。
舞や、アリス、リンとは違って、何かこう…上手く説明出来ないけど、言うなれば芳江さんと同じ部類の人達。子供の頃一番欲しくて、でも望んでいても手に入らなかった“温もり”を与えてくれる存在。だから、アリス達の前より少しだけ素直になれそうな気になってしまう。
「まぁ…ちょっとだけ…」
「うむ。よく素直に言えたな」
黒夜は、そう言うと、那拓の頭をほんの少しだけ先程より荒く撫でる。そして、黒夜が那拓から手を離した所で、撫子は人差し指を那拓の前で立てる。
「折角、顔‘だけ’はイケメンなんですから、いつもこんな風に素直にしてればいいんですよ。そしたら、リア充だって余裕でなれます!」
自信満々にそう言い放った撫子の愛撫から解放されると、すぐにさっきまで子供の様にキラキラしていた那拓の瞳が一瞬にして曇る。
「お世辞なんか要らないから…」
「お世辞なんかじゃないですよ!那拓さんは顔‘だけ’は良いです!ここだけの話、那拓さんって他の支部の女の子には結構人気あるんですからね!」
両手を胸の前で握る撫子は大きな声で必死に訴える。
「それもお世辞だろ…少なくともこの町の住人は俺を嫌ってる…家には『死ね!』とか『せめて地球から消えろ!』って落書きされるし…それに俺は非リア充なのに周りの人間皆リア充じゃんか…なっ?結果が語ってるだろ?俺は不細工なんだよ…顔も…その上性格も最悪の短所の塊…自分を理解しようとしない人間は見殺しにするわ…養親を殺すわ…幼馴染みも傷つけるし…義妹と義娘に寂しい思いさせるし…残忍なんだ…人じゃないんだよ…俺…」
那拓は椅子に指をグリグリと押し付けながら、ブツブツと呟き続ける。
「大丈夫ですよ!どんな罪でも罪悪感と反省さえあれば償えます!少なくとも那拓さんは二つを持っているじゃないですか!」
「俺の気持ちになんか価値ないし…償いをした所で俺みたいな非人が社会に許される筈ない…恨みを買って、殺されるのがオチだろ…」
「そんな事ないですって!那拓さんは立派な人です!リンちゃんを一人で育ててますし、舞ちゃんの事だって救ったじゃないですか!それに、確かに他人は見捨てる様な所もありますけど、子供は見捨てた事ないですよね?この前だって、舞ちゃん、リンちゃんがインフルエンザにかかって、学校休んでたのに、私が、小学校にゴブリンが3体も出た、って報告したら、いつもの倍近い速さで急行して、危うく殺されそうだった男の子を体を張って助けたの私鮮明に覚えてます」
「あぁ…あれね…あれは罪滅ぼしだよ…全く償えちゃいないけど…それに、大人のときは殺されそうになろうがそれを見届けちゃったしな…」
那拓はまた一人で勝手に当時の記憶を遡り、小声で更に自嘲する。それを再び説得しようと身を乗り出した撫子を黒夜は肩をポンと叩き、それを止める。
「本題からそれ過ぎだ。撫子もあんまり向きになるな。那拓、お前もお前だ。撫子にその黒幕について調べてもらう為に呼んだんじゃないのか?」
「俺はあの命令を続ける為に呼んだ…アリス達が何と言おうが、アイツ等より俺の命のが軽い…巻き込むくらいなら、俺がその命令を受けて死んだ方がマシだ…」
呆れ顔で黒夜は那拓の隣の席に座る。
「いいから、誰だ?お前を狙う奴は?」
「誰でもいいよ…俺が死ねば解決すんだし…」
那拓の投げ遣りな態度に、黒夜は頭を抱えて溜め息を吐く。しかし、撫子は何かを思い付くと、悪戯な笑顔になる。
「分かりました。とにかく、私が那拓さんの生い立ちを調べて、めぼしい人間をピックアップしときます。そしたら、関係者の皆さんに報告しますので…」
「関係者?」
「この支部に勤めてる人全員ですよ!勿論、那拓さんの家族の舞ちゃんや芳江さんにもですッ!いいですね?」
それでも那拓の態度は変わらない。
「勝手にしろよ…」
「じゃあお言葉に甘えて…」
撫子は笑顔を絶やさないまま部屋を後にする。
「どうせ見つからないだろうし…」
那拓はそう呟いて再び自嘲と言うより最早自虐の境地に入った自己否定を続ける。
「やれやれ…」
黒夜はもう一度溜め息を吐くと、那拓の頭を撫でながら、改めて那拓の説得を試みる。
(-_\)
ゆっくりと目を開けると、芳江の顔が目の前にあった。
「起きた?全く…いつも抱っこされてる癖に抱き締められただけで気絶しちゃうなんて…」
芳江が一生懸命に笑いを堪えていると、舞は上半身を起こしてムッとしてみせる。
「別に笑わんでもよかろう。逆上せてしまっただけじゃ」
「だって…パパみたいで…」
芳江は、「もうダメ…」と言って笑い出す。舞はバッと立ち上がると、笑う芳江を見下し、口を開く。
パパみたい?儂は、確かにお義兄ちゃんといるとドキドキして、頭の中が真っ白になって、自分で自分を制御出来なくなってしまう事はあるが…キスされて鼻血出す様な人間と一緒にされたくない!
とは思いつつ、芳江が自分の夫を本当に愛している事を知っている舞は、開いた口を閉じて、再び座る。
「パパみたい、ってそこまで言わんでもよかろう」
「だって…ね~」
舞が起きたのに気がついたリンとアリスが、舞の周りにやって来る。
「うんうん!だってあれは、ね~…」
リンに合わせて、アリスも頷く。それに抱かれるフーもニャと鳴いて、まるで同意している様に見える。フーは、アリスの腕から飛び降りると、舞の胸に飛び込む。フーが震えてる事など知らずに、舞は愛猫の帰還に喜ぶ。そして、気分が落ち着いた舞が辺りを見回すと、ようやく知らない部屋にいる事に気づく。
地面には畳が敷かれ、障子や掛け軸、高そうな壺が置かれている。
「それにしてもここはどこじゃ?」
「REACT支部だよ。なっくんがここで待っててって、何か支部内の宿泊施設の利用登録してくるって言ってたよ。あっ…それと、頭突きした事ゴメンね?」
リンがペコリと軽く頭を下げる。
「うむ。儂もボーッとしてたせいもあるから、それは許す」
そのお陰でお兄ちゃんにハグして貰えた訳じゃし…
舞はまた頬を赤らめる。
「ありがとう。ところでさ。暇じゃない?」
リンはそう言って、腰のポケットからカードを取り出す。
「いつもの奴じゃな?」
「トレーディングカード?」
リンの取り出したカードに芳江は興味を示す。
「そんなに珍しい…?」
アリスの問いかけに芳江はさらに驚きを顔にする。
「珍しいに決まってるじゃない!トレーディングカードなんて数百年も前の遊びよ?今はクリーチャーの影響もあって、モンスターなんて不謹慎だからって生産どころか、そういう会社自体無くなって…私だって本でしか読んだ事無いのよ?」
興奮して話す芳江を他所にリンはいくつかのデッキを畳の上に並べる。
「なっくんが作ってくれたんだよ。これが魔力デッキ。こっちはアンデット。これがドラゴン。もう1つは私専用!」
リンが説明すると、芳江は不思議そうにデッキ1つを指さす。
「この魔力デッキって何?」
「あぁこれね…魔女とか、祈祷師とか、あとは神系クリーチャーみたいな魔力を使う者の集まりだよ」
芳江はへぇ~、と何度も頷き、デッキを見比べる。その美顔はいつにない程子供っぽく、可愛らしくなる。
「儂はいつもの…」
舞がそう言って魔力デッキに手を伸ばすと、芳江がそれを横から盗る。
「へぇ…すごいなー。那拓ちゃんわ…母親の私でもこれは頭を下げざる得ないな」
1人で感心する芳江の隣で舞は目を潤ませる。
「それ儂が使おうとした奴じゃあ~…」
泣きそうな声で話すが、童心を取り戻した芳江も意見を曲げない。
「ダメよ!舞ちゃんは、まだ見習い魔法使いさんなんだから、これを使うのはママ」
「う~…」
舞は瞳にさらに多くの涙を溜める。
「仕方ないな~。じゃあ一回だけチャンスをあげる」
芳江は舞の手を掴み、それを自分の持ってるカードの上に乗せる。
「何か感じる?」
芳江の質問に舞は首を横に振る。
「じゃあ、やっぱりダーメッ!」
「何故じゃ?」
「このカード…1枚1枚に沢山の魔力が込められてる。他のデッキの魔力も触れずとも微かに魔力が感じられる。リンちゃんはいつもこのカード持ち歩いてるの?」
「うん!なっくんが、お守りになるから常に持っとけ、って言うからね」
「やっぱりね…このカードの裏面のこの不思議な模様は魔法陣と祈祷師が使用する印を組み合わせた物だと思う」
「印?」
リンと舞は、一緒に首を傾げる。
「式神って分かる?」
芳江が聞くと、リンと舞はさっぱり分からないとでも言うように首を横に振る。そんな中アリスがそっと口を開く。
「祈祷師が使う魔力の傀儡…ほとんどが動物の形をしてる…」
「正解!」
芳江がアリスの頭を優しく撫でると、アリスは口元を微かに釣り上げる。
「この印は、魔女で言うところの魔法陣みたいなもので、祈祷師が魔力を注入すると、式神を召喚出来るのよ。因みに祈祷師は式神や、契約を交わしたクリーチャーや、霊を使って戦う人達よ。魔女と同じく魔力を持ってるけど、魔女が式神を使えないのと同じように、祈祷師は魔法を使えないの、だから祈祷師が戦闘に出て式神を使うときは大抵の場合、攻めの式神と、術者の守護に徹する式神の2体を使うのよ。アリスちゃんはきちんと覚えておいてね。家の周りを包囲してたキメラの一部は式神に似た魔力を持ってた。多分、那拓ちゃんが持ってきた今回の案件は祈祷師が絡んでる可能性大だから…」
そう言い終えると、芳江は真剣な表情から再び気の抜けた笑顔になる。
「はい、という訳で全然無知の舞ちゃんは他のデッキ使いなさい!」
「はーい…」
舞は渋々弱々しい返事を返す。
「アーたんはどれにするの?」
「私も自分のあるから…ナタがピエロさんを通して渡してくれた…」
それを聞いた舞は瞳をうるうるとさせてう~…と唸る様な声を出す。それに一番早くリンが反応して、慰めようとする。
「泣かないでよ…折角、初めての4人同時対戦なんだからさ。なっくん専用の貸してあげるから。ね?」
それでも舞は泣き止まない。
儂だけお守り貰えてない…お兄ちゃんは何で儂にだけ?嫌われとるのか?
芳江はリンから那拓の専用デッキを受け取ると、それを舞の前で振って見せる。
「ほーら、大好きなお兄ちゃんの匂いが付いたカードだぞ~。要らないの?手汗とか付いてるかもよ~」
気づいた時には舞は泣き止み、さらには充血していた目の赤みまで引いていた。
「そこまでフェチな訳ないじゃろ!」
先程までの態度とは一変して、舞は怒りと喜びの混ざった表情で大声をあげると、芳江から那拓のデッキを奪取する。
お兄ちゃんのだ…
そう心の中で呟くと、カードを自分の胸に押し当てる。
「すごーいッ」
と舞の隣にいる芳江が急に大声で叫び出す。その叫びは悲鳴と言うより、歓喜に近いもので、皆が揃って芳江に、どうしたの?という視線を送る。
「見て!見て!ほら!これ私!」
芳江が興奮してカードを見せびらかす。
その手に持っているカードには、朱色の魔法着を身に纏い、満面の笑みで指揮棒の様な魔法の杖を振る芳江の写真がプリントされている。
「すごい!すごい!私最高レベルの魔女だって~」
「うん!なっくんが作ったカードだからね。勿論ヨッシーと舞姫のカードもあるし、特にヨッシーは激レアなんだよ!」
その言葉に舞まで高揚する。
「儂のもあるのか?」
リンは自分のデッキからカードを一枚取って、皆に見せる。
そのカードは補助の為のカードらしく、タイトルは『成功までの第一歩』。写真の舞は、紫色の魔法着に、先が少し曲がった大きめのとんがり帽子を被り、手には自分の身長と同じくらい長さの木製の杖を握っていて、女の子座りしている。そこで落ち込んで涙を浮かべている。
「可愛い…」
アリスがそう呟くと、舞は写真とは裏腹に思わず微笑を浮かべる。
「しかし、何でよりによって、魔法の合成に失敗したときの写真なんじゃ?」
「ん~…多分、舞姫が魔法着のときは大抵修行のときだけで、その時は集中してて、あんまり表情の変化がないから、こんな時くらいしかシャッターチャンスなかったんじゃないかな?でも効果は強いんだよ!戦闘で負けたカードをコイントスで表が出たら、レベルアップして復活させられるんだもん」
「うわっ!こっちはリンちゃん?2歳頃かな?ちっちゃーい!」
再び芳江が急に声を上げる。その声にリンは焦って芳江からカードを奪おうとする。
いつも使ってるカードじゃろ?何でそんな焦る必要があるんじゃ?
と密かに疑問を抱きつつ、舞は那拓のデッキのカードに目を通していく。
「ダメ!それは絶対ダメ!恥ずかしいから!」
芳江は隙を見つけると、逆にリンからデッキを奪う。
「あらあら、こっちはアリスちゃんかな?ランドセルの方が少し大きいんじゃない?」
「えっ…?」
流石のアリスも自分の昔の写真があるとは思っていなかったのか、驚愕と羞恥の表情を隠せない。
「リンのデッキに何で…?」
驚きの余り硬直して動けなくなったアリスに対し、リンは部屋中を駆け回る芳江を必死に追い掛ける。
「待ってよ!それを初見の人に見せるときは覚悟が~…」
「大丈夫よ!可愛いもの」
「だからって、じっくり見ないでよ…それに友達以外に見せるのも初めてなのー!」
二人は狭い部屋の中を走り回り、芳江は警戒なステップでリンの突進を避ける。勢い付いたリンは止まれない。
「うわっ!」
「ふぇ?」
勢い余ったリンは、座っている舞に突っ込むと、舞に覆い被さる様にして倒れる。そして、その勢いで畳の上に置いてあったデッキのカードが散らばる。
散乱したカードには、リンの赤ん坊のときから今に至るまでの成長の記録の様な写真が沢山あり、アリスの場合はランドセルに黄色い帽子を被っている小学生の頃と、ブレザーを着衣し、黒いハンドバックを持って、どこか気恥ずかしそうに体をすぼめながら胸元で小さくピースしている中学生の頃の写真が目につく。
舞は起き上がって辺りを見回す。
あれ?
そう疑念を持った瞬間、芳江が舞より早く口を開く。
「那拓ちゃんの写真は無いの?」
その途端に騒いでいたリンが押し黙る。
「ナタ、まだ写らないの…?」
アリスがリンに尋ねると、リンは視線を横に逸らす。
「な、なんの話?…」
「お義兄ちゃんの真似をするな!」
舞の発言に芳江はハッと何かに気づくと、リンに疑いの目を向ける。
「何か隠してるのね!何を隠してるの!?話しなさい!」
リンは、一生懸命に両手で自分の口をふさいで首を横に振る。
「ナタは写真に写らない…私と初めて会った時からずっと…ナタは呪いのせいって言ってた…」
横から入ってきたアリスの言葉にリンは地面を両手を地面について項垂れる。
「終わった…それだけは絶対言うなって言われてたのに…ヨッシーに一番言ったらダメな奴なのに…」
「何で私に言ったらダメなの?」
芳江の声には微かに怒気が混ざっている。
「だって桂木家だけだもん…この支部でそのことを知らないの…」
リンの言葉に芳江は目を光らせると、魔法着に着替えて部屋を出ようとする。危険を察知した舞とアリスは芳江の前に立ちはだかる。
「どいてくれる?那拓ちゃんに話があるの」
「ダメじゃ!お義兄ちゃんだってママと儂を気遣って黙ってただけじゃろ?」
「分ってる。だから、黙ってていい事と、悪い事の違いを説明してあげなくちゃいけないでしょ?」
そう話す芳江は、ニコッと微笑んでいながらも、目だけは笑っていなかった。
一方、部屋の隅では、リンが1人で、
「なっくん、ごめんなさい」
と何度も呟いていた。
今回も説明パートになってしまいましたが、読みやすかったでしょうか?
次回は遂に芳江さんを怒らせちゃいけない理由が明らかに!?
感想・アドバイス等はまだまだ受け付けております。
最後に、今回も読んでいただきありがとうございました。