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The Eternal Memory  作者: 神裂 迅雷
鎖絡めの魔王の子=傷だらけの神童
6/38

6.不足

どうも神裂 迅雷です。よくよく見たら前書きする人少ないですよね。やはり蛇足なのか…

それでは早速本編どうぞ!

(ノ◇≦。)

「それでは、第1回なっくん救済会議を始めます」

 リンが元気良く大きな声を出す。

 那拓の回復が終了し、昼食を終えた女子は和室に集まった。

「何するの…?」

 そう尋ねるアリスは、家に来てから舞の飼っている黒猫を抱えて離さない。

 お義兄ちゃんに留まらず、フーまで…舞は和服の裾をグッと握り締める。

 リンは、部屋の中央に置かれた円卓を叩いて二人の注意を引く。

「情報交換だよ。なっくん、秘密多いからね…なっくんの事知らないと、あの壊れかけの精神を救えないでしょ?だから、少しでも知ってる事をシェアしようって訳なのだよ」

「じゃあ、聞くけど…ナタの知り合いでジョーカーって人いる…?」

 その言葉にリンの笑顔がひきつる。

「どっ、どのジョーカー?」

「3番目…知り合い…?」

 アリスの質問にリンは少し困った様な顔をするが、暫く黙り込み、最後にはコクリと頷く。それを見ていた舞は首を傾げる。

「ジョーカーって誰じゃ?」

「えー!そこから知らないの!?」

 リンが相当驚く姿に、それが常識である事を察知した舞は照れ半分に頷く。

「可哀想…」

とリンは誰にも気付かれない様にそっと呟いてから説明しだす。

「いい?ジョーカーって言うのは、REACT最強のプロディジーだよ。格闘技術、武器の扱い技術は屈指。そして、アビリティ以外に強力な能力を持ち合わせている。最初は2人しかいなくて、1人は『慈悲の切り札』っていう通り名で、プロディジーでもあり、魔女でもあるの。体質的に無限の魔力を持ち、アビリティは幸運を呼び込む能力。もう1人は『暴威の切り札』、アビリティは全核陽陰同時適合。核を体内に取り込むと、陽型と陰型の良点部分のみが現れるんだよ。どんなに核を取り込んでも、寿命は縮むどころか寧ろ延びて、身体能力もアップし、取り込んだクリーチャーの能力も使用可なの。そして…5年前に現れたのが3番目のジョーカーって言われる『独白の道化師』。ジョーカーの中で一番格闘、武器の技量が高くて、アビリティは不明、ある核に強い陰型適合を持ち、その暴走によって町をいくつも取り戻したんだよ。その上魔法使いなの。流石に魔法使いは分かるよね?」

 リンは舞に視線を送る。舞は、それに気づいてリンの問題に答える。

「魔法使いって要するに魔女じゃろ?魔女は常人より遥かに高い魔力を持って産まれた女子おなごで、その魔力を体外に放出して、魔力を具現化するのが魔法じゃ。基本的な魔法の属性は火、氷、雷の3つで、これらを組み合わせることで大地や、風、水のような応用魔法も使用可能なのじゃ」

「流石、魔女!100点以上の回答!」

 リンは、舞に笑みかけると、話を続ける。

「まぁ、私が舞に答えて貰いたかったのは魔法使いっていうのは女の子しかいないって事だけだったんだけど…でも、3番目のジョーカーは男なんだよ。すごいよね?」

 アリスはうんうんと何度も頷く。

「男の魔法使いなんての本当におるのか?だって魔法は魔女の血を引く女子だけしか使えないはずじゃろ…」

「本当に男なの!実際私会ったもん。でも、どうやって魔法を身につけたかとかは勿論、何時もピエロの仮面してるから顔も分からないけど…噂じゃイケメンだってー」

「どこにいるか分かる…?」

 アリスの質問にリンは残念そうに首を横に振る。アリスは小さく溜め息を吐き、猫の頭を撫でている。リンは何かを思い出した様に口を開く。

「あっ…そういえば今夜、道化師さんと会う約束があるんだ」

 アリスのツインテールがピクリと小さく動く。

「ホント…?」

「うん!アーたんも来る?」

 アリスは力強く頷く。

「舞姫は?」

「儂も行く」

 魔法を使うんじゃ。そのピエロが女子かもしれんし、お義兄ちゃんとどのくらい親しいか気になるし…

「分かった。なっくんに伝えとくね。他に質問は?」

「今度は儂が聞いてもよいか?」

「何?」

「先日、アリスの言っておった、お義兄ちゃんの携帯にくるという訳の分からぬ任務はどうするんじゃ?」

「それなら心配いらないよ」

 リンはアリスと目を合わせると、「ねー」とお互いに相槌を打ち合う。

「解決したのか?」

 舞は目を輝かせる。リンはにこにこして、少し溜めてから答える。

「携帯を土に還したんだよ。放置してたらなっくんはまた従うでしょ?それに今はアーたんがいるもん。敵が来たら返り討ち!それに敵もなっくんを『歩く無限メモリー』として使ってるから、そう簡単に殺そうとはしないはず…」

 リンが口を動かす度に舞は不安そうな表情になっていく。

「う~…それで、もし、ホントにお義兄ちゃんが狙われたらどうするんじゃ!…ヒック…」

 舞は再び涙ぐみ、しゃくり上げる。

「大丈夫、そのときの為に私と舞姫は鍛えて来たんだから」

「う~…」

 儂らだけじゃ低級のクリーチャーしか倒せない…

 そんな舞の背中をアリスが優しく叩く。

「ピエロさんがいる…今夜、ナタの事を頼む…」

「そやつは…聞いてくれるか…?」

「優しいから大丈夫…」

 隣にいたアリスが舞の背中を暫く擦ると、舞はなんとか泣き止む。

「もう1つ質問していい…?」

 猫に指を舐めさせながらアリスは尋ねる。愛猫がアリスになつく姿を目にした舞は思わず俯く。

 う~…フーが戻って来ない。リンやお義兄ちゃんが抱いてるときは10分もすれば儂のところに飛び込んで来るのに…お義兄ちゃんが買ってくれた猫だけに、アリスにあそこまでなつかれると、お義兄ちゃんまで盗られちゃうんじゃないかって不安じゃ…それでなくても、どんなに遠い物でも見る事が可能な千里眼の能力のせいで見たくないものまで見るし…ガーゴイルを倒した帰路、お義兄ちゃん楽しそうな姿。その隣にいるアリス…フーも儂と遊ぶときより楽しんでたらどうしよ…お義兄ちゃんとフーがいなくなったら、また1人ボッチの生活に戻るのか?

「舞姫聞いてる?」

 その言葉に舞は我に返る。リンは今にもキスしてしまうのではないか、というところまで近づいていた。心なしかリン唇は未だに進行して来てるような…

「ふぇ?」

「えいッ!」

 リンの額が舞の額に勢いよくぶつかる。ゴスッ!と鈍い音が部屋中に響き渡る。

「う~…何するんじゃ~」

 目を潤ませる舞を他所にリンはアリスの方に向き直る。

「こんな感じでいいの?」

 アリスが頷く。

 あれ?フーが居ない?まさか、儂を置いて…

「とにかく額を刺激すればいい…」

「ふーん…なっくんと7年も一緒にいたけど気づかなかった」

「何がじゃ~…?」

 舞は額を押さえながら涙声で尋ねる。

「なっくんの自嘲モードを止める方法だよ。つねったり、ビンタしたり、噛みついたりしたけど全然効果ないんだもん。アリスに聞いたら額に刺激を与えると、止まるって言うから…丁度、舞がボーッとしたから確かめるには持って来いかなと思ってねー」

 そんな理由で…やっぱりリンも儂の事嫌いなんじゃ…

「う~…ヒック…」

 舞が本格的に泣く事を察知したリンはゴメンね、と何度も繰り返す。しかし、リンの謝罪も虚しく、舞はわーんと泣き叫びながら部屋を飛び出す。

「追いかける…?」

「大丈夫だよ…すぐに戻って来るから。トランプでもして待ってよう?」

 アリスが頷くと、リンは棚からトランプを取り出し、表情を曇らせながらカードを切る。


(--、)ヾ(^^ )

「フー、お前は舞の淋しさを紛らわせる為に態々REACT日本本部の管轄地区まで行って、買ったんだからな」

“御主人をボクから盗ったのはお前ニャ”

「俺が何時…?」

“しらばっくれるニャ!御主人の恋心を知ってる癖に、気紛れにクサイ事言ってるニャ。『俺の側に居てくれるか?』とか『お前は俺が守ってやる』とか…”

「別に気紛れで舞を弄ぶっていうよりか、俺はただそうしたいって言ってるだけだろ。それでなくても俺、目の前で大切な人が死んでいく姿見たからさ…これ以上失いたくないし、それこそ舞が自分の意思で俺の前から逃げたら立ち直れない…」

“それニャ!それがいけないのニャ!冗談半分で言うならまだしも、お前がそれを本気で言ったら元からお前に惚れてる御主人は興奮するに決まってるニャ。そのせいでボクはあの金髪に抱き締められて…頬をグリグリ当てられて…御主人がいながら、ボクの心はあの金髪に奪われてしまったのニャ!”

「随分楽しんでるよな…」

“とにかく、ボクは御主人よりあの金髪といたいのニャ!”

「舞はどうするんだよ?」

“お前に任せるニャ”

「お前な…一つだけ忠告するけど、アリスは人間だからな。お前の事は猫としか見てないからな」

“ボクは純粋に彼女を愛しているのニャ!愛は種の壁を越えるのニャ!”

「うん!頑張れ!」

 那拓は冷ややかな目で、キャットフードを食べるフーを見つめる。那拓がフーの頭を撫でていると、不意に舞が那拓の胸に飛び込んでくる。

「どうした?」

 泣いている舞の頭を撫でながら、那拓は記憶を観る。

「う~…リンが~…」

“頭突いた~…2人がお義兄ちゃんの携帯破壊したせいでお義兄ちゃんが殺されちゃう…お義兄ちゃんがアリスと楽しそう…フーまでアリスにベタベタ…”

 那拓がフーを睨むと、フーは目を反らし、静かに部屋を去っていく。

「とにかく泣き止めよ…リンにはちゃんと叱るからさ」

 舞は顔を那拓に押し付けたまま頷くが、それでも泣き止まない。

「フーな、さっき記憶観たけど、舞に嫉妬させる為にアリスに甘えてたらしい。俺に舞が盗られそうだったからやったんだってさ。それに俺は舞と一緒にいると楽しいよ」

 舞は顔を上げ、ぐすん、ぐすんと肩をならした後、再び那拓に抱きつく。

「携帯の件も寧ろ敵を知るチャンスだろ。敵は唯一のコンタクト手段を失ったんだ。近々、向こうから何かしら仕掛けて来る事は確実なんだし、対策を上手く立てれば敵の正体だけじゃなく、討ち取ることも可能だろ?」

「…もし、お義兄ちゃんに、既に呪いとかが掛けられてたらどうするんじゃー!…」

 そう言うと舞は更に激しく泣き出す。

 ギクッ!こいつ…偶に鋭いな…

「安心しろって。大丈夫!呪いっていうのはアビリティと違って魔法の一種なんだ。だから、魔法使いに頼めば簡単に解けるし、撫子だって一応、解呪師とのコネクションぐらいはあるよ」

 那拓の言葉に、舞は少し安心したのか、目を擦りながら呼吸を整えようとする。

「じゃあ、相手がアビリティならどうするんじゃ?」

 アビリティ…人によってその能力は異なるからな。それこそ、漆みたいなテレポートを使って、爆弾を転送した瞬間に起爆!これだけでも対策法は少ないし、影に潜る能力で背後から急に出現してサクリ…想像した物を具現化する能力で、衛星ビーム砲…やっぱり終わりだな。考えれば考える程最悪のシチュエーションが頭を過る。

 那拓は思わず冷や汗をかく。

「まぁ、アビリティなら対策は簡単だろ?」

 那拓が目を反らすと同時に、舞は再びしゃくり上げる。

「う~…やっぱり死んでしまうじゃろうがー…」

 那拓は暫く困惑していたが、すぐに対処法を閃く。

「607年の出来事は?」

 そう聞くが、まるで効果がない。それどころか話を逸らしたせいで、舞の不安は更に増大し、今まで一度も見たことない程に激しく泣き喚く。

「う~…嫌じゃ~…死んじゃ嫌じゃ~…下衆がいないと…いないと…」

 そこから先はまるで言葉にならない。

 自分をそこまで心配してくれる人ができたってだけで、もう人生悔いなし!ってくらい嬉しい…

 今度は那拓から舞を抱き締める。

“お義兄ちゃん、本当に死んじゃ嫌じゃ。儂、また一人ぼっちになりたくない…それに、儂だってお義兄ちゃんはママ以外に唯一信用できる大切な人じゃ…じゃから…こんな…状況は…ちょっと…”

 那拓が感動に浸っていると、しゅぅぅぅ…と水が蒸発する様な音が耳元で鳴る。そして、舞の思考とのリンクがぷつんと切れる。

「ふぇぇぇ…」

 那拓は舞から離れるが、舞は既にオーバーヒートを起こし、目を回していた。千鳥足でフラフラする舞の肩を掴む。

「舞…?」

 那拓は舞の体を揺するが、ふぇ!の反応しかない。

“恐るべし!人生最後のモテ期だニャ!”

 いつの間にか戻ってきたフーは那拓に体を擦り付け、思考を流し込む。

「最後って…」

“16歳にしてモテ期使い果たして、幼女相手に必死さが見えるニャ!まぁ、それも仕方ないのニャ。なんたってお前の最初のモテ期は…”

「や、止めてくれないか?あの話だけは…トラウマなんだ…」

 那拓は急に震えだし、気絶した舞を再び抱き締め、その和服をグッと握る。

「ふぇ?」



(-_-;)

「右?左?」

 さすがアーたん。バハ抜き程度ならポーカーフェイス完璧!

「うーん…じゃあ右!うわー…道化師だ~」

  リンは軽く気を落とし、取ったカードと自分の持っている一枚を混ぜ合わせて、手札をシャッフルし、アリスに選ばせる。リンはふと部屋のドアの方に目を向ける。

「舞姫遅いね。いつもなら、なっくんに適当にあしらわれて、あたふたしながら帰ってくるのに…」

「上がり…」

 リンが手札に目を戻すと、既に手にはジョーカーしか残されていなかった。

「えー!嘘!?私見てなかったのに…」

 アーたんは無表情になっちゃったけど、勝負運の良さは相変わらずで何となく安心した。

 リンは少し薄笑いを浮かべると、トランプをまとめ、カードを切る。アリスが不意に口を開く。

「話を戻す…ナタ、何で本気で戦わないの…?」

「それは…」

 言えない…言いたくない…口に出せないよ…私がなっくんのお荷物になってるなんて。分かっていても、それを口に出したら、なっくんと居られなくなっちゃう気がするから…

 リンはトランプをジッと見つめて続ける。

「今は言えない…」

「そ…」

 アリスはそう呟き、部屋を後にする。

「えっ?トランプは?」

 リンがそう言ったと同時にドアが閉まる。リンはしょぼんと項垂れながら、トランプを元の場所に戻す。

「はぁ~」

 アーたんは、私との遊びをすぐに放棄するところも変わってないのかー…昔のなっくんは満足するまで遊んでくれたけど、そのなっくんは舞姫相手に忙しいし…ああ~、1年前みたいになっくんと二人きりで放浪したいな。その時はなっくんに存分に甘えられたのに…そもそも、舞姫はズルいんだよ。あんな簡単に泣けるんだもん。私なんか、とにかくなっくんが近くにいれば、それだけで安心しちゃって泣けないもん…でも…やっぱり…少し寂しいよ…それも、同年代の女の子になっくん盗られるんだもん…義子より義妹派?…私は捨てられるのかな…?今日だって、なっくん、私を道化師さんに預けるって…なっくん…

「親代わりなら、たまには構ってよ!!ちょっとは私を心配してよ!!私だって寂しいんだよ!!」

 リンはふと心で思った事を叫んでみる。

「悪かったよ…」

 その声にリンは思わず飛び上がる。

「なっくん…いつから…そこに…」

 リンは錆びたロボットの様なぎこちない動きで振り返る。

「どうせ俺は親失格だよ…結局、俺も子どもの事何一つ分かってないダメ親だ…」

「なっくん!これは違うんだよ!別になっくんの事をダメとは言ってないよ!一緒に遊んでもらう為の、ただの口実で…」

 リンの必死の言い訳も、那拓の耳にはまるで入らない。

「ネグレクトと何等変わんないよな…リンはいつも明るいし、元気があって、すぐに顔に出るから、ちゃんと見てれば気づくと思ったんだけどな…俺のアビリティの意味ってなんだよ?…俺の生きてる意味ってなんだよ?…俺が義親に捨てられた分、自分の子供は幸せにするって決めたのに…お前とも、お前の母親とも約束したのに…最低だ…クズだ…それこそ下衆だ…死ぬか?…いてもいなくても同じだし…」

 リンは那拓に飛び付き、額に頭突きをいれる。

「いって~…」

 那拓は額を押さえる。

「違うよ!なっくんは、私が寂しがってるのに気づいたから、今夜、道化師さん呼んでくれるって話にしてくれたんでしょ?私が夜まで待てなかっただけなんだから、別になっくんは悪くないよ…だから、死ぬとか言わないでよ…」

 リンが俯いたとたんに、那拓の手がリンの頭を撫でる。

「悪かったよ…でも、やっぱりリンは俺の娘だもんな。寂しくさせたら親失格だよ…散歩でも行こう。久々に二人きりでさ。そこで少し挽回させてくれる?」

 その言葉にリンは顔を上げる。

「うん!分かった!」



「それじゃあ、舞姫は気絶して、フー君はなっくんのパンドラの匣を開けて、そのせいでなっくんに殺気を当てられてベットの下に潜っちゃったんだ」

 リンと那拓は並んで那拓の家の周りの森林の中を進んで行く。

「あぁ、暫くは出てこないだろうな」

「それでアーたんは?」

「着替えるからって家に戻った」

「ふーん…なっくん!」

「何だよ?」

 リンはにこにこと笑み、那拓の腕を抱くように掴む。那拓はどこか嬉しそうに困ってみせる。

「あんまり体を押し付けるなよ」

「私まだ小学二年生だよ?まだまだ甘えたい盛りなんだよ。今ぐらい、いいじゃん!どうせ後数年もすれば反抗期なんだし」

「それはそうだけど…なんかその甘え方は恋人みたいで少し恥ずかしいんだよ」

 那拓はリンに掴まれた腕を少し引っ張るが、リンは体重を掛けてそれを阻止する。

「そういう事は舞姫に言ってあげなよ。舞姫に関しては、なっくんへのアピールで甘えてるんだし、私は家族としてなっくんに甘えてるだけじゃん?」

 那拓の腕を更にきつく抱き締めるリンに、那拓は視線を外す。

 なっくんが私を少しでも意識してくれてるのは嬉しい!でも…

 那拓の行動にリンは頬を膨らませる。

「ダメだよ、なっくん!せっかく子供が甘えてるんだから、不要な思考は捨てなきゃ!」

とリンが怒ってみせると、那拓は少しの間キョトンとした顔をして、それからリンの頭を髪がクシャクシャになるくらいに撫でる。頭を撫でてる間、急に那拓は小さく声を出して笑う。リンは、そんな那拓に首を傾げる。

「私、何かおかしいこと言ったかな?」

「違うよ。ただリンが成長したなーって思っただけ。それが嬉しかっただけだよ」

 その言葉でリンも笑顔になって、誇らしげな表情になる。

「えへへ~、成長したでしょ?」

 だからもっと私を見ててよね?血が繋がってないとはいえ、私はなっくんの子なんだから…

「そういえば、リン、舞に頭突きしたんだってな。何かあった?」

 那拓は普段通りの口調で唐突に切り出す。

 なっくんは怒声で威圧しないから、子どもとしては話し易い。まぁいくら怒気がなくても、反抗しようものなら『俺ってウザイんだ…』とか『俺は関係ない?…絶交?…そうだよな…俺なんかと一緒にいたくないよな…』って自嘲モードになって、本気で傷ついて、膝を抱えて座り込まれると、何か自分まで悲しくなっちゃうから反抗できないんだけどね。

「ちゃんと謝ったよ…舞姫がボーッとしてたから…って思いつきで頭突いたのはちゃんと反省してる…舞姫泣いてけど、私の事何か言ってた?もうクリーチャーなんかと関わりたくないとか…」

 先程まで明るかったリンの表情が曇る。那拓、リンのしがみついた腕を目一杯自分の体に引き寄せてから答える。

「いや、逆。リンが、私の事嫌いになったのかな?って舞は思ってる。帰ったらちゃんと気持ち伝えてやって。別に舞のこと嫌いじゃないよ、ってさ。舞はクリーチャーのお前を受け入れてくれた数少ない親友だろ?」

「うん…」

 そうだ…私を受け入れてくれる人がこの町には居た。だから、なっくんはこの地域に留まってくれたんだった。芳江さんの養子になったのも私の為。全部私の為じゃん!それを私は勘違いして1人で傷ついて…なっくんが私を嫌いになる訳ないのに…でも…

「…ねぇ…なっくん」

 リンは真剣な顔つきになり、那拓の顔を下から覗き込む。

「何だ?」

「なっくんは私の事好き?勿論、家族として」

 那拓はもう一度リンの頭を撫でる。

「当たり前だろ」

「舞姫は?」

「好きだよ」

 リンは一息置いて尋ねる。

「じゃあ、アーたんは?」

「俺が一番人を信用出来ない時に、アリスはいつも俺の味方をしてくれた。それでも、当時俺はアリスに置いていかれるが怖かった。だから、先制してあの指令に従ったけど…今、アリスの方から俺に会いに来てくれた。そして、未だに高嶺さんの事件の犯人は俺じゃない!って信じてくれてる。そこまで俺みたいな屑を信用してくれてる相手を嫌ったら罰が当たるだろ?」

「じゃあ、約束!舞姫もアーたんも含めて、もう私達をあんな指令ごときで捨てようとしないで」

 那拓は大きく頷き、リンの前で小指をたてる。リンはその指に自分の小指を絡める―

「ねぇ、なっくん!」

 そう那拓に呼びかけたリンは眩しいくらいの笑顔で那拓を見上げると、那拓も優しく微笑み返す。

「何だ?」

「肩車して!」

「いいよ」

 リンには親子2人きりの時間がいつもより幸せに感じられた。

今回は投稿する前に一部内容変更しました。リンと那拓が二人っきりで散歩するシーン。実はあのシーンで…

さて、今回は楽しんでいただけたでしょうか?

引き続き、感想や、アドバイスをお待ちしております。

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