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The Eternal Memory  作者: 神裂 迅雷
鎖絡めの魔王の子=傷だらけの神童
5/38

5.協力

またまたこんにちは。神裂迅雷です。

相変わらず文字数多いこんな小説を読もうとしていただきありがとうございます。

早速本編どうぞ!

 ゴブリンを倒したのも束の間、すぐに通信機から次の指令が下りる。

「東部の廃ビル周辺で再び空間の歪みを感知しました。すぐに向かってください」

「了解!風間那拓、AR1-S、次の任務に移行する」

 那拓達は、再びAS状態となり、移動を開始する。その直後、また通信が入る。

「亜空間、完全に開きました。急いで下さい」

 その報告を聞いて那拓は走る速度を上げる。

「ヤバイな…アリス、先に行ってくれるか?俺より速く走れるだろ?」

 アリスは那拓の横に並ぶと、首を横に振る。

「道が分からない…」

「それなら、こうすれば…」

 那拓は両足に力を入れると、勢いよく上に跳ぶ。アリスもそれに続いて軽く地面を蹴ると、民家の屋根の上に着地する。那拓は、それを確認して隣の家の屋根に跳び移る。アリスも那拓の後に続いて次々と跳び移る。

「見えるか?あの灰色のビル」

 那拓が指さした先を目で追った後、アリスはコクッと頷く。

「先に行けるだろ?」

 那拓がアリスに訪ねた瞬間、再び通信が飛んでくる。

「亜空間からクリーチャー出現。パイア5体です」

 それを聞いてアリスはスピードを上げようとするが、那拓がそれを制止する。

「パイア相手なら一人で行くな。集団戦法を得意としてるクリーチャー相手に一人で斬り込むのはいくらアリスでもマズイ」

 アリスは、那拓が追いつけるように速度を落とす。アリスは、那拓が横に並んだのを確認してから尋ねる。

「パイアって何…?」

 そこからかよ!

 那拓はそれを心の中に留める。那拓はもう少しスピード上げても大丈夫だ、とジェスチャーで伝えた後にその質問に答える。

「パイアは、まぁ簡単に言えば巨大な猪かな。でも、パイアの体の表面は毛じゃなくて黒い甲殻で覆われてて、割れたりするとより堅く再生する。そのおかげてパイアは激しい突進を繰り返して、衝突を重ねても自滅する事はない。その上、体重も大きい奴なら500キロ近くになる。それがロケットランチャーみたいに突っ込んでくる」

「集団戦法は…?」

「基本的には円陣形が多い。敵を囲む様に陣形を作って隙を伺い、攻撃を仕掛ける。1体の突進を避けると、回避した先で別の奴の突進に合う。問題はパイアの突進は急に止まる事が可能と言う点と、大きなダメージを受けたパイアの突進回数を減らされる点だな。攻撃をどれだけ避けようと、陣形は崩れないし、ダメージを与えれば甲殻が回復するまで飛び込んで来てくれない」

「対策は…?」

 無表情で尋ねるアリスに那拓は自信満々の笑みで答える。

「ある」

 那拓は通信機に手を当てる。

「漆、現場に着いたら対戦車ライフル送ってくれるか?」

「ほいほーい」

 撫子とは別の声が緊張感のない返事をする。那拓の通信を隣で聞いていたアリスは俯きつつ言う。

「銃は使わない…」

「アリスの場合、使わないじゃなくて使えないだろ。まぁ、俺の場合、使えるじゃなくて使わなければならない、だけどな」

「それより…作戦は…?」

 アリスが問うと、那拓はフッフッフ…と悪魔の様に笑ってゆっくりと口を開く。



(`・Δノ)ノ

 廃ビル前に到着したアリスは、建物の屋根から跳び下りて、ビルの正面から中に入ろうとする。だが、そこに巨大な影がアリスとビルの間に割って入る。アリスが周りを見渡すと、既に5体の巨体に囲まれていた。

 ナタの言っていた通りだ。

 パイア…そのフォルムは猪その物で、全身を鎧の様な漆黒の甲殻が覆っており、赤い目がぎらぎらと輝いている。高さは小さい物で大体150センチ、大きい物は180センチ以上もある。

 パイアらは、アリスの回りを、円を描きながらのしのしと歩く。アリスの背後に回った1匹が突如、突進を繰り出す。気配を感じとったアリスは身を捩らせながら、それを避ける。間髪入れずに2匹目、3匹目が畳み掛ける。アリスは驚異的運動能力でこれを軽々と避ける。

「準備完了!先に一番でかい奴消すぞ」

 那拓の声が通信機から流れる。

 やっとナタと協力して戦える。さっきは私が先走ったせいでナタが出番を失ってショック受けてたし…

 アリスは、そんな事を考えながら、パイアの連続突進を避けていく。そして、遂にアリスの正面に一番大きなパイアが回って来て、次の瞬間に突進を行ってくる。アリスは、構えをとると、拳を大きく振り被って突進してくるパイアの眉間に拳を叩き込む。バキッ!と何かが割れた様な音が辺りに響き、それと同時に両者の体が反発したかの様に互いに真逆方向に吹っ飛ぶ。アリスはビルの中に突っ込み、パイアはビルの敷地を囲むフェンスに突っ込む。

「うっ…」

 アリスは背中をコンクリートの柱に強く打ち付け、思わず声を漏らす。

 痛い!けど、この程度でいちいち痛みを訴えてたらナタの苦痛を和らげるなんて到底できない。

 スッとアリスは起き上がると、服に付いた砂を払う。

「アリス大丈夫か?ビルの周りは包囲されてる。下手に外に出たら危険だし、どうする?」

 那拓の言葉にアリスは少し失望する。

 このままじゃナタの作戦通りに事が進まない。

「あのでかいのは…?」

 アリスが尋ねると、那拓は淡々と答える。

「きちんと核を撃ち抜いた。このままビルを包囲してる奴も撃ち殺すか?」

 でも、そんな事したらナタの存在がパイアにバレちゃう。ナタが今使ってる対戦車ライフルは、確かにこの時代になって改良されていて、一発の威力は最早昔とは比べ物にならない程に達している。しかし、代わりに一発撃つ毎に装填しなくちゃならない。つまり、1体倒したとしても、その後の隙でナタが包囲され兼ねない。

「ダメ…」

とは言ったけど、どうすれば…

「じゃあ、屋上に行けるか?」

「何するの…?」

「基本的にはさっきのと変わらない。アリスがぶっ飛ばしたパイアを俺が撃つ」

 確かに屋上なら外に出た瞬間に不意討ちを受ける心配はかなり少ない。

「分かった…」

 アリスは、ビルのエレベーターのドアを蹴りで破壊し、中に入ると、壊したドアを掴む。それをエレベーターの天井に向かって投げて、天井に大きな穴を空ける。そこから両足に全力を込めて垂直に跳び、エレベーターを出ると、天井に穴を空けたドアがアリスの上から降ってくる。アリスは、空中でドアをキャッチすると、再び真上に投げて更にビルの屋根を破壊する。ドアを投げた反作用で落ちていくアリスは、エレベーターのワイヤーを掴むと、腕力だけで自分の体を壁に向かって飛ばす。その後、壁に蹴りをいれ、先程穴を空けた屋根から屋上に飛び出ると、屋上の中心に着地する。

「パイアがビルの屋上に向かって外壁を登り出した。次は一番小さいのを潰す。それとアリスは、軽いんだから、正面から敵の力を受け止めるんじゃなく、攻撃はパイアの左右から加えるとかの工夫した方がいいと思う」

 今、然り気無く“軽い”って誉められた…?

 アリスはツインサイドアップをピクピクと上下に動かす。喜んでるのも束の間、パイア達は遂に屋上に到達し、アリスを囲む。



(`-_〇

 俺って相変わらず最低だな…アリスの事を褒めて機嫌が良くして囮を頼む。おかげで俺はダメージ受ける事なくいいところをもっていける。パイア戦でのベストな戦法とはいえ、流石に女子にばかり戦わせるわけにはいかないよな…今日中はアリスに任せて、明日からまともに戦うか…

 そんな事を考えながら、那拓は廃ビルから少し離れた茂みの中で、うつ伏せて大型のライフルを構えていた。雑念を振り払い、那拓は再び集中力を高めてスコープを覗く。那拓がスコープを覗いて、すぐにアリスは一番小さなパイアに回し蹴りを放つ。遠く離れた那拓にもパイアの甲殻が割れる音が響いてくる。その音に合わせて那拓は、トリガーを引く。

 火薬が炸裂した衝撃が那拓の肩に掛かると同時に、弾丸が高速で銃口から飛び出す。放たれた弾丸が屋上から投げ出されたパイアの腹部に命中し、その瞬間にパイアの体は細かな肉片となり辺りに飛散する。それを確認した後、那拓は再度通信機に触れる。

「あと3体、あの背中に棘みたいな甲殻がある奴狙える?」

「分かった…」

 アリスは余裕を持って答える。再び注文したパイアがビルから落ちてくる。

「頂き!」

 那拓が引き金を引く。火薬の爆発音がしてすぐにパイアの体が木端微塵になる。その映像が目に入り銃弾の命中を喜んでいた、丁度その瞬間、胸骨が軋む音と共に那拓の体が宙に舞う。そのまま那拓は受け身もとれずに背中から地面と衝突する。

「っ!」

 那拓は衝撃を受けた右胸を抑えながら吐血する。

 AS状態じゃないのにこの威力の衝撃喰らうのはヤバい…何本折れたかな…激痛すぎてよく分かんない…一体何が…

 那拓は、右の目の瞳を紫へと変色させ、痛みを堪えて立とうとする。しかし、敵は、那拓の体を正面から蹴り倒すと、上から踏みつけ動きを封じる。那拓は遂に敵の正体を掴む。

 体型はガタイの良い人間の様な形をしていて、手足の指は3本ずつのみしかなく、全身を石竜子の様な青銅色の皮が覆い、顔には鋭く短い嘴と背中からは蝙蝠の様な大きな羽が生えていた。

 ガーゴイル…自らの硬度と重量を変えられる面倒な相手だ。

 アリスの方は残り2体、アリスなら心配ない。問題は俺の方だ。不意討ちのダメージに加え、ガーゴイルに上に乗られている。状況が悪すぎる…

 那拓が絶望していると、ガーゴイルが嘴を開く。

「貴様ハ、ルシファーノ息子ダナ…?弟ノ方カ…?兄ノ方カ…?」

 人語を解するクリーチャーからはいつもこの質問を受ける。全部俺の兄が強すぎるせいだ。そしたら俺は

「弟だけど…」

と答えるしかない。

「ソウカ…ナラ、用ハナイ…死ネ…」

 そう言うとガーゴイルの重量が少しずつ増していく。

 ヤバい…潰される。打開策はある…このままだと俺も巻き込まれ兼ねないけど…背は腹に変えられない!

 那拓は袖に隠していた手榴弾の栓を抜く。手首のスナップだけで手榴弾を上に投げる。次の瞬間、ガーゴイルの頭上で激しい爆発が起こり、ガーゴイルはその爆風で大きく退く。その足が離れた瞬間を見計らい那拓は素早く起き上がると、ガーゴイルと距離をとる。

 那拓の頭からは血が流れ、血は左目を通り、顎からは血が滴り落ちていく。

 流石、旧モデルの手榴弾。AS状態なら怪我だけで済む。全身打撲と片目なんて死に比べたら安いもんか。

 ガーゴイルはチッと舌打ちした後、羽根を羽撃せ、体を宙に浮かせると那拓に向かって真っ直ぐに突っ込む。那拓は通信機に手を押し当てる。

「漆、ライフルの回収頼んだ…」

 そう言った次の瞬間、ガーゴイルは那拓の首根っこを掴み一気に急上昇する。

「全く人使い荒いなー。こっちはお茶の時間なんだよ。それを…」

 こちらの絶体絶命の状況を全く気にせずに漆はブーブーと不満を口にする。それも楽しげに。

 でも、漆のいいところはこの気楽さだよな。聞いてるとこの状況下でも自然と落ち着ける。

 ガーゴイルは未だに上昇を続ける。その間に那拓はアリスの状況を確認する。突進してきたパイアを踵落としで捩じ伏せ、もう一方のパイアの牙を掴むと、先程の攻撃で気絶したパイアの上に叩きつけ、最後にもう一度渾身の踵落としをお見舞いする。那拓が最後に確認できたのは、その後廃ビルの一階フロアの窓や出入口から沢山の砂煙が飛び出して来たところまでだった。

 ガーゴイルは那拓を地面に向けて投げると、青銅色の体に光沢が現れ始める。

 “押シ潰シテヤル”

 投られる直前に那拓はガーゴイルの思考を読み取った。

 絞殺だったら死んでたのに、全く…自分の力を見せたがる奴で助かった。

「漆、ガトリング砲頼む」

 那拓が頼むと、漆からは予期しない返答が返ってくる。

「え~っ!またー?メンドー」

 こんな所で仕事放棄ありかよ…

「後で遊園地の割引券やるからさ」

 落ちながらも那拓が笑みをこぼしながら通信機に向かって言った直後、那拓の胴体の上に黒く大きなガトリング砲が姿を現す。那拓はそれを両手でしっかり掴むと、自分の上から落下してくる黒になったガーゴイルに向けて引き金を引く。ガトリング砲の銃身が回転し出し、そこから絶え間無く弾が発射されていく。銃の反動が打撲した体に響く。ガーゴイルはそれを避ける事なく受け続ける。しかし、まるで効果がない。それでも那拓はブレを最小限に抑えてなるべく同じ部分に当て続ける。数秒後…

「嘘だろ…」

と那拓は思わず言葉を漏らす。一点にかなりの銃弾が当たっている筈なのに、ガーゴイルの体には傷一つついていない。

 こうなったら破壊できるかどうかはどうでもいい…ひとまず、あの攻撃を避けないと…

 那拓はガトリング砲の引き金を引き続ける。ガトリング砲の反動により那拓自身の落下速度が加速していく。一方のガーゴイルは銃弾により加速が緩やかになっていく。

 何もできない間に、上を見てる筈の那拓の目に建物が映る。

「もういらない」

 那拓の言葉に合わせてガトリング砲は姿を消す。それと同時にアリスが横から飛び込んできて那拓をキャッチし、ガーゴイルを避ける。コンマ1秒ずれて爆発音に近い音とともにガーゴイルが道路に深い穴を作る。

「助かった、サンキュー」

 那拓の言葉にアリスは顔色一つ変えない。

“私と組んでるから本気出してくれないの…?”

 アリスから読み取った感情に那拓は図星を指されて唖然とする。そのまま互いに口を利かずにアリスは着地すると、抱え込んだ那拓を地面に降ろす。暫くしてガーゴイルが穴の中から飛び出して来る。

「ナタ…どうするの…?私がやる…?」

 全力で戦ってないってだけでも迷惑かけてるのに、これ以上アリスに負担かける様な事したくない…

「大丈夫…俺がやるから…」

 かといって、本気で戦ったら酷い仕打ちを受けるのはリン達だし…

 那拓は何かを思つき、ふっ…と小さく笑う。

「何勘違いしてたんだろ?態々敵の得意分野で戦う事ないよな。漆、プラズマガンを送ってくれる?」

 そう言うと同時に那拓の目の前に、銃口の変わりに二本の金属がついた白い銃が出現する。

 ガーゴイルは再び上昇すると、青銅色の体が再び光沢を持ち、硬化して急降下してくる。那拓が、銃の横についているレバーを手前に引くと、金属棒の間に小さな雷が生じる。そして、その金属棒の先端をガーゴイルの胴体の中心に向ける。小さな雷は時間が経つ毎に増えて行く。ガーゴイルは依然として真っ直ぐに向かってくる。あと数メートルのところで那拓はガーゴイルに向かって言葉を発する。

「お前が相当な自信家で助かったよ」

 那拓が引き金を引く直前アリスも小さな声で

「散り散りになって消え失せろ…!?」

と疑問混じりの決め台詞を那拓の後ろで呟く。そして那拓がトリガーを引くと、金属棒から放たれた電撃がガーゴイルの胴体を貫通する。ガーゴイルの体は突如石化し、傷1つなかったはずの体にヒビが入り、石の体が空中でボロボロと崩れていく。

「何で…?」

 アリスは状況を理解出来ないのか首を傾げる。

「次に何が起こるか知らないで決め台詞言ってたのか?」

 那拓が飽きれた表情で尋ねると、アリスは正直に頷き、那拓に何が起こったのかの説明を求める。

「感電させただけだ。ガーゴイルは人間に比べたら少ない電流で死ぬから…でも、それまでリンに付き合ってアニメばっか見てたから一点集中攻撃すれば倒せる、ってさっきまで勘違いしてた」

 勘違いという言葉にアリスが即座に反応する。

「忘れないのに…?」

「流石の俺でも一度思い込んじゃうとそこから抜けられなくなっちゃう事はあるよ。それに俺の能力は思い出すだけであって、意識してないモノは軽く忘れてる」

 アリスは「へぇ…」と棒読みで答えると、今度はアリスが拳を突き出す。那拓とアリスは再び拳を合わせる。那拓は通信機を使って今度は撫子を呼び出す。

「もう巡回入れ替わってもいいよな?」

「はい。もう黒夜さんに入ってもらっているので帰宅してもらって結構です。体を治して、また夕方に宜しくお願いします」

「了解」

 那拓の返事を機に那拓とアリスの耳に着けていた通信機が姿を消す。那拓は折れた肋を押さえながら歩き出す。

「にしても、まだあの決め台詞使ってたんだな」

 アリスは赤くした顔を那拓から背けると、小さく首を横に振る。

「昔を思い出しただけ…」

「確かに二人で共闘したの久しぶりだよな。あの時からいつもアリスに迷惑かけてた、ってかさっきもかけたけど…あの頃は訓練の度に決め台詞を二人で考えて、訓練で敵を倒す毎にそれを言うってゆう勝手なルール作り出したよな」

 那拓の話にアリスも縛った髪をルンルンと動かし、さっき背けた表情の無い顔を那拓の方へと戻す。

「ナタは手話で…」

「そうそう、決め台詞が全部手の動きでだからカッコつかなくて、それでもアリスとどっちがカッコイイ台詞を考えたかを競ってたし、リタイアはしたくなくて…だから、小遣いをこれでもか!ってくらい貯金してパソコンに打ち込んだ文字を音声化するプログラムを買ったんだけど…」

「人工的で女の子の声だから…」

 アリスと那拓は目を合わせる。

「寧ろカッコ悪い!」

 声を合わせてお互いを指差す。

「はは…痛い、痛い…ははは…イッテー…」

 那拓は胸を押さえながらしゃがみ込む。

「バカ…」

 アリスは、痛いと言いながら笑い続ける那拓を見下ろして呟いた。



 那拓は舞の家の前に着くと、服のポケットから鍵を取り出す。

「アリス、芳江さんは多分今2階の部屋で仕事してるから、家の中に入ったら出来るだけ静かにリンを呼んでくれる?ついでに舞から目薬もらってきて。血が目に入ったかも」

 アリスが頷いた後、那拓は鍵を開ける。

「ただいま」

と小さな声で言って那拓とアリスは家に入ると、那拓は玄関の段差に座り、アリスは足音を立てずにその段差を登る。

「突き当たりの部屋」

 那拓の指示通りアリスは廊下の突き当たりのドアをノックすると、何故かそのまま部屋の中に消えていく。

 何で部屋ん中入ったんだ?嫌な予感がする。舞は、まだ小さい黒の小猫を飼ってる。そして、アリスには小さくて可愛いモノに飛びつく習性があり、目当てのモノを見つけると自分が満足するまでそれに顔を擦り付ける。しかも、満足するまで他の事は一切しない。要するにすぐには戻って来ないし、リン達にも状況を説明してないかもしれない…自分で行かなくちゃダメか…

 那拓が立ち上がろうと力を入れた瞬間、バキッと音を立てて肋骨がまた一本折れる。

「イッ…!」

 その言葉と共に那拓は再び腰を下ろす。

 …動けない…

 那拓が希望を失いかけていたその時、奇跡的にアリスが入っていった部屋のドアが開く。

「お義兄ちゃん!大丈夫か?」

 その声と一緒に救急箱を持った舞が姿を現し、那拓に駆け寄る。舞は、那拓のそばに着くと、救急箱を開けてガーゼで那拓の頭から流れる血を拭き、傷口を押さえる。同時に目薬の蓋も開けて、那拓の目に目薬をさしてやる。

「ありがとな、舞。でも、またお義兄ちゃんって言ったら俺ん家出入り禁止だからな」

 出入り禁止という言葉に舞の目は潤む。

「う~…心配して来てやったのに…ヒック…出入り禁止は…ヒック…あんまりでわないかぁ…」

 舞は時折息をつまらせながら話す。

「泣いても駄目」

 そう言うと那拓は舞の頭を優しく撫でる。

「舞自身のためだろ。もし俺がまた全力出して戦ったら、卑怯な奴等のイジメの対象になるのは力の無い舞達なんだし。その時に舞がお義兄ちゃんとか言って俺の事慕ってたら必要以上に嫌がらせを受ける事になる」

 舞は、頭を撫でる那拓の手を両手で掴むと、自分の胸の前に持ってくる。

「別に儂はそれでもよい。力を出せないせいでお主が傷つくよりマシじゃ」

 涙声で言う舞に那拓はニコリと微笑む。

「だったら俺の気持ちも察しろよ。俺なんかを受け入れてくれた大切な人を俺のために傷つけさせたくないんだ」

 自分が過去に犯した過ちを完全に棚に上げている。アリスの事も…高嶺夫婦の事も…でも、だからこそ、今度こそ失わせない。

「舞、お前らを徹底的に守るやるから、ずっと側に居てくれるか?」

「うッ…」

 舞は那拓の手を離して自分の手を胸に押し当てると、那拓に背を向け、荒くなった息を落ち着かせようとする。

「そうだ…リンを呼んで来てくれないかな?骨を治さないと迂闊に動けないからさ」

「しょっ…承知した…」

 舞はすぐに廊下を駆け出す。大して長くもない真っ直ぐな廊下で何度も転び、壁にも衝突する。

 舞、手の先まで真っ赤だったけど大丈夫かな…

 それから少ししてリンが部屋から出てくる。

「舞姫、全身すっごい真っ赤っかだったけど何したの?」

 リンは舞の置いて行った救急箱の隣に座ると、那拓の胸に手を置く。

「守ってやるって言ったら、急に…それより早く治してくれないか?かなり痛むんだけど」

「はいはい…」

 リンは少し不満げに返事をして、手に力を集中すると、リンの掌から蛍の様な優しい光が放たれる。その光を浴びた途端に全身の痛みが幾分か和らぐ。

 回復魔法…フェアリーの中でもこれが使えるのは100人に1人居るか居ないかで、主な効果は鎮痛と、自然治癒力と自己再生能力の著しい増進。リンの場合は、更に解毒と体内のウイルスの除去までできる。その能力は本当に尊敬に価する。

 回復を始めてからもリンは少し物足りなそうな表情をしている。那拓は、リンに気付かれない様にアビリティを使う。

 そういう事か…

「リン、久々に呼ぶ?あいつ。少しは野生の動物とも遊びたいだろ?」

 那拓が質問すると、リンの表情がみるみる明るくなる。

「うん!」

 リンは頷いていつもの元気のよい返事をする。

「それで、いつやるの?」

 リンが嬉しそうに尋ねる。

「今晩」

「今でしょ!?」

「何世代前のネタだよ…」

 那拓がツッコミを入れると、リンは一人でケラケラと笑う。

今回はアリスの強さを大々的に押し出して見ました。

那拓の本気はまた後程…

まだまだ未熟なので誤字・脱字、アドバイスがあれば是非言ってください。

次回もよろしくお願いします。

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