年頃乙女は告白する。 ①
状況を理解していないのは中々につらいものだ。励ますことも催促することもできない。
俺を引き止める玲は相変わらずに下を向いていて、覗き込むわけにもいかないので感情は窺い知れない。
だから待つ。力はさほどないだろうが裾をつままれれば杭で打ちつけられたかのようにして体は動かない。女子すごい。男子ちょろい。
そしていくばかの時がたった。
腕時計を見る動作すらもこの雰囲気を壊してしまうようで、俺はただただ流れる雲を目で追いながら時間の経過を確認していた。
「あのさ…ちょっと引くかもしんないんだけど…」
ぽつりと彼女は語り始めた。
語り出しが怒らないから言ってごらん?といったような白々しい予防線のようで、一体どのような事実が知らされるのかと思わず身構える。
そして俺の沈黙を促しととらえたのか玲は告白した。
「私…実はサキュバスなの…」
「あ、そういえば俺買い物頼まれてたんだった」
確かシャンプーが切れてるんだっけなー。どこかのスーパーで安売りでもしてないかしら。
俺は軽く玲の手を振り切ると、すたこらさっさとお嬢さんのように歩き出す。
「ちょっ、なんで無視すんのよっ」
しかしやはり放置されることは我慢できないようで、玲はすぐに回り込み俺の目の前に立つと、ぷんすか怒り出した。もう雰囲気がぐちゃぐちゃだよ。それとも元から俺が感じていたようなラブコメチックな雰囲気などなかったのか。
「いやでもな?それらしい雰囲気だったのに急にファンタジック不思議ちゃんな発言されても、対応のしようがない」
そういうのは合コンとかでやればいいと思います。はい。
十中八九女子には嫌われるだろうけど十中二三の男子にははまるかもだし。
「なによそれらしい雰囲気って」
「えっ…そりゃ告白的な」
ストレートな質問に一瞬言葉が詰まるが、隠すと更に追求され羞恥心を煽られそうなので素直に告げる。
「は?なにそれ、有り得ないし。気持ち悪っ」
ばっさーと一刀両断にされた。
ここは「こ、告白!そ、そんなの有り得ないし!馬鹿じゃないの?」とか赤面してわちゃわちゃしながら慌てふためくシーンじゃないですか。違うの?
あとキモいと略さずに、改まって言われた分ダメージが大きいです。「キモ」ならまだ新種の語尾として受け流せるのに。多分あんきもをモチーフにしたマスコットキャラクターとかが使う。
「あっそ。んじゃ、俺部活あるから」
「さっきと言ってること違うし…ってゆーかあんた部活入ってないじゃん」
幼馴染に下手な嘘は通用しませんでした。
けれど。だとするならば。
「お前の言ってることこそ意味分からん」
そしてそれは玲も理解することなのか、視線を落とした。けれど俺に道を譲る気もないようで、俺も玲の脇を通り抜けて立ち去ってしまっていいものか逡巡する。
しかし案外早く心を決めた玲は数歩分俺との距離をつめる。
「でも…ほんとだから…」
弱弱しく吐き出される言葉は俺の心にぽつりと落ちて、波紋を残す。
自分はサキュバスだというおかしな主張と、玲の自信が失われた態度がちぐはぐで、ちょっとしてきっかえさえあれば爆笑も激怒でも号泣でも失望でもしてしまいそうな、俺はそんな感情をもてあましていた。
そろそろドッキリ大成功とでも笑ってくれないだろうか。