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天然乙女は翻弄する。 ①

 結局のところ玲の授業はあまり役に立たなかった。授業料返してもらいたい。払ってないけど。

 しかし予想に違い、満月後輩の方からも積極的にアプローチ、じゃなくて相談をしてくることもなく、今のところのラインのやり取りといえば好きな色とかを聞かれた程度である。返事なんて一文字で済んじゃったもんね。流石に色から会話を膨らませる技術はない。好きな色占いなんて心理テストでも覚えておくべきだった。

 そうして身構えていたのにもかかわらず数日間波風立たなかったから、満月後輩が俺に好意を寄せているというのは妄想だったのだとすでに結論付けてしまってもいる。ものすごく恥ずかしいけれども。勘違いは数を重ねてきたはずなのに疑い深くなれど成長する兆しが無い。例の紐が素敵な神様にステータス更新してもらわなくては。


 と、そんなふざけた事を考える日々へと戻ったはずなのだけれど、「彼が取り戻した日常は、長くは続かなかった…」なんてくさい台詞が言いたくなる状況に陥ってしまっている。

 今震える手が握っているスマホの画面に。


『今度先輩の家行ってもいいですか?』


 といった心がサンバでも踊りだしそうな文章が映し出されている。勿論送り主は満月後輩。


 ど、どういうことなんだ。


 一度ランチに強引に誘われて以来大人しくしていたのに突然これ。攻撃力が高すぎる。つまり大人しかった期間はチャージ期間だったわけか。ソーラービームか。

 それにしても家って。男の子の家なんて無難なデートを重ねた後に大人の階段を上ろうとする初々しい男子が頑張って誘うような場所だろ。それをむこうから乗り込んでくるなんて。妄想をフル稼働すれば勿論これは肉食系満月後輩が俺を仕留めるために根城に乗り込んでくるとかそういうわけなんだけどもさ。あのほんわかした満月後輩がそんな大胆な一手に出るか?普通ならもっと…


 いや、満月後輩が俺のことを慕っているという仮定の上での推測はやめておこう。だって違ったときのダメージが大きいもの。そろそろ黒歴史の製造を食い止めないとまとめれば辞書レベルの厚みになってしまう。


 だが俺への好意がないとなると何故急に。

 既読マークがついちゃっているから早急に今後の方針を決めなくてはならない。ほんと誰だよ既読マークとか発明したの。あ、気づかなかった!みたいな女子に多用された事をきっかけに俺も取り入れたスキルが使えない。

 とりあえず考えられるのは俺の家に隠された秘宝を盗みに来るとかそんなの。もしかしたら畳の下にでも鑑定団に持っていけそうなものでも埋まっているのかもしれない。和室ないけど。


 なんにせよ満月後輩が俺の家に来るのは阻止しなければ。だって両親が海外赴任、なんてラノベな舞台が整っているわけじゃないし。志乃は家を空けていることが多いからいいにしても母親は大概家にいる。小学校三年生以来家に玲を除く友達を招いたことがないからして母親の在宅中に満月後輩なんかが来たらその後が色々と面倒くさそうで、なんなら赤飯とか出てきそう。


 よ、よし。なんとか家に女子を呼ぶイベントを回避する方向で。


『家はいまごたごたしてて』


 具体的に聞かれれば困ってしまうが、最悪の場合頑張って働いてくれている父親がリストラされて家庭がどんよりしているだとかそういうことにしよう。

 ふぅ、思ったよりも早くに対処ができて良かった。これでこれ以上悩む必要は…


『少しでいいんです(>_<)』


 の、のぉ。おーまいごっど。

 なんだよこの速度。え、携帯の前にでもはりついてんの?あまりに早いせいでアプリを閉じてなかったからまた既読マークついちゃったよ。今度こそ通知を読むだけで済まそうと思っていたのに。

 会話が長引けば長引くほどコミュ力で大いに劣る俺が不利になるに決まっている。だから短期で決着をつけなければいけないわけだが。

 バッサリ断るのが一番効果的なのかもしれないが、ああいったコミュ力高い集団を形成していそうな女子に悪印象を与えてしまうと学校で過ごしにくくなる可能性がある。女子の組織力は半端ない。イワシの群れのようにして女子集団の一人が右を向けば他も右を向くだろう。となると満月後輩が俺に敵意を示すようになれば彼女につながる女子もまた俺に敵意を向けるだろう。

 そ、それにその…も、もし俺の事が好きな場合にそういう態度はちょっとひどいかなっていうか。べ、別に嫌われたくないとかじゃないんだから!戦略的政治的に友好的になるだけんだから!


 …やばいな。

 面倒なのは確かなのに同時に嫌われたくないとか思っちゃってるよ俺。天邪鬼にもほどがある。

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