年頃乙女は巻き込まれる。 ⑥
こちらもスロースペースながらも更新予定です。大物漫画家風ですみません。
「これ効果あるのか?」
その後もピロリンと通知音のみが響く時間がしばし続いていたわけだが、最早玲自身も飽きてきたのか先程からスタンプの連打が。ちょっと会話を遡ってみてもマレーバクしか出てこない。
玲はきょとんと首をかしげる。
「…さぁ」
「おい」
この会合が俺の女子に対するコミュ力を上げるためのものだなんて覚えていないに違いない。
「いやでも市慶は本当に満月ちゃんをものにしようと思ってるわけ?」
「べ、別に相談にきちんと乗ろうと思ってるだけでだな」
そんなことを正直に認められるはずがない。
本音を言えばけしからん想像をしているかと問われれば首を縦に振るしかない。なにせあそこまで露骨に、露骨過ぎて疑いすら覚えてしまうほどにアプローチを仕掛けてくる女子に遭遇するのは初めてなんだ。
「なんにせよ玲だって俺に彼女作りを薦めてるわけだからどっちでもいいだろ」
「そりゃそうだけど…」
何かを含ませた感じでつぶやく玲は俺の真意を見透かそうとするかのようにじっと見つめるが、実際には俺に真意も深意もない。偉そうにものを語れどそういった抗弁が事の深淵に触れているかといえばそういうことは全くなく、虚勢を編んでいるに過ぎない。
自分で自分の事を理解したと言い切れるほどに大人びてはいないが、ちょっと女子にモテたいだけなんだと思う。
「まぁいいけどさ。別に私が損するわけでもないし」
「損てお前。得するはずだろ」
実際どのような恩恵を受けるのかは定かではないが、まさかここまできてドッキリ大成功!なん読者にて夢オチと並んで嫌われそうな展開はないだろう。ただの打ち切りじゃないか。
「いや、だって失敗する気しかしないんだもの」
「それには同意する。だからこそこうしてセミナーを開いてもらっているわけでだな」
「私に頼ってる時点でダメよ。だって満月ちゃんが何考えてるのかよくわからないし」
男子よりも構造が数倍は複雑だと聞く女子を女子が理解できないのならば誰もできないだろう。多くの哲学者達が女性に関した名言を色々と残しているのにも拘らず結論が出ていないわけだから俺が一朝一夕でどうにかできる問題でもないだろう。ハーバードとかはもっと女学とかに力を入れるべき。別にエロいのじゃないのであしからず。
「とりあえず満月ちゃんの話を聞いてうなずいとけばどうにかなるんじゃない?」
それはそうなのだが…。
ここで一つ玲さんに意見も聞いておきたいことがある。
「あのさ…」
まるでクラスメイトの目前で当たり前のことを確認するような恥ずかしさがあるために言葉が思うように出てこない。ちなみに恥ずかしさもなく当たり前のことを長引くHRとかで聞く奴は嫌われる。
「もしかしたらなんだが…」
「ん?」
「君津が俺に好意を寄せているとかそういうことはないですかね?」
思い切って、聞くは一時の恥と自分を奮い立たせて放ったのだが俺の疑問は空を漂い玲には届かなかったのか、彼女からの反応はなく、どこか気まずい。口にしたことが恥ずかしいことなだけに、例えるならば秘密だったコスプレ趣味がばれたとかそういうときのような居心地の悪さがある。
こうも焦らされては羞恥心に顔を赤らめるしかない。今何かしゃべったところで声は上ずるだろうし言い訳やごまかしにしかならない。余計恥ずかしくなる。玲さん早く何か反応してくれませんかね。
結局玲が俺から目をそらし、あさってどころか一週間後くらいの方向を見つめながら台詞を紡ぎだした時には一分は立っていた気がする。爆速エビフライが二十個は作れちゃう。
「…あ、あるかもね」
な、なんだそのちょっと憐れむ感じ。いつものようにしらっとけなされると思っていたのだけれど。罵詈雑言ならば受け流すことには慣れたがこれではまるで俺が可哀そうな人のようで、気遣いが感じられて逆に色々と考えてしまう。俺って残念な子なのかしら。
「いや、でも俺のタイプとか聞いてきたし、昼飯一緒に食べようとするし…」
「うん、きっと好きなんだねー」
なんだその棒読みは。大手事務所ごり押しの新人俳優じゃあるまいし。
っていうかつまり玲の意見としては満月後輩は俺に好意など欠片も抱いていないということだろうか。
それはなんというか…そんな馬鹿な。




