表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/65

捻くれ男は期待する。 ②

 便箋を開いた俺は一瞬肩透かしをくらったかのような感覚に陥った。

 一行しかない。

 ハートに囲まれたスペースの中央にぽつりと、丸みのある小さな文字で簡潔に「放課後第一体育館裏の物置前に来てください」と。一瞬漢文かと思っちゃったよ。

 あっけにとられたものの、落ち着いてもう一度じっくりと読み返す。

 うむ、呼び出しだ。

 相変わらずに心臓が踊り狂っているのだけれど、まだ浮かれるような局面ではない。

 今ではあまりに当たり前で常識ですらあるがこういったものの大半はいたずらだったりする。

 たった便箋一枚で人の心を弄び、羞恥に染めることができるお手軽かつ効果的ないたずらだ。実際俺も数回やられてひっかかって落ち込んだ。特に女子が代筆を了承している場合はきつい。さらには影から覗かれていて馬鹿にされるならまだしもいたずらの存在自体を忘れられほっとかれるのはもっときつい。一時間以上実在しないヒロインを待っちゃったよ。そしてネタバラシがないものだから俺への告白へと向かう途中に何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配までした。


 ふむ。


 ならばこの手紙はどうとるべきだろう。

 一見手抜きに見えないこともないが、逆にいたずらにしては短すぎる気がする。俺が経験した偽ラブレターは俺を喜ばせるためか信じさせるためか、好きになったきっかけから始まり、俺に寄せる想いが作文でも始めるのかと思うほどに密に記述されていた。

 それにしても俺の掃除する姿に一目ぼれしたってどうなのよ。信じちゃった俺も俺だけど。いたずらとわかった後も妙に意識してかっこいい箒でのごみの掃き方とか練習してた。箒をギターにみたててしゃかしゃかやってみるとか。俺が健気過ぎて泣ける。


 話を戻す。


 つまりこれはマジなんじゃないだろうか。

 呼び出しの理由はひとまず置いておくにしても、いたずらではない気がする。こういった類に関しては人並み以上の経験値を持ち合わせる俺が言うんだから間違いない。

 そして送り主は便箋のデザインからみて女子。これで男子だったら軽く引く。あ、でも本当は女の子だけど事情があって男子生徒として生活してる、みたいなヒロインもあるな。多分ないけど。


 期待を裏切るほどにシンプルかつぼんやりとした内容だったためか、思いの外落ち着いている頭で現実的に考えてみる。イメージ的には小さなデフォルメされたたくさんの俺の脳内会議。

 議題は俺を女子が呼び出す場合の理由とは何か。

 そして早速小さな俺達が口火を切る。


「雑用を押し付けるために決まってるだろ」


「ならわざわざ人気のない場所に呼び出す意味がない!」 


「人気のない…闇討ちじゃないか!」


「いやいや。こんな人畜無害、そもそも関わりもないだろういけてない男子を襲うか?」


「襲うなんて…卑猥!」


「愛の告白じゃないか?」


「お、お前、あえて言わなかった恥ずかしい事を堂々と!恥を知れ!」


「いやだって定番だろ」


「待て、ここはあの便箋から送り主の深層心理を読み解いてみよう。まず注目すべきはハートとあのバクだ。バクは動物であるが同時に夢を食らう妖怪。つまりあの柄はバクが夢、そして愛を食べようとしている

図であり、つまりは俺の愛を食べちゃいたい、というメッセージなんじゃなかろうか」


「…え、何言ってんのお前」


 駄目だ。収拾がつかない。本物の手紙に対しての経験値はゼロだ。取り入れる要素が少なければ想像は四方八方に広がってゆく。

 そして結論が出ずに上の空なままに授業が始まり、気づいたときには授業やら昼休みが過ぎ去り、ノートを見てみればマレーバクの落書きしか残ってなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ