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年頃乙女は巻き込まれる。 ③

「何女優みたいな事いってるんだか」


 笑いは収まったようだが、玲は目じりを拭いながらも口角が上がるのを耐えられないでいた。しまりの悪い表情をしている。

 そして満月後輩は俺の回答があまりに普遍的で抽象的過ぎたためか納得のいっていない様子で人差し指を唇に当てながらあさっての方向を見つめている。

 は、反応が欲しいです。じゃないと羞恥心に押しつぶされて穴があったら入りたいどころか自分で穴を掘るまである。

 だが満月後輩のレスポンスはそっけなかった。


「他には?」


 まさかの追い打ち。一度あんなにも滑ったのに。もしかしたらこの子は「からの~?」とか言っちゃううざい系の人なのかもしれない。素人がそれやっても嫌われるだけなのに。

だがしかし彼女の表情は真剣そのもので、ここで俺が巨乳などと叫ぼうものなら批判されてもおかしくないような雰囲気がある。


 だが。


 正直言うと好きなタイプというのは良くわからない。

 漫画やラノベなどを読んでいると、特定のヒロインを贔屓したりすることは勿論あるのだが、ではどの作品でも同じ系統のヒロインを好むかと言われればそうでもない。サブヒロインに入れ込む傾向こそあるものの、それを今口に出したところでぽかんとしかされないだろう。

 そもそもちょっと優しくされただけで好きになっちゃうわけだから優しい人という条件は全てを説明している。ほんと免疫力がない。きっと風邪とかすぐひく。

 だが今は満月後輩が納得できるような返答を探さなければいけない。


「え…えっと…笑顔が素敵な人?」

「…もっと具体的なのをお願いします」


 …はい。

 絞り出してみたけれど間髪入れずに注文が入ってしまった。玲は相変わらず笑ってるし。


「具体的といわれても…」

「例えばほら、年下か年上かとかですよ」


 ぐいぐいくる。

 だがこれだって先輩キャラも後輩キャラも好きだから、と別段こだわりはないのだけれど。しかし俺は誰でもウェルカムだよ、なんてきざったらしい台詞を吐けるはずもない。そして俺に気があるかもしれないという可愛い後輩を目の前にしては答えは決まっていた。


「と、年下?」


 やばいな。

 思わせぶりな態度を続けられたせいで俺の方が満月後輩に気に入ってもらおうとしてしまっている。完全に手玉に取られてるじゃないか。雑魚だな俺。こうして俺のように雑魚な男子達は可憐な女子のレベルアップのために彼女の方からアプローチしてきてエンカウントしたにも拘わらず何度も切り捨てられるんだろう。


「年下…ちなみに先輩誕生日はいつですか?」


 おぉ?

 俺のプロフィールでも作成しようとしているのだろうか。俺botの開発とかが進んでいるのかもしれん。


「四月だけど」

「なるほど…あ、あと見た目のタイプはどんなですか?」

「が、外面よりも内面といいますか」

「…?」


 濁してみたら無言で首を傾げられてしまった。

 しかし俺の理想のモンタージュでも作ろうとしている満月後輩に付き合うのも中々精神力を要する。脇では幼馴染が先ほどからずっと体を小刻みに震わせているし、満月後輩の真意が透けて見えない分どう答えればよいのかが分からず、適切な回答を探すのに苦労する。


「それよりも相談は?」


 次の質問を投げかけるためか口を開きかけていた満月後輩だったが、俺の言葉に一時停止する。まるで相談のことなど忘れていたかのようでもある。

 つまりこれは相談を口実に憧れの先輩のランチタイムに乱入するパターン!

 …なんだそれ。聞いたことない。


「えっと…実はですね」


 しかし実際には先輩の理想の女性が知りたかっただけ、なんて展開は訪れずに、満月後輩はちらちらと玲の存在を気にしながらも相談内容を言葉にした。


「私の友達が一人恋に悩んでるんですけど、その子男の子がちょっと苦手で…だから先輩にアドバイスを貰おうと思ったんです」


 なるほど。

 私の友達がパターンだったか。

 これはつまり恋に悩んでいるのは満月後輩自身と考えていいんじゃないか?あまりにもテンプレすぎる。

 可能性は二つ。

 満月後輩は俺にほの字で俺との距離を縮めるためにこうした芝居を打っているのが一つ。そしてもう一つは相談内容が本当の事の場合。

 俺が今までの経験や客観的事実などから俺自身を見つめたならばこんな俺にこんな可愛い子が惚れるはずがないだろ、と自分自身を諭すしかない。俺はいじめられっこを庇った覚えもないし、花壇に水やりなどをして優しさの欠片を披露したこともない。となれば接点のない彼女があからさまにかっこよくはない俺に惚れる理由がわからない。

 心の底では既に満月後輩の愛の告白を期待している俺だが理性でそれを妄想の域に留める。そして満月後輩は純粋に俺のもとに友達の悩みを持ち込んだのだと言い聞かせる。


 だとすれば。


 いつの間に俺は一年生の間でも名前が知られるほどの恋愛マスターになったのだろうか。

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