年頃乙女は巻き込まれる。 ②
なるほど。俺と玲が付き合っていないと聞いて安心したと。
…。
うん、つまり満月後輩って俺のこと好きなんじゃない?
「お二人はどういったご関係なんですか?」
ある種の緊張がほぐれたのか、満月後輩はリラックスした様子で物理的にも精神的にも俺達との距離を少し詰めた。そして勘違いにいそしむ俺の変わりに玲が応答する。
「幼馴染だけど」
これは玲のツンデレのツンであると仮定する。
「へー、仲がいい幼馴染なんて羨ましいです。いつもお昼は一緒なんですか?」
そしてこれは満月後輩の情報収集と推測する。
「いや、今日くらいだけど」
するとこれは玲の照れ隠しと判断出来る。
「そうなんですか。私お邪魔しちゃったかと思ってました」
で、これは相手の出方を伺っているとみなす。
「それよりもあなたはどうして市慶と一緒に?」
となればこれは最早牽制に他ならない。
すごいな、俺のフィルターを通すとまるで俺の幼馴染と彼女が修羅場すぎるとかそういった雰囲気。事実と比べてみれば幼馴染くらいしかあっていないのだけれど。
きっとまた勘違いを重ねているだけだろう。日直が同じになるだけで女子に対する好意を募らせてしまう俺にしてみれば満月後輩など前にしたら鼻の下を伸ばすしかない。伸ばしすぎてテングザルなレベル。いや、あれは鼻がたれてるだけか。
「それは相談があって…そう!相談ですよ先輩」
あの鼻で天狗を名乗るのはおこがましいよなぁなんて考えているとぐぐっと満月後輩が身を乗り出した。距離が大幅に縮まり、視界が彼女の顔で占められ、なんかいい匂いが鼻をくすぐるがそうした感覚に浸ってしまうと抜け出せなくなりそうで、慌てて近づかれた分体をそらす。
距離を縮めただけで俺の心を絡めるなんて…これがオーラという奴だろうか。裏ハンター試験を突破していない俺には判断のしようが無いけれど。
「お、おぅ」
「市慶に相談?願掛けでもしたら?」
「で、相談って?」
玲のちゃちゃをさえぎるようにして話を振ると、満月後輩は躊躇う時の癖なのか、また指を絡ませた。そのうち指でカエル!とかしてきそうである。
「あの…」
言葉を区切る際の仕草すらもがあざとらしいほどに可愛らしく、きっとライン用に満月後輩スタンプとか作ったら売れる。
そして意を決した満月後輩は潤んだ瞳で俺を見上げる。
「せ、先輩の好みの女性ってどんなですか?」
…ふむ。
これ絶対この子俺の事好きでしょ。反論は認めない。
だって連絡先の交換をを積極的に申し入れてきたし。お昼誘ってくるし。玲が彼女がどうか確かめたし。俺の好みのタイプとか聞いてくるし。こ、これでもまだ俺の自意識過剰なのだろうか。なんかよくわからなくなってきた。
そもそも女子と関わってきたことがないのだからどの程度が女子にとっては普通の事なのかなど正直見当がつかない。漫画やラノベを頼りにしてしまえばこれらは絶対的なフラグであるわけだが、ラノベで史実が学べないように(織田信長女じゃないし)フィクションの中の女性は例として考えてはいけないだろう。
だがしかし。
俺への好意の他に満月後輩の行動を説明する理由が見当たらないじゃん!
人は信じたいもののみを信じ、視界すらも歪めてドレスが青黒だとか白金だとかいう議論が繰り広げられるわけだから俺が論理を立てるにあたって基にする事実だって俺の願望によって曲げられたものかもしれない。
それを理解しても尚俺の掲げる仮説が揺らぐことはない気がするのだが、経験が俺の論理を全否定する。
落ち着いて考えろ。俺にすらこのように接する満月後輩はおそらく他の男子にだって同じように接しているに違いない。そして男子が勘違いするような言動を四六時中ふりまく博愛主義な彼女は今まで多くの男子を狂わせてきたんだろう。
ここは冷静にならなければならない。彼女は俺のことが好きではないという大前提の上で質問に答えるとしよう。つまり年下だとかそういったこっちから擦り寄ってゆく返答は必要ない。
ふむ。俺の好みのタイプ…
「や、優しい人…かな?」
思い切って口に出してみたもののなんだこれ。お、思ったよりも恥ずかしい。満月後輩は俺の答えを反芻しながら再びあごに手を当てているが、玲なんてぶふっと噴出してからぷるぷる震えてるし。
これはやってしまったな。巨乳!とかふざけておけばよかったのかもしれない。きっと今後数年は玲にこのネタでからかわれるよこれ。




