年頃乙女は巻き込まれる。 ①
我が高校は増築改築を幾度が行っているせいか、屋上がいくつかある。
中には生徒の立ち入りは禁止されているのもあるが、日当たりのよい屋上は昼休みなどには多くの生徒が弁当や菓子パンを片手に訪れる。んできっとカップルとかがいちゃいちゃしてる。〇〇君あーんとかそういうの。
自他ともに認めるぼっちな俺は勿論のことながらそうしたうらやまけしからんことが行われている危険領域には踏み入れない。きっとあそこは男子のみではお断りされる未知なるプリクラ空間のようにして対ぼっち用の結界かなにかが張られているから。
故に俺は多くの昼休みをこの日当たりのよくない屋上で過ごしている。
旧校舎の増築された部分にあたるこの屋上は旧校舎そのものよりも高さも低く、昼間であれ日が当たらないためにいつもひんやりとしているし、あまり広くもないせいかあまり生徒は訪れないのだが、屋上へとつながる扉には鍵がかかっていることもなくて一年生の頃から頻繁に使っている。時折俺と同じような種類の先客がいないこともないが、そういった場合は互いに干渉せずが暗黙な了解なわけで、話題さがしに四苦八苦することもない。
だが今は。
目の前に女子が二人して弁当を広げている。もはやいつもの屋上ではない。女子二人とランチと文字に起こせば青春を謳歌しているようなんだけれど、気持ちは安らがない。
ど、どうしてこうなった。いや、考えるまでもなく満月後輩のせいだな。まさか苦し紛れの嘘を丸呑みして尚且つ実現させちゃうなんて。おかげで玲が不機嫌そうだ。
「で?何で私はここにいるの?」
玲にねとりと睨まれる。どうやら友達と談笑しながらランチタイムを楽しんでいたところを半ば強引に連れてこられたらしい。手にはランチパックが握られている。もしかしたら踊りだすかもしれない。
俺の嘘を信じる満月後輩にとっては玲のこの態度は不可解だからか、彼女は小さな弁当箱を膝に乗せたまま顎に手をあてながらむむむ、と考え込んでいる。
「えっとだな、これには深いわけが」
「繊細な女の友情を崩しかけてもかまわないわけって?」
「いや、そういうつもりでは…」
「友達とお昼にしようかって時に急に見知らぬ後輩に連れてこられるって…おかしくない?」
「でもですね」
「お昼ご一緒していいですか?なんて聞かれて思わずうなずいちゃったら教室から引っ張り出されるんだもの」
どうやら印象はそうでもないが満月後輩は中々強気らしい。
「あのっ」
どのようにして荒ぶる玲を宥めようかとケーキやらドーナツやらとご機嫌取りに使えそうな貢物を考えていると、それまで静かだった満月後輩がこの言い争いを傍聴し俺の嘘でも見抜いたのか授業参観日で張り切る小学生が如くしゅばっと手を挙げた。はい、満月君。
「ん、どうした?」
あからさまに話題をそらそうと満月後輩に食いつく俺を玲は目を細めた真顔で見つめていたが、諦めたのか彼女自身も満月後輩に向き直る。
そして注目を集めた本人は、二対一の構図だからかしばしもにょもにょと指先を絡ませていたが、やがてぽしょりとつぶやく。
「さけい先輩と流山先輩は付き合ってるんですか?」
「ば、ばかじゃないの!つ、付き合ってるわけないじゃない!」
…ど、動転していつものツンデレヒロインが出てしまった。本来ならばさけいって誰だよ!なんて突っ込むべきなのに。きっと潜在素質がすごいんだろう。
「いや、ないから」
それに比べて玲さんは冷静でいらっしゃる。もはやツンデレの欠片もない。俺の鼓動が早いのは動揺のせいだけだろうか…なんてふとシリアスになって考える事もない。もはやイベントやフラグを潰しているのは俺ではなくて玲な気がする。積極的に俺とのラブコメを阻止するなんて幼馴染の風上にも置けない。俺のマンガラノベに培われた偏見によれば幼馴染といえば密かに想いを寄せ続ける巨乳なはずなのに。
そうして俺が二次元との差に憂いを感じていると、胸に手を当てた満月後輩が長めのため息をついた。ため息と言ってもトーンが高めで、安堵の色が感じられる。そして胸に手を置くのは駄目だって!特に玲さんのお隣では!格差が際立っちゃうでしょ!
「はぁー、よかった。てっきりお二人が付き合ってるんじゃないかと思って不安だったんです」




