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捻くれ男は苦労する。 ③

「なんか顔色悪いね。大丈夫?」


 通学路の途中でふと玲にそんなことを言われる。

 しかし正直に「見知らぬ後輩女子と連絡先を交換して、メッセージを待っていて寝不足」等ということはかっこ悪すぎていえない。だからここはかっこよく大人な感じで「子猫ちゃんと夜遅くまで焦らし対決をしてたのさ」とか。

 …ダメだ、全然かっこよくない。


「俺の顔色は誰にもうかがわれないから大丈夫だろ」

「うわっ、朝から面倒くさっ」


 ユーモアあふれる自虐で返したつもりなのだが不評だった。

 だがそれよりあの後輩。詳しいことは後で、と言ったはずなのにこの仕打ち。ここまで振り回されるのはきっと小学生の傘くらいだろう。あれはもうライトセーバーだから。

 結局は気になって眠れないなんて情けなさ過ぎる。そりゃ今日中、と彼女は明言したわけではないけれどさ。俺と満月後輩の「後で」には大分差があるのかもしれない。俺も時によっては親の小言に勉強は後でやる、と返して結局やらないこともあるし。だがもし俺が満月後輩にメアド交換など何かを迫り後で、と濁されるならば悲しくも納得できちゃうけれども、今回の場合は彼女発信だ。自ら踏み込んでからの敬遠なんて高度な避け方されても戸惑うしかない。きっと野球でストレートで2ストライクとられてからなぜか敬遠されたバッターと同じ気持ち。

 もう自分からメッセージを送っちゃおうとすら思ったが、やはりそれではこちらが待ちきれなかったようで、満月後輩の優位が確定してしまう。悪い人には見えなかったけれど世の中のサンタが皆偽者のようにして外見は当てにならない。相当な悪女な可能性だってある。そうなると問題は悪女が俺に何のようなのだ、ということだけれど。

 気になり始めると頭から離れなくなる。まさかあの一言でここまで束縛されるとは。恋仲でもないのに束縛されるなんて。これはきっとお付き合いしたら物理的に縛られるまである。お、大人だなー。


 学校にたどり着き、玲と別れ、授業が始まってもなお頭の中は靄がかかったままのようで、当然のことながら授業は頭に入らないまま昼休みまで来てしまった。

 いつまでそわそわしてるつもりだよ俺。流石にちょっと情けない。後で、といわれここまで来なかったのだからもうこないと決めてしまっていいだろう。満月後輩の真意は見抜けないが歴代の哲学者が女性はあーだこーだと名言を残しているのにもかかわらずいまだ完璧な説明書が完成していないのだから俺が一朝一夕で女子の心理など解明できるはずもない。


「あ、せんぱーい」


 教科書を机にしまいこみ、昼食の調達に行くとしよう。あと分解したボールペンも組み立てなおさなければ。


「せんぱーい」


 もう携帯の電源は切ってしまったほうがいいかもしれない。そして意識を焼きそばパンにもシフトしよう。それにしても焼きそばパンって炭水化物の化け物だよなー…はっ!炭水化物は炭水化け物の略称か!

 …とまぁこういった風にして。


「せんぱーい?」


 財布を握り締め、立ち上がるとがやがやと喧騒が生まれつつある教室を後にする。

 食堂へと急ぐ連中は既に姿を消し、他は教室に留まっているためか廊下に出ると静けさとともにちょっとした寒気が肌をなでる。

 で、別に冒険に出るわけでもないがたーらたったったったったったーとRPGのテーマを脳内に流しながら歩き始める。生徒がゾンビになっていても謎の組織によって学校が占領されても生き残る自信はある。なんならヒロインのかっこいい助け方まで知ってる。んでいつかのためにシミュレーションしてる。


「せんぱいっ」


 だが冒険は数歩進んだところで制服のすそが引っ張られすぐに終わってしまった。

 そして振り向けばやつがいた。満月後輩が。それを認識した瞬間に鼓動が加速する。


「さっきから何回も呼びましたよ?」


 かすかに首を傾けて上目遣いで俺を射る満月後輩はなんというか、そのー、可愛かった。この前と違い薄く脱色された髪の毛は束ねられておらず、ゆるくくりんっとカーブしている。そしてサイズが合ってないのか手のひらの半分ほどがセーターの裾で隠れていてなんかあざとい。

 それにしてもなんというタイミング。ラインで待ちぼうけをくらい忘れようと思ったこのときに。これが女の勘というやつか。だとしたらちょろい男子が敵うわけがない。ラスボスレベル。冒険をはじめたばかりなのに急に腕とか目が多い怪物に遭遇した感覚。

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