捻くれ男は苦労する。 ②
※妹じゃなくて従妹にしました。詳しくは52部の後書きにて。
データに換算すればたかだか数バイトであろうはずなのだが、心なしか携帯がずしりと重たくなった気がする。なんにせよ初めての事態だ。初体験だからかドギマギしないでもないがおそらくはストレスによる不整脈であって初体験という俺のお年頃なら意識してしまう単語の桃色な効力ではないだろう。
まさかあの後輩にここまで追い詰められることになるとは思ってもいなかった。
相談を持ちかけられるという特殊な状況に俺もおそらくは動揺していたのだろう。だから言葉を発せなかったし、「あの、詳しいことは後で連絡しますから…」と良くわからないうちに連絡先の交換を行っていた。
見知らぬ女子のラインをゲットするなんて、いつの間にか俺のコミュ力がすごいことになっていた。ラインの連絡先の八割が女性。まるでちゃら男だ。だがこの急成長に意識がついてゆけていない。
どうしよう。
後でうんたらかんたらと言っていたしメッセージが今日中に来るかもしれない。そう思うとそわそわする。なんか意味もなく頻繁にライン開いちゃうし、なんか満月のプロフィール画像の太ったアザラシを眺めちゃうし、ユーザー名の☆☆満月☆☆を〇〇満月〇〇とかに変えてしまう。
気を紛らすためにテレビをつけたわけだが、やはりスマホが通知で光るたびに心臓が跳ね上がる。んでパズルゲームのハートがたまっただけの通知に怒りさえ覚える。更には志乃の携帯の通知音にすら反応するまである。浮足立つとはこのことだな。多分三メートルくらい浮いてる。
「なんかさっきからびくびくして気持ち悪いんだけど」
「え」
急に志乃に話しかけられた。秘め事を指摘されたようで文句を言われた直後だけれどびくっと体が浮く。きっと三メートルくらい。
「いや、別に…してねぇし」
兄貴らしさが依然としてわからないでいるが、とりあえずはぶっきら棒に答える。それにしてもぶっきら棒てなんだろう。用心棒のお仲間だろうか。ちなみに用心棒と東尋坊はお仲間じゃないので注意だ。字面を見てみれば東尋坊の方が武蔵坊と似ていて強そうだけれど。
「あっそ」
するとさして俺に興味があるわけでもない志乃はあっさりと引き下がる。ふぅ。
それにしてもお風呂場でばったり!意識しちゃって顔が見れない!なんてイベントが発生したわけでもないのにこの気まずさはなんなんだ。志乃の方は何も思ってないようなのだが、俺としては沈黙に面するたびになにか話さなくちゃ!とコミュ力不足らしい強迫観念を覚えてしまう。
「あ、あのさ」
「何」
「ちなみに相談するとしたら誰にする?」
「けい君にはしないから大丈夫」
ですよねー。
わかってる。わかってるからこそ尚更にあの後輩の真意が覗けない。
流石に高校生にもなって嘘の告白、なんて悪戯をするとは思えない。となるとレベルが上がって美人局か!怖い!人気のないところに呼び出されたら要注意だな。
…憂鬱になってきた。
後輩女子からのメッセージなんてもっとうきうきする物なのかと思っていたのに。いや、そりゃさっきまでは三メートルとか浮き浮きしてたけど。だが冷静に状況を顧みてみればこういったイレギュラーな展開が好ましいものなわけがない。突飛な展開に心で憧れを抱けど俺の本質が求めるは不変で普遍なわけだから発生した時点でもはや嬉しくない懸念事項だ。
もうこの満月後輩をブロックしちゃえばいいんじゃないか?
ただの逃避だけれど先人は逃げるが勝ちなんてこういった場面にも使える言い訳を残している。つまりは人間関係から逃げてる俺まじ勝者。
しかし結局そうした大胆な一手を打てる度胸が俺にあるはずもなく、スマホとのにらめっこを続けた。お風呂に入っている間も気になるし、既読無視は死刑に値するらしいという情報を目にしておののき、メッセージを読んで何分以内に返信すればよいのか頭を悩ませたりと中々忙しい。
これがリア充の忙しさか!…きっと違う。




