捻くれ男は苦労する。 ①
「従妹よ」
ソファの支配者のように二人分のスペースを占拠して寝そべる志乃におそるおそる、けれどそれを悟られないよう偉そうに、提督とかよばれそうな感じで話しかけてみる。
彼女が俺の通う高校の付属中学に受験をして、うちからの方が通学が楽だからと預かってくれと叔母に頼まれ母親が快諾してから二年ほどたったのだけれど距離が縮まったようには思えない。俺が急に女の子が家に入ってきてしどろもどろしていたからかもしれない。そのうちにも志乃自身は家に溶け込み、母親から俺以上に可愛がられ、こうして堂々とソファの独り占めを行っているというのに。ちなみに俺はうちに猫がやってきたときも同じ経験をしている。そしてその猫は俺よりも志乃になついていたりする。それってどうなんでしょうね。餌の分量減らしてやろうか。
「なに?」
志乃は視線はスマホのスクリーンに向けたままでそっけない。ゲームでもしているらしい。つむつむ。
「えっと、俺もソファに座らせてくれません?」
「いや」
「テレビみたいなー」
「ゆか」
なにこの子。東北の人?それともナウすぎて若者文化な言語の省略を極めちゃったのかしら。そのうちシャーペンをシャペとか略称もさらに略し始めるんじゃないんだろうか。
そして心の広さがが東京ドーム11個分(ディズニューランドと同等)と自称する俺はそれ以上反論を持ち出すこともせずにすごすごと床に腰を下ろす。ソファと机の間に体を挟み、ちょっと落ち着く。
そうして志乃に対する微妙な緊張感がほぐれると、ふと彼女の言葉が蘇る。
先輩、ちょっと恋の相談に乗ってくれません?
一難去ってはまた一難とはこのことだ。ようやく部費の件が片付いたというのに、すぐにまた俺の理解しえない思索が錯綜していそうな渦に巻き込まれるなんて。一時期は人と交わりたいなんて思ってはいたが願望が易々と反映されすぎだろ。俺のような対人レベルの低いのが急に他人と交わり始めたところで即死が妥当だろうに。RPGはスライムでこつこつレベルを上げなくちゃ。
うわー憂鬱。
なんか俺の理解できない思索が錯綜している気がする。あの後輩が素直に相談を持ちけてきたなんて信じられない。
相談というのはプライベートの弱みを打ち明ける行為であるからして、普通は人選を慎重にするだろう。相談の内容にもよるだろうが、近しい人では関係が崩れることが危ぶまれるし、内輪の中には自分に害意を持っているのだっているかもしれないから自ら弱点を晒すなど有りえない。かといって逆に少し距離を置いたのを相手にすると言いふらされる可能性が跳ね上がる。
相談なんて一大イベントは一歩間違えれば大惨事だ。だから家族というようなリスクの少ない面子を選ぶことが多い。
つまり今回のこれ絶対に陰謀とかあるね。女子をなめてると酷い目に合うに違いない。変態として通報され逮捕されるとか。いや、これは物理的になめた場合か。
そういえば。
志乃が相談するとしたら誰だろうか。
とりあえず俺はないな。普段プライベートな事に関して話すことすらないし。志乃に彼氏がいるのかどうかなどは欠片もしらないし、なんなら友達がいるのかどうかさえ知らない。俺の従妹だから同じだからありうる。きっとラインとか覗いてみれば俺と同じように家族だけ、なんてこともありうる。可哀そうに、これが呪われた血筋ということか…中二っぽい。
ふむ。
俺は自分のスマホを取り出すと、ラインを立ち上げる。通知はいつものように無い。最後の会話は母親からの買い出し命令である。悲しすぎる。そしてなぜ母親のアイコンがプリクラなんだ。痛すぎる。
だが本当の問題は母親と父親と志乃、そして玲の下に。
☆☆満月☆☆
なんてキラキラしたのが。満月なのに星ってどういうことだよ。
※4/13 大幅変更
妹じゃなくて従妹にしました。ぶれぶれで申し訳ないです。
妹じゃヒロインになれないけど従妹なら!ということではなく微妙な距離感の関係がいいなぁというわけで。ほんとだよ?




