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捻くれ男は元に戻れない。 ④

いつもより少し長め。

 とりあえず俺が学校に持ってくるのは却下だな。

 そりゃ思いのほか目立たないかもしれないが気恥ずかしさはぬぐえないし、恥ずかしがってしまったら逆に悪目立ちしそう。んであだ名がマネキンとかになる。そんな不名誉なあだ名ランキングにランクインするようなのは遠慮したい。

 …ってかランキング作れちゃうほど沢山黒歴史なあだ名があるのかよ。俺が可哀そうすぎる。


 本来なら松戸に回収しにきてもらうのだ一番なんだろうけど、あれは中々重い。松戸の家がどこにあるのかは知らないが、ご近所さんでない限りあれを背負って行動するのは女子にとってはタフな仕事だろう。

 ふむ。人目につかないようにマネキンを移動する方法。マネキンが死体だったらミステリーっぽい。そして多分マネキンを黒く塗り潰せば犯人っぽい。


「…分かったわ」


 逡巡する俺を見つめた後に松戸はふっとため息をついた。


「今度私がとりに行くから。住所教えて」


 きゃぁっ!積極的!

 個人情報を聞き出してくるなんて。

 しかし目の前のなんかいつも以上に顔の筋肉を動かさない松戸さんを見ると俺までもが無になる。思春期の高ぶりも不思議と抑制される。

 勘違いを与える隙もない松戸に俺はアマゾンに住所を教えるような感覚で住所を綴ったメモ用紙を渡す。

 ついこの前の買い物で少しは距離が縮まったかと勝手ながら思っていたわけだが、こうして対面してみれば初めての時といたって変わらない。なんなら最初よりも他人行儀な気さえする。やっべぇ、俺のコミュ力はゼロどころではなくてマイナスだった。


「それだけ?」


 そして俺との接触を出来るだけ短時間で済ませたいのかぐいぐいくる。


「お、おぉ」


 しどろもどろになりながらうなずき返すと、松戸はそれ以上何もいうことはなく部屋の中へと戻っていった。もしかすると松戸のアンドロイドだったかもしれないと妄想できるほどに淡白。毒舌のマツドアンドロイド。ふくよかな感じがする。


 へんな意識をしていたのは俺だけだった。買い物の手伝いを頼むなんてことは女子にとってはきっとなんでもないことなのだろう。お礼を言うことなんて松戸だからちょっとドキリとしてしまったが、よくよく考えれば人としてなんでもないことなわけで。その程度でときめいちゃう俺の免疫力が低すぎる。だから昔中二病なんて病にかかってしまったのかー、ははは。冗談冗談。ちゅうに?なにそれ?食べられるの?


 あまりにあっけなく会話が終わったせいで俺は少しの間服飾部の前に立ち尽くしながら室内を意味もなく眺めていたが、はっと我に返るとゆっくりと扉を閉める。

 これがリアルか。俺がどうにかあがいてイベントを通じて女子を助けてみてもフラグは生まれない。なにかのテレビで心理学者が男子は女子をプレゼント等で喜ばせるほどポイントがたまるようにして好感度が上がってゆくといっていたから、少しは好感度が上がったはずなのだけれど。ちなみにイケメンは時間を共有するだけで何をせずとも自動的に女子の中でポイントが加算されるらしい。なんだよそれ。一緒にいるだけでポイント稼げるとかがくしゅうそうちかよ。不公平すぎる。

 だがそれが現実なわけで。

 お菓子やら雑誌やらCDやらを大量に購入しないと憧れに近づけないように、俺のようなのが彼女を作るには甚大な努力が必要なんだろう。それが出来ないならハードルを下げるしかない。松戸なんて難関を攻略しようと試みるなんて、俺にとっては分不相応だ。

 ご無沙汰していた日常の中でこつこつ頑張ればいい。


「あの…」


 そうして今後の方針について決心を固めていると、ちょこんと肩をたたかれた。

 俺の後ろにいたのはいつも出てくる服飾部の一年のこだった。どうやら俺を追って部室から出てきたらしい。この時点で既にちょっと動揺しちゃう俺ってどうなのよ。女子に話しかけられる機会が少ないのに何でその稀な一回を会話の最上級であろう告白と連結しちゃうんだろうね。


 ボリューミーツインテールこと一年女子は俺を見上げると、人のよさそうな笑みを浮かべた。服飾部だからかただ単にギャルいだけだからか、制服の各所が微妙に改造されていたりする。こんなおめめぱっちりで薄く化粧までしちゃってる落ち着いた雰囲気には似合わないほどに「イケてる」っぽい女子が俺に何のようだろうか。はじめましてだし、名前もしらないし…やっぱり告白かな?

 しかし当たり前のことながら彼女の口から漏れるのは愛の言葉ではなかった。


「先輩、ちょっと相談に乗ってくれません?」


 …ん?


 なにこの展開。

 こんなフラグは立てた覚えがないのに。

 けれどどうやら俺は既に俺が置かれていた環境に変化をもたらしてしまったらしい。一度世界を救ったヒーローは二度目も期待されるように、己がいままでのままでいようとしても周囲からの扱いや期待が変わってしまう。今までならば相談されることなんて億が一にもなかったはずなのに。

 一度踏み入れた人間関係の渦に、相関図の中に俺も追加されてしまったのかもしれない。そして次から次へと図らずも繋がってゆく。普段から小さく望んでいたことでもあるが、こうして実現してしまうと急にけだるさを覚える。旅行は計画するだけで満足しちゃうタイプなんだな俺。

 一段落して全てが元通りなんて思っていたが、友達欲しいなぁと呟くぼっちながらも心地よかったぬるま湯な日々は訪れないのかもしれない。

 きっかけが連鎖するなんて知らなかった…落ちゲーじゃないんだから。


 で、こうしてぼやきながらもか弱い俺はきっと流される。

 玲は思いつきで俺に彼女が出来るようにと生徒会に引っ張り込んだのかもしれないが、思いのほうか大きな影響が及んでいる。言ってしまえば二人目のヒロインの登場だ。普段人付き合いをしない分出会っただけでヒロインと数えられてしまうわけだけど。

 ただ俺はおそらく目の前の彼女ともどうにもならない。


 …玲さんよ。捻くれ男にラブコメディなんて期待するもんじゃないと思います。

これで一応第一章は終わり。


作者自身が思っていたより主人公と松戸ちゃんとの距離は縮まりませんでした。無念。


※作者の独白と毒舌乙女の独白をおまけとして執筆予定

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