捻くれ男は元に戻れない。 ①
「よく頑張りました」
家に帰りマネキンを椅子に座らせて遊んでいると玲が突然部屋に入ってきた。そして小学校の先生のようなことを言う。
「…ってなにしてんの?」
おそらくは部費の件に関して俺を労わりにきてくれたのだろうが、マネキンをみて一気に顔をしかめられた。いや、別に怪しい遊びとかそういうわけではないんですけどね?
俺とマネキンとを交互に見つめていた玲だが、俺が説明を始める前に何か納得したようで、ぽんと手を合わせた。
「そうか、友達ができなくてついにここまで」
「いやいやいや」
そんな悲しい人じゃないよ俺。二次元に逃げるならまだしも三次元でどうにかしようなんてぼっちレベルが高すぎる。エア友達ならそこから隣人部とか始められるかもしれないがマネキンじゃ引かれるだけだろう。
不名誉なイメージ払拭のために松戸のことについて説明すると、玲は途中によによと微笑んでいたが、なぜか最後にはため息をつかれてしまった。あれぇ…俺頑張ったと思うんだけど。考えようによっては放課後デートだよ?松戸に付き合ってといわれた、なんて思わせぶりな台詞も言えちゃうよ?
「なんでそこまでいったのに付き合わないの?」
「逆になんでこれだけで恋愛関係に発展するんだよ」
即席すぎる。カップラーメンかよ。
「だって今回みたいな特別なシチュエーションはそんなにないんだから…利用しないでどうするのよ」
「いや、でも」
「そもそも彼女作るのに市慶は積極性が必要に決まってるじゃない。ただでさえ可能性が低いんだから」
ぐっ、そりゃそうだけど。
けれどあの松戸に猛烈アタックしたところで効果は薄いと思うのだけど。親父の頭皮くらいには。頑張れ親父。はげない遺伝子を証明して欲しい。
玲はふんすと腰に手を当てて力説をしていたが、ふと気が抜けたかのようにしてベッドに腰を下ろした。
「けどまぁ、今回はありがとう」
急にしおらしくなった。
こ、これがアメと鞭というやつかしら。これがデフォルトとかやっぱり女子は最強だと思います。
「よくよく考えてみればさ、なんか私のわがままだったなって」
「これがいわゆる明日は雪が降るフラグか」
「失礼なんだけど…」
けど急にそんな態度とられても。まじめに対応する技能なんて俺には備わっていない。気の利いたフォローもスナップの利いたブローもできない。電気の紐相手なら練習したことあるんだけど。
「そういえば一つ聞きたかったんだが、俺が彼女作りをさぼるとどうなんだ?」
妙にしんみりとした空気を変えるものでもあるが、純粋な興味もあった。
今日までの間俺は些細なことで女子に好意を抱けど行為に及んだことはない。彼女どころか異性の友達すらいない。つまり玲にしてみれば摂取が必要な恋心とやらが枯渇しているはずなわけで。けれど見た限りやせ細ったり、顔がやつれていたりすることはない。だから必要性があまり感じられずにサボっているというのもある。これが死活問題だったらきっと俺も多くの主人公の如く自分の命を犠牲にしてでも、と立ち上がっていたと思う。ほんとほんと。俺うそつかない。
この率直な質問は「どうやったら赤ちゃんができるの?」といった子供の純粋な、親が困るタイプのものと同類なのか、玲はしばらくの間を回答の用意に費やした。
ちなみに赤ちゃんはコウノトリがキャベツ畑で大人のキスとハグで神様がどうにかしたらできる。
そして玲はそっぽを向いたまま口を開く。
「お腹が減る?」
「…めちゃくちゃどうにでもなるじゃねぇか」
「ほ、他にも色々あるのよ」
いつかのようにしてサキュバス問題について詰めるとはぐらかされてしまう。




