捻くれ男は動き出す。 ①
さてと、
行動すると決めた天邪鬼ぼっちこと俺は考えなければならない。
もう恥ずかしいからここに至る経緯は思い出さないようにする。玲に都合よく流されてしまっただけだ。
全然Noといえる日本人じゃなかったよ俺。Noといいたい日本人でした。つまりステレオタイプ。
なんにせよ。
約束をした以上遂行しなくてはね。うん。
目的は部費の奪取なわけだが、今更俺が会長に交渉したところで望む結果がいられるとは考えにくい。それはバイトが社風について社長に口出すようなもので、積極的ではあるかもしれないが立場をわきまえていないといわれてしまえばそれまでだ。
だから彼の目のつかないようなところで行動するしかない。
だがそれでどうやって彼の決断を覆す?
一番に思いつくのは弱みを握り脅迫すること。これが最初なあたり俺の性格の悪さが伺える。
だが効果的であることは間違いない。いくら老獪に見える彼だって年齢でいえば俺と一つしかたがわないはずだ。無論年齢のみで人を判断するのは愚かな行為かもしれないが、材料にならないわけでもない。
女じゃあるまいし男は一年じゃさほど進歩しない。傘の形くらい進化しない。ならばいくら会長であれ年頃の悩みだってかけているだろうし、隠したい部分だってあるだろう。そこをうまく探し当て、つつくことができれば状況を変えることはできるかもしれない。
ふと俺はこの前の玲を思い出し、ノートを広げ、天辺に会長の名前…は知らないから大きく会長と記す。
彼の弱みを推測するならば、情報を羅列して彼の人となりを探るしかない。
さて。
えっと。
弁が立つ。
ずる賢そう。
多分意地悪。
きっと彼女いない。
おそらく成績はよい。
自己中心的っぽい。
案外ヘビメタが好きとか意外な一面があるかもしれない。
そこでペンが止まった。
駄目だ、薄々気づいてはいたけれど俺会長について個人的なことは何一つ知らない。後半は全て俺の主観だし。特に最後なんて理由すらない適当な予想だし。
大体人付き合いが苦手な俺のに一番不適合なアプローチをしてどうする。他人の個人的な部分に踏み込むなんて経験も技術もない。かっこつけて脅してやるか、なんて意気込んだのに素質がないとか恥ずかしい。
俺には俺に向いた戦略があるはずだ。あのマイケルジョーダンだって野球に挑戦しても目立った成績は残せなかったんだから俺が専門外の事に手を出すなんぞ数百年早い。
まぁいけるなんて冗談でも甘く考えてはいけない。
…寒いな。
では横のつながりも縦のつながりもなく、人間関係の隙間を浮いているような俺に適した手段とはなにか。というかクラスでもどこでも浮いてるのに浮いた話がないってどいうことなのよ。浮世離れしてるってことかしら。
そして独りな俺は最近ヒロイン色が強いけれども勿論色仕掛けは不可能なわけで、恐怖や欲情で会長を籠絡できそうにもない。
となれば。
視点を変えるしかない。
会長を懐柔せずとも部費をもとに戻す方法とは。
とりあえず考えられるのは部長連合軍に参加しなかった部長達の説得。
会長の口ぶりなどから察するに、今回の件では部費にあてられる予算の額は変わっておらず、分配のみが変わったのだと思う。まさか減った分だけ会長のポケットに入ってるなんてこともないだろう。そこまで会長が腹黒だったら逆にすぐ発覚させることができるだろうから楽なんだけども。
だがおそらくは片方で減った分だけもう片方が増えている。ならばその増えた部活の部費を元に戻す了承を得ることができればよい。
…よいか?
百歩譲って余計に部費を貰えるようになった部長達が快く提案を受け入れてくれたとしても会長がそれに気付かないとは思えない。そして交渉の段階で俺の身分を隠すことが不可能であるから、すぐに糾弾されるだろう。きっとねちねちと言われるうえに会長権限で俺の努力は泡となる。
ふむぅ。攻略本が必要だこれは。
現実的に考えれば二番目の方法も不可能だ。俺にそれだけの交渉スキルはない。
ならどれだけマイナー部活動が哀れかを訴えて優しさを振りまきたいリア充部長から巻き上げるか?
おそらくはツイッターにうんたらかんたら黙祷、なんて善意と自分への陶酔が混じるツイートを投稿して、悪い人じゃないのだけれど叩かれちゃうようなリア充なら笑顔で部費を分けてくれると思う。
だが結局はそれも一部で全ての部活の部費をカバーするには至らないだろう。
あれー。玲にかっこつけてしまったのに手詰まりっぽい。
い、いや待て。きっと状況に関する情報が少なすぎるだけだ。
探偵は数人目の被害者が出てから犯人を突き止めるし、正義のヒーローは遅れてやってくるという。
だから玲によって主人公に抜擢された俺もまた焦る必要はない。堂々と重役出勤すればいいのだ。
…役に立たない刑事が連続殺人が完了してから犯人を確保したり、実力のないヒーローが町が半壊してやっと登場したり、平社員が遅刻すればそりゃ大顰蹙、非難轟轟と漢字が強そうな状態に陥るけれど。




