年頃乙女は押し付ける。 ④
いつものようにして俺の理性と感情が反発する。
どうして俺は心からのぼっちになれなかったのだろうか。
乾いた心は今も人との繋がりを、人としての潤いを求め叫んでいる。誰かの役に立ちたいとか、認められたいとか。
この前も同じようなことを考えた気がする。ったく玲さんはデリケートなところをつついてくださる。ここまで感傷的になるような性格でもないはずなのだけれど。
本物の一人ぼっちに憧れるというのもおかしな話だが、俺はフィクションの中で見かける根っから孤独であり、孤高を貫く主人公に憧れを抱くのを止められない。
結局俺は理解されたいのであろう。
けれど。
「やだ」
俺の断言に、玲が顔を伏せる。
自分の矛盾して循環する思考は十分すぎるほどに理解している。
だが。
ではその本性を曝け出せますかと問われれば当然のことながら答えはノーだ。
理性と感情を天秤にかけたなら雲のように形の無いあやふやな欲求よりも屁理屈でぎゅうぎゅうに固められた悟性の方が重いのは当たり前だし、俺は既に感情に身を任せるのは人に弱みを見せるようなものだと認識してしまっている。
だから本音は語らない。
でも。
「契約があるのは確かだ。俺は彼女を作る義務がある」
経験によって形成される理性は感情よりも固く、俺の中に鎮座して動かない。
だがしかし俺が積み重ねてきた詭弁の化け物だ。一日中無駄にモノローグに時間を費やしている俺が、いままでの俺が生み出した理屈を論破できないはずもない。
俺の理智は可能性を否定し、行動を封じるが感情が疼く。
ならば今までの自分を否定するしかない。そして言い訳を、建前を、行動を起こすための動機を作り上げる。
情けないながら、俺は自分で自分を肯定し、過去を拒まないほどに強いぼっちじゃない。
流され、形を変え、適応する。
別に友達が欲しいわけじゃない。恋人なんていらない。けれどせめて自分の感情くらい押し通してみたいとは思うじゃないか。
「で、おそらく部費の問題を解決すれば多少は松戸の俺に対する好感度は上がるだろう」
恋仲に発展する可能性はほぼないといえるが、間違ってはいない。今の俺には筋さえ通っていれば十分だ。
既に俺は玲の依頼を受けようとしている。
繋がりに飢えているといったが、では俺は部費をどうにかして誰に認めてもらいたいのか。
玲か、松戸か、会長か。それとも自分自身か。
自分だとしたらそれは俺が嫌悪していたエゴそのものじゃないか。やはり矛盾している。
だから俺はしかたがないからと嘘を付く。
仕事だから、契約だからと誤魔化し、己の中の糾弾をあやふやにする。
自分の思考は理解しているが、本性は俺の手には負えない。
ほんと、俺ただのめんどくさい子だなこれじゃ。モテないのもうなずける。赤べこかよってほどに頷いちゃう。
自分に呆れながら、さらに言い訳を口にする。
「だから…やるよ」
プロサッカー選手だってびっくりなほどの急な方向転換をした俺に、玲はどんがばちょっ!と顔を上げた。
「へ?」
「だから、やるって。彼女作るために」
うわぁ。なんか理由が全然かっこよくない。お前のためにとか言っといたほうが主人公らしかったかもしれない。
玲は少しの間あっけに取られていたようだが、やがてにんまりと口角を上げた。
「市慶がデレた…」
なんだよそれ。やっぱり俺ってヒロインだったのかしら。だったら彼女がいないのも当たり前だね。だってゆるゆりーになっちゃうもの。
ま、主人公もいないけどね。
「最近の市慶ちょろい」
しかもチョロインとな。よく不思議になるよね、なんであんな惚れ易いヒロインが初恋とかほざいてんだ!嘘つけ!みたいな。
「実は彼女欲しかったんだ…」
そういう納得のされ方をされると都合はいいかもしれないがとてつもなく恥ずかしい。
気恥ずかしさに玲からふいと顔をそらすと、視界の端の彼女はふっと吐息を漏らした。
「市慶は中途半端なぼっちだね」
流石は幼馴染というべきか、的を射ている。
そりゃ俺もラブコメが間違ってる彼のようにかっこよくなってみたいけどさ。
けれど結局俺は本質的に弱い。
別に一人でいることは苦じゃない。だが、誰かと騒いで見たいとも思ってしまう。囲まれていたいと願ってしまう。
玲の言うとおりだ。俺ちょろい。
でも流石にチョロインの称号は受け入れがたいから…そうだな。ちょろいヒーローということでチョーローだな。
…どこの村の偉い人だよそれ。
※4/14 脱字修正




