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捻くれ男は傍観する。 ④

「三年A組、山岳部部長、山田毅」


 腕太部長は山岳部の筆頭らしい。外見からすると柔道などの格闘技の部長の肩書の方が似合っている気もするが、考えてみれば柔道部のようなメジャーな部活は部費削減の対象にはなっていないのかもしれない。

 そして名前に剛は入ってませんでした。残念。剛力剛とかだと思ったのに。


 山田先輩は彼の自己紹介に会長が小さく頷くのを見届けてから、先程よりも落ち着いた口調で不満を述べる。


「今回の部費を減らす件については俺は全面的に反対だ。そもそも何も知らされずに、急に減額だといわれても承諾するわけにはいかない。既に俺達も今年どの山に登るか計画を立て始めてるんだ」


 部費削減の予兆は無かったのか。

 山登りなんて小学生のころの遠足以来だが、おそらく山岳部の面々が山といえばそれこそ富士山のような標高の高いものをいうんだろう。あのがたいのいい部長が普段着で高尾山に登りきゅうりを食べて満足するとは思えない。チェックのシャツをきてリュックを背負い、鉢巻をしてメガネかけて…

 いや、それはヲタク像だろ。

 なんにせよ、本格的な登山をするとなればそれなりの装備が必要だ。それこそアイドル育成にはまっているような人たちよりも。詳しい値段は分からないが、日用品でもないストックが百均で売っているはずもなく、ある程度の値段はするだろう。それに例えばの話だが、富士山に挑戦するとなれば交通費や宿泊費までもがかさんでくるだろう。それを全て学校から支給されている部費で補っていたとしたら、今回の予算カットは部活動に影響しないはずがない。


「予定といっても別に予約をしているわけでもないですよね。だからキャンセル、変更は簡単なはずです」

「でもだな、富士山を攻めるのは毎年恒例のイベントなわけで俺たちの代でその伝統を終わらせるわけにもいかないだろ」

「じゃぁ他を削ればいいじゃないですか。登山道具も中古のを購入するとか、回数を減らすとか。対応のしようはいくらでもあるでしょう。部員から部費を徴収することだって出来るはずだしね」


 淡々と、まるで用意されていたかのような提案を述べる会長は間違ってはいない。

 だが正論でクレーマーを納得させることができるかといえば違う。特に山田先輩なんて力ずくで無理を通して論理を引っ込ませるようなタイプっぽい。


「そもそも何故俺達だけが部活動の規模を縮小しなきゃいけないんだ」

「そりゃ、目立った活躍がないからだよ。多くの体育会系の部活は大会に出たりしてこの高校の名前を宣伝してくれるからいいけれど、君達は大会に出場したって報告もないし…そもそも登山大会なんてメジャーじゃないしね」

「メジャーじゃないからって減らすのかよ!」


 ついに、というよりも早速山田部長が声を張り上げる。ほどいた腕は机につかれ、少しでも会長との距離を縮めようとするかのように上半身を乗り出している。


「そうだよ」


 だがいかつい顔が近づいたところで会長が動じる様子もなく、すっぱりと認める。

 競技の認知度が予算と関連しているのはまぁ当然の事だろう。詳しいことは知らないが、オリンピック競技への予算だって勝てるかどうかに加え、競技の注目度が考察されるだろう。

 山田部長は揺るがない会長をこれでもかというほどにがんを飛ばすが、あまり効果があるようにはみえない。本当に暴力沙汰になりそうで怖い。


 山田部長の怒りが緊張の糸を張りめぐらせ、同志であるはずの他の部長達ですら口を閉ざし、独走する山田部長を困惑のまなざしで見つめているのさえいる。彼らだって急に集められただけで、結束力何てないのかもしれない。だとすると堂々巡りを予想していたが、案外簡単に彼らは崩れてしまうのかもしれない。

 マイナーな部活に対して部費の減額が行われたとするなら、ここに出席している部長達の多くは文化系の部活動を代表しているんだろう。だとすると山田部長のように血の気の多いのは少ない気がする。小さく今回の件について反対の意を示しながらも、こうして理路整然と理由を示されてしまえばしょうがないと納得、妥協してしまう人も多くいるかもしれない。

 だとすれば俺の最初の戦闘力の見積もりは随分と的を外れているだろう。筆頭である山田部長が既に浮いてしまっている。そして彼を抑える人もいない。なんなら山田部長と同色だと思われたくはないと考えているメンバーもいるかもしれない。

 山田部長は戦略を間違えたんだ。

 彼が単身で生徒会に乗り込んできたなら彼が納得するまで話し合いを続けざるおえないし、最終的には多少の削減の緩和を約束させることは出来たかもしれない。反論を抑えるために一つの部活動に内密に、会長ならそうした対処をとってもおかしくない。

 だが。こうして数だけそろえたような団体になってしまえば。

 まず会長が削減を撤回することはありえない。ここで頷いてしまえば全ての部費削減対象となる部活動にも同じ処置をしなければならなくなり、その額はそれなりに大きいだろうから。そして団体となれば多数決で方針が決まる。初めこそ皆同じ目的を掲げ、この場に乗り込んできたのだろうが、今ではそんな団結力は見当たらない。そして過半数が諦めてしまえばいくら一人が納得しなかったとしても団体としては引き下がるしかない。そして退却は部費削減を認めたという事実を会長に受け渡すということであり、これ以上の交渉は個人単位でも望めない。


 ちょっと安い台詞かもしれないが、試合が始まる前から勝敗は決まっていたということ。

※02/21 誤字修正しました。

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