捻くれ男は傍観する。 ③
またいつものように軽く約束をかわしてしまった翌日の放課後。
軽薄な連中を蔑視しながらもこうして軽々しく言葉を放ってしまう自分の一貫性の無さに机に突っ伏しながら落ち込んでいると、ぽんぽんと背中をたたかれた。
あぁ、仕事が俺を呼んでいる。
「ほら、行くよ」
嫌だ。行きたくない。
思い返してみれば純粋だったからかまだ友達が少ないながらもいた小学生のころ、友達と遊ぶ約束をしのは良いがいざ当日となると急に憂鬱になったりしていた。そもそも外出に向いた体の構造をしてないんだろう。きっとネコ科で夜行性なんだ俺。間違えて人間に生まれてきたんだなー。
それか待ち合わせに友達が現れなかったことがトラウマになっているからか。
しかしここでだだこねていかないわけにもいかない。
泣いて喚けばおそらく回避は出来るだろうが回避しかできない。失うものが多すぎる。えっと、友達…はそもそもいないか。となると信頼…もないか。だとすると尊厳…なんて大したものは持ち合わせてないし。
失うものはありませんでした。なにそれ俺最強じゃん。
× × ×
うわぁ…
重たい足を引きずりながら辿りついた会議室の空気は既にぴりついていた。山椒レベル。
相対する立場を明確にするためか、コの字にセッティングされていた机は今は等号のように平行に並べられており、席に着いた部長達と役員らが自然とにらみ合っている。
部長連合軍の数は玲の言っていたとおり二十人を超えているだろう。机の奥に二列に並んだパイプ椅子に険しい顔をした彼らが座っているのは迫力がある。ひな壇の右大臣やら五人囃子を怒らせたらこんな感じになるんじゃないかと思う。
先頭列の中央には体育会系の部長と思わしき先輩が太い腕を組んでおり、その横にはあの服飾部長がいる。特に顔をゆがませているわけではないが、冷めた表情が怖い。
俺がしぶったせいで俺達の到着は少々遅れたようで、必然的に部屋に入ると部屋中の視線が集中するわけだが、できるだけ目を合わせないように生徒会側の空席に向かう。
生徒会側も頑張って人数を集めたようで、おそらく数だけで言えば部長連合軍より多いんじゃないかと思う。だが俺と同じようにして仕方がなく参加している役員もいるはずで、全員が怒気をはらんでいる部長連合軍との戦闘力の差は歴然としているけれど。
特に肉弾戦に発展したらあの大将らしき名前に剛とかついてそうな腕太部長を倒せるような顔はこちら側にもいない。もし俺達が格闘ゲームのキャラなら部長達はそれぞれ部の特色を生かした攻撃ができそうだが、それに比べて生徒会って。多分特技はないよ俺ら。ちょっと成績のいい人の集まり。料理部に包丁振り回されればなすすべもなくKOだよ。
「じゃ、そろそろ始めましょうか」
俺の後にも数人の生徒会役員が入室し、席が埋まったところで話し合いが始まる。
といっても威圧要員である俺はおそらく一言も話し合わない。
俺のすることといえば荒れるであろう会議を傍らで眺めながらの暇つぶしの実況くらいだろう。
「あと最初に言っておきますが、部費の変更は考えてはいません」
おいおい。
初っ端から会長が、後ろからで表情は伺えないがおそらくはあの微笑を貼り付けたままに要求を切り捨てる。口調こそ丁寧だが慇懃無礼をあえて行っているようにも思える。
穏便に事を運ぼうという気はないのだろうか。
既に会長の言葉に幾人かの部長が眉間の皺を深くしている。特に腕太さん。
「ふざけてんのか」
「えっと、名前と所属している部活動を教えてくれますか?」
早速ぶっきらぼうな不満を漏らす腕太部長の台詞を会長が切り上げる。わざとだ。絶対わざとだ。
きっと目つきが更に厳しくなった腕太部長をみて会長内心でイヒヒヒヒヒとか笑ってる。だって二人とも三年だし。外見的にも目立つ部長と会長だし。名前を知らない可能性は低い。
会長怖い。怒らせて暴力に訴えるのも待っているんじゃないだろうかと勘ぐってしまう。今の状況だけ見れば腕太部長は完全にすぐやられる中ボスな雰囲気だが会長はきっとしぶとく生き残るニヒルな黒幕だ。
なんとなくこの話し合いの進路が見えてしまったような気がする。




