捻くれ男は傍観する。 ②
「こういうときのための臨時役員なのに」
「それはそうだけど…」
むすっと膨れる玲の言っていることは至極全うだが、会長仕事作りすぎじゃね?
次手伝うのは何かしらのイベントの時だと思っていたのにまさか一週間ほどでまた召集されるなんて。もう少し穏便にことを済ませて欲しい。
あと頬をぷくっとさせる玲あざとい。つまり可愛い。頑張るリスっぽい。
と、なんとなく見つめていると頬をへこませた玲が俺の顔の前で人差し指を立てた。
めっ、とか言われちゃうのかな?なにそれあざとい。
「あ、そういえば手伝ってくれれば文化祭のときとかの負担を減らすって会長が言ってた」
「おいそれを早く言えよ。座ってるだけだろ?車とか数えなくていいんだろ?」
よし。これが将来への投資という奴だな。流石は会長。よくわかっていらっしゃる。
にしてもあの会長のことだからいざ文化祭となったときにすっとぼける可能性もあるな。証明書でも作っておいたほうがいいかもしれない。
「じゃ、今度よろしくね?さぼったら罰ゲームだから」
普段の俺のモチベーションの低さを考慮してか、口頭の了承だけでは足りないようで玲が念を押す。
なんだよ罰ゲームって。青汁?わさび?なんか一度だけ参加したおませな中学生達の合コンを思い出す。俺どっちも経験しちゃったよ。でもゲームしてないのに罰ゲーム受けるとかどうなのよ。俺存在からして負けてるの?
あの「なにこれウケる、誰か頼んでみてよー」とか言って男子を誘導した女子は一生許さん。
それと「なにそれやばっ、さかいお前青汁飲めよー」と下心を隠さずに盛り上げにかかった男子も許さん。誰だよさかいって。
ついでに青汁とかわさびシュークリームとか用意するカラオケも許さん。
「おう」
そういえば罰ゲームといったら嫌な想像しか広がらないがおしおきと言い換えれば桃色な妄想が膨らむなぁ…
「あとせめて女の子とコミュニケーションをとるようになって」
「お、おう」
でも男子とすらろくに話していないのに女子なんてハードルが高すぎる。クラスの女子の会話を傍聴することもあるが多分女子は別生物。
会話の速度も言葉数の量も転換回数も桁が違う。それに彼女らはジーンズをデニムだとか二色をバイカラーだとかオーバーオールをトランペットとかいうらしい。…楽器入ってきちゃったよ。
なんいせよ呪文のような単語が詠唱される会話に身を投じるほどに俺は丈夫じゃない。
俺が顔をしかめた成果、再び玲が人差し指を立てる。今度こそ意味合いてきには「めっ」だろう。
「あのね、関わりのない男の子を好きになることなんてほとんどないの。市慶は部活もやってないし目立たないしイケてる感じじゃないから女子のほうから関わってくることなんてないだろうし。だから積極的にいかなかきゃ」
語調が強いわけではないが程度的にはめっより喝ってほどに手厳しい。日曜の朝かよ。
玲の理屈は分かる。俺だって妄想はすれど現実世界で女子が俺の優しい一面を垣間見て一目ぼれ、なんて奇跡を期待しているわけではない。特に高校では、特に女子の間では足並みをそろえることが重要となってくるわけで、より分かりやすい、大衆に受け入れられるような男子しか恋愛対象に入らないだろう。それこそ体育系の部活の部長や、名前の知れ渡った先輩のような。
そうした環境の中で俺がピックアップされることはないだろう。普段から教室の隅にいるような、しゃべったこともない男子を慕う女子はいないだろう。
つまり。
俺じゃなくて社会が悪い。
と、そんな俺の主張をやんわりと伝えてみるが、玲は納得しれくれない。
「社会が悪くてもそれに適応しなきゃ。別に女子だって口で言っててもみんながみんなサッカー部の部長と付き合いたい、なんて思ってるわけじゃないし。大事なのは一緒にいて楽しいかどうかなの」
それこそ軽薄な男子のように意味もなく場を盛り上げ、白々しい言葉で女子を褒めちぎることが求められているのだろうか。効果はあるのかもしれない。しかしそうした自分の姿を見つめなおせばそれは虚無的で滑稽だろう。
そうして葛藤してまで女子の機嫌をとり彼女をつくるべきなのか。
「そこまでして彼女作んないとダメか?」
「だって契約したじゃない」
そうだった。仕事でした。
仕事をするにあたって感情とか葛藤とかそういうのいらないですね。はい。
契約した時点で俺がどれだけ深く思考の海に潜ろうと玲の正当性は崩れず、俺は行動を迫られるのか…。
憂鬱。




