捻くれ男は傍観する。 ①
「なんか大変なことになってるみたいだよ」
帰りに道にそんなことを言われたのは既に役員の仕事をしてから数日が立ち、服飾部長の名前を忘れかけた頃だった。
家が近くても俺と玲は一緒に帰るといった幼馴染らしいことはあまりしない。そもそも玲は生徒会の仕事があったり寄り道をしながら帰ることが多いし、俺も寄り道はすることはあっても玲が友達と行くような場所には行かない。だから同じタイミングで帰る、といったことがあまりない。だが偶然帰路で顔を合わせれば無視しあうほどに疎遠になったわけもない。
「何が」
「生徒会が」
「…なんで喋り方が他人事っぽいんだよ」
玲さん生徒会役員じゃありませんでしたっけ。しかも常任。
しかし隣を歩く玲はさりとて心配をしている風でもない。となると大変といっても自慢の大変かもしれない。「息子が医大に合格しちゃって学費が大変なのよー」とか「彼女がかまってやらないとすぐ機嫌悪くなって大変だわー」とにやつくような。特に後半は殺意が沸く。
「なんかね、部費について文句ある人が多かったみたいで」
「そんなに変わったのか」
「んー、私も去年の部費を把握してるわけじゃないし、一年は部費の振り分けに関わらせてもらえるわけでもないからよくは分からないけど、そうみたい」
服飾の部長も怒ってたしなー。
会長がどういった基準で部費を割り当てているのかは知らないが、一般的に考えて高校の名前を宣伝するような部活により多く投資されるのが普通だろう。無論教師が生徒に丸投げしている時点で俺の高校の場合はそれほど大きな意味合いがないのかもしれないが。部活が活躍したという話もあまり聞かない。
となると。
部費の額は生徒会役員共の一存!
…なんか混ざったな。
しかし本当に会長が彼なりに考えて決めるのだとしたらそれこそ賄賂とかあるじゃないですか。高校は社会の縮図だと誰かがいっていたけれどまさかこんなところも再現していたなんて。ジオラマじゃないんだからそんな細部にこだわらなくてもいいのに。
「ま、あの会長なら適当にいなすだろ」
買収うんぬんはさておき目立たないけど万能そうな会長だ。
「そう、で、その会長がね、文句ぶーぶーの部長達と話し合いの場を設けるらしいんだけど」
ふむふむ。
「心理的有利に立つために、生徒会側にも部長達以上の人数が欲しいんだって」
ふむ。わかる。というかやっぱあの会長そういうこと考えてるのか。ラクダみたいな顔してるくせに。
「でね、不満部長は二十五人くらいいるらしいの」
おい。
会長よ。経費削減に精を出すのは良いが敵を作りすぎじゃないかい。どんだけ派手に改革したんだよ。もしかしたら二次元の生徒会長にでも憧れちゃったのかもしれない。
しかしラノベで生徒会に主人公が入れば他は全員女子な場合が多いが会長の場合は副会長が男子だった。悔しがっているに違いない。
「で、数は多ければ多いほどいいらしいから市慶も手伝ってくれない?」
ふむ。わからない。
「いや、実は俺その日は急用があるんだ。ごめんな」
腹痛でインフルエンザで電車が止まる予定。あと歯医者も予約してるし買い物も頼まれてる。全く、ビジーな毎日だぜ。
「大丈夫。当日になっても多分体調は崩れないし吹雪にもならないから」
どうしよう。会長といい玲といい…もしかすると俺は思ってることが顔に書いてある人種なのかもしれない。耳なし芳一以上にびっしりと。つまり耳までも。
「座ってるだけでいいから!もしかしたらほら、女の子の隣に座れるかもしれないし。私が発破をかけても頑張らない市慶にはちょうどいいかも」
それを言われると弱いですけど。
でもクレーマーを収める話し合いが出会いの場ってどうなのよ。花嫁の手紙であの時きっかけをありがとうとか涙しながらクレーマーに感謝しちゃうの?
「でもなぁ…割と本気で嫌なんだが」
おそらくこの討論が終わるころには皆笑顔、なんてことはないだろう。相対する意見がぶつかるわけで、どちらにも妥協の気配は見られない。おそらくは部長軍が攻撃し、生徒会がなだめるいたちごっこが始まるだろう。本当にいたちになりきるいたちごっこは可愛いかもしれないが(幼女限定)、そうではないこれは耳障りとなるだけだろう。
恋は甘酸っぱい(初恋限定)というが推測される喧噪の中で手が触れあうとしたら口論が過熱して取っ組み合いになるときなわけで、多分苦い思い出となる。
カカオ100%かよってほどに苦い過去は既に十分持ち合わせている。僕だっていちご100%な甘酸っぱさが欲しいんです。




