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毒舌乙女は登場する。 ⑦

「服飾部はあなたの働かない頭で考える以上に費用がかかるの。布だけじゃないのよ?裁縫に必要な道具とか、マネキンとか。何も知らないで適当な経費削減を実行したのかもしれないけどこうしてやたらむやみに各部の必要経費を減らしたところで私達にとっては実害しかないわ」


 やはり優しい眼鏡巨乳キャラじゃなかった。

 パパウパウパウと切れ味のよい言葉を連射され俺のHP、働く気ポイントが急激に削られる。ゼロになると瀕死状態にはならないが引きこもる。

 こんな女史相手に俺が口論で対抗できるわけがない。

 俺の口から出るのは言い訳と建前と虚偽と詭弁のみだ。俺の話をまともに聞いて筋が通っているか一考してくれる相手には効果的だが屁理屈には取り合わない人と対面すれば無力。

 こ、これが幻想殺しか…


 無言でいると肯定ではなく無抵抗と認識され更に攻撃されそうなのでとりあえず責任の所在を俺ではないことを明言しておく。


「いや、だからそれを決断した会長に報告してから検討を…」

「あなたに話しているのだけど」


 彼女は一度狙った獲物は逃がさないタイプの人らしい。毒もあるし多分蛇とか似合う。

 しかし俺もマングースとまではいかないが人との関係を傍から観察していただけに対処の仕方は分かる。もちろん逃げるための方法だけれども。俺がダメだ!しょうぶのさいちゅうにあいてにせなかをみせられない!などと思うのはゲームの中だけ。


「いや、俺は臨時役員というか下っ端だから俺が承諾したところで何も意味はないんだよ。意見も聞いてもらえないだろうし」


 松戸は別に感情に身を任せて叫んでいるわけではないから、自分の影響力のなさを誇張して主張する。

 …意見を聞いてもらえないのは誇張ですよね?事実の可能性が否めないのがつらい。


「そう」


 ある程度の効果はあったようで、アウェーな雰囲気は変わらないが、とりあえずこれ以上に俺が松戸の標的となることはなさそうだった。そして攻撃の手が緩んだ今を見逃すわけにはいかない。


「じゃ、一応報告はしとくから。でも会長に直談判するのが一番早いと思うけど」


 そして返事を待つこともなく、走りこそしないが大阪人もびっくりなスピードでその場を立ち去る。オリンピックを狙えるかもしれない。


 ふぅ。


 なんとか脱出できた。今後服飾部には近づかないようにしておこう。

 ま、考えてみれば役員として呼び出されることがない限り特別棟に足を踏み入れる機会すらないからそれは余計な心配かもしれない。

 それにしても会長の奴め。俺たちには厄介な部長は任せられていないはずなのに。これは断罪すべきだな。もちろん正面きっては言えないから主な手段は愚痴と皮肉と陰口だけれど。なにそれ情けない。


 足取りを重くするだけの疲労感を抱えながらも俺は一度会議室へと戻ると、会議室に残っていた先輩役員に服飾部の旨を簡素に説明し、俺の部活動を開始する。

 服飾部は会長がどうにかしてくれるだろう。松戸は先輩だからという理由で怯むような奴ではないようにも思えるが、俺が悪魔メンタリズム詐欺師と称する会長だ。言いくるめてくれると思う。できなかったとしても俺には関係のないことだろう。


 いつもより少し遅いながらも帰路の風景は何も変わらず、俺の日常も普遍で不変であることを再認する。そのうち桜は舞い散り葉のみとなり、待ち行く人々も薄着となり、俺は夏休みに出される課題を予想してはげんなりとするだろうがそれは変化などではなく、閉じた回路を巡回しているだけだ。

 別に悪いことではない。向上心はかけているかもしれないが、これで満足している。

 彼女を作れとせかされているわけだが変わらない、変われないであろう俺に訪れる展開は今までとさして違わないだろう。街角でパンを加えた女子とぶつかったところで謝ってそそくさとその場を立ち去るだろうし、空から女子が降ってきても俺の家に居候することはありえない。

 

 玲には申し訳ないが、今俺がやるべきことは壁ドンの練習でも首痛い系男子へと変身することでもなく、生徒会に強制連行した彼女へのささいな復讐なのである。

※2/24 誤字修正しました

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