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毒舌乙女は登場する。 ②

 突然の提案に教室は少しの間がやがやしていたが、玲が再び口を開くと、押さえつけられるかのようにして、ボリュームのつまみが捻られたかのようにして雑音がフェードアウトする。


「普段から掃除とかに精出してるし、先生から雑務を引き受けてるし、花瓶の水かえてるし、捨て犬拾ったり不良から女の子を守ったりもしてるし、生徒会にふさわしいと思うんだけど」


 おいおい玲さんよ。後半全部フィクションじゃねぇか。なんだその分かりやすい優しい不良は。

 だがただでさえ俺に興味のないクラスの連中は、HRを終わらせるためにもすぐさま玲の示した近道に便乗する。そして軽い、ちゃらい、無駄に大声を張り上げたがる男子らは早速会議を加速させる。


「なるほど、それマジだなー」

「俺からもしすい君を推薦しまーす」


 あいつら絶対しすい君が誰だか知らないだろ。

 委員長も黒板にひらがなで書いてるしさ。もはや本人の意志関係なしか。


「他には?」


 当事者が一番置いてけぼりにされているわけだが、俺は声を出せないでいる。

 そもそも大多数の人間を前に発言することに慣れていないこともあるし、俺が泣きわめいてみたところで一度イベント事などでクラスを牽引するであろう重鎮たちによって定められた方針は変わることはないだろうことが容易に想像できてしまう。

 普段から一人でいると多数決が優先されるこのような状況において圧倒的に不利だ。


 そうして呆気にとられているうちにも会議は進み続ける。


「いないならしすい君に頼むことになるけど。いないね?」


 候補が上がらず停滞が繰り広げられると危惧していたであろう眼鏡委員長は活路が見えたことで早くも決定してしまいたいのかいつもは見られない強制を仄めかす台詞を口にする。一瞬裏でクラスを支配するボスかと思っちゃったよ。


「じゃ、しすい君もそれでいい?」


 流石に勝手に決めてしまうのは悪いと思ったのか、眼鏡委員長が確認を取った。けど俺の方を見てないのはどうしてかしら?しすい君がどれかわからないの?


「いや」


 だがささやかな圧力に屈する俺ではない。確認されれば張り切って首を横に振る。

 俺の言葉に委員長は体ごと俺へと向いた。くいっと眼鏡を持ち上げるさまは威圧的でもある。さっきまでは地味キャラだったのに…相手が格下と判断でもしたのだろうか。俺は転生したらスライムかもしれない。


「頼むよ、君のほかにいないんだ。流山さんも君を推薦してるみたいだし。それとも部活にでも入ってるの?」

「いや」

「だったら。僕も君が適任だと思うんだけど」


 いや、ちょっと前まで俺のこと知らなかっただろ委員長。


「でも、色々忙しいし」


 クラスの多くに注視されるという特殊な状況で知らず知らずに声音が弱まるが、反抗は続ける。


「習い事でもしてるの?」

「いや…」

「だったらお願いしたいな。他のみんなは忙しいみたいだし…」


 嘘つけ。絶対暇なのいるだろ。さっき騒いでた男子とか。

 しぶとく食い下がる俺の様子を見てか、やがて委員長は最終奥義を発動させた。


「みんなもしすい君が相応しいと思うよね?」


 ひ、卑怯だぞ!大衆を味方につけるなんて!

 そもそも真面目に適性を判断しながらの人選ではないわけで、心が痛まに相手に面倒を委任する儀式なわけで、となると俺など一度目立ってしまったら格好の餌食なわけで。

 委員長の言葉は首肯や曖昧な肯定の台詞によって同調が確認され、心の中で嘆く俺を余所に俺は生徒会役員という有難い肩書を仰せつかった。

 …ひどい。

 犠牲にされたよ俺。サクリファイスといえば少しかっこいいけれど。

 腹立ち紛れに玲を睨んではみるものの、無視を決め込んでいるのかこちらを一瞥しようともしない。そして会議も先ほどまで祀りたてたくせに拍手もなしに雑談やら自習を始めている。


 こんど玲の上履きに画鋲を入れてやろう。

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