捻くれ男は怒られる。 ④
「じゃ、はじめよっか」
自分の性質に自嘲していると、玲は立ち上がると部屋の隅に設置されている机の引き出しから白紙とペンを取り出し、さらに壁に立てかけてあった折りたたみ式の座卓を組み立てると、俺の目の前に据えた。
「何を?」
「とりあえず現状の整理」
そういうと玲は紙の中央に酒々井市慶と書き込む。なんか字が丸い。もしかすると市慶ゎ、彼女さがしてるぅ、とか続くのかもしれない。
ことが動き出したこと自体が嬉しいのか、玲はうきうきと俺の名前を雲のような輪郭で囲ったりしている。
「まず、市慶の人間関係を…」
だがそこで玲の手が止まった。
そして疑問符を浮かべ続ける俺へと視線を移したが、気まずそうにあさっての方向へと視線が水平移動する。
「あ、えっと…ごめん」
「いや、謝っちゃ駄目だろ」
鈍感主人公でもないからしてその謝罪の意図はなんとなく分かる。そりゃ俺を中心として相関図なんて成立しないかもしれないけど。家族だけしか書き込めないかもだけど。
中央の可愛らしいフォントの自分の名前がちょっと空しい。
そういえば。
一つ確認しておきたいことがある。
「お前って好意とかを察知できるんだろ?」
「うん」
「…俺関係で…ないのか?」
「…」
話しかけて俺へと戻った目線がまたも泳ぎ始める。すごい泳ぐ。マグロかよってほどに泳ぐ。
そしてないのか。俺への好意。
いや、予想はしてましたよ?でもやっぱり心の片隅では俺のことが好きな女子が一人くらいいるんじゃないかなーなんて淡い希望を抱いていたわけで。はっきりと否定されてしまうと少しつらいです。
「いや、まぁ、これからだしな?」
「そ、そうそう!いくら女の子との関係がゼロだからって落ち込むことはないって!」
何故非情な現実を突きつけられた俺が慰めているのかも分からないが、それ以上になんなのこいつ。なんて追撃してくんの?格ゲーなの?
「ほら、消去法を使えばいいだろ?とりあえず誰かのことが好きな奴は除外して、一番落としやすそうなやつをだな…」
我ながら彼女を作ろうと話しているときにこの言いようはないと思うがそれ以外に思いつかない。部活もバイトもやっていない身である俺にはそもそものつながりがない。いい感じの女子どころか名前を知っている女子もいないのだから、文字通りゼロからのスタートだ。ゼロからはじめる彼女作りとかそんなラノベありそう。
「そうだね。でも好意もそばにいかないとわかんないんだよね。だからそれは後回し」
そうか。
それにしても高校という誰もが青春を謳歌しようと躍起になっているであろう舞台で恋心を持ち合わせていない女子を探すのは大変そうだ。
小学生の頃は友達百人できるかなーなわけだか高校生になれば彼氏彼女ができるかなーだ。自分の高校生活を彩るには、青春という思い出を残すにはそれが一番手っ取り早い。もっとも同性同士で思い出を残す、なんてのもあるだろうがそれでも恋と無縁なわけではないだろう。対象になりうる男子がうじゃうじゃいるんだから。
恋まで語り始めた俺は雑誌の相談コーナーとか受けおえるんじゃないだろうかと思う。
「とりあえずは市慶がどうすれば彼女を作れるかを考えなきゃ」
「は?」
「だって今のままだと女の子が好きになるわけないじゃん?地味だし、一人ぼっちだし、陰気だし」
さ、さいですか。
急に駄目だしを食らって反論すらできなかった。
せめてオブラートに包んでくれればいいものを。
しかし玲教官は落第生に温情をかけてくれるほどの優しさを持ち合わせているわけではないようで。
「友達を急に増やすのは無理だから、一人ぼっちから一匹狼っぽく変換するところからはじめよう」
もはや玲は俺を育成して彼女を作る、なんて展開にはまっているのかもしれない。そんなリアル育成ゲームみたいなことされても。しかし玲には好意の程度が分かるらしいから本当にゲーム感覚かもしれない。現代っ子は万引きも恋もゲームか、恐ろしいわー。
それにしても一匹狼を自称する奴のだささは異常だからそこは気をつけなくてはいけない。だがそもそもぶっちゃけてしまうと一人でいることがポジティブにとられるかネガティブにとられるかは顔次第なきがする。
男子に関しても女子に対しても同じことが言えると思うが、顔がよければ大分補正が入る。見目麗しければおんちでも料理が下手でもそれはチャームポイントとして許容されるが、顔が普通以下ならばただの欠点にしかならない。
「率直な意見を聞きたいんだが…俺の見た目はどう思う?」
先ほどからひどいことは言われてるからもう失うものはないだろうと清水寺から飛び降りてみる。飛び降りたんだから大概の場合はそれ相応のダメージを受けるのだけれど。
しかし正直自分では中々いけてるんじゃないかと思う。特に風呂上りとか。




