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年頃乙女は説明する。 ③

                         ×   ×   ×


 な、何だ今の。


 玲は何事もなかったかのように小さく息をつくと、握っていた俺の手を離し、ハート型クッションへと戻った。しかし半信半疑であった俺の混乱は相変わらず活発に俺の思考をかき乱す。

 

 つい先ほど契約を了承した俺は、「ありがとう…」としおらしい態度で感謝され、心のうちでは玲の言う事を信じていたために胸が痛み、この胸の痛み…もしや初恋?と勘違いするほどには不真面目だったのだ。

 だから玲に手を握られたときも、恥ずかしさを感じていたし、彼女がなにかしらぶつぶつ呟き始めたときも、そして俺になにかぶつぶつ言えと強要したときも凝ってるんだなーとしか思わなかった。


 だが。


 玲が謎の詠唱を始めて数分たったころに、玲に握られた右手の甲が突然発光した。そして俺が種や仕掛けを疑う暇もなくその純白の光は白く塗り潰す範囲を広げ、最終的には傍から見れば閃光弾でも投げ込まれたようであろうほどに俺の視界は色を無くした。

 不思議と眩しいと目を閉じることはなく、発光源である手に熱を感じることもなく、俺は何も存在しない空白に投げ込まれたかのような奇妙な感覚の中を漂っていた。

 だがその浮遊体験も感覚的には長くは続かず、冷静に自分のおかれている状況を考察し始めた頃には既に目に映る光景は玲の部屋に戻っていた。


「えっと…玲さん?今のは一体…」


 思索が吹き飛ばされ真っ白な脳内に視界から得られる限りの情報を書き込みながら、俺は本能的に疑問を投げかけた。


「え?だから契約」


 いや、分かる。それはなんとなく分かってる。

 そういえば契約って大体光るよね。何でか知らんけど。

 どうやら口からこぼれた質問は自分に対してのものだったらしい。処理できない現象を前に思考回路がショートしているのかもしれない。


 玲にとってはやるべきことは済んだようで、契約前のいじらしさも見えず、あっけらかんとしていてなんかもう帰ってもいいよ?みたいな雰囲気までかもし出している。まるで俺が唯一参加して合コンみたい。あの時は興奮して準備を抜かりなくしなくてはと合コンの意味から調べ始めたりした。


「つまりこれで…」

「うん。私があんたが寄せられたり寄せる好意を吸収できるようになるの。だからさ、頑張って彼女作ってよ。大丈夫、流石に全部の好意をすったりはしないから。そんなことしたらカップル成立しないし」


 考えてみれば状況はきちんと理解はしているが、感情がそれに追いつかない。

 だが素直に玲に疑っていました、などと告げることもできずに、俺は間が抜けていると自覚しながらも「へー」と息を吐く。

 

「そうか、契約完了な、分かった。うん…じゃっ」


 そして何をすべきか、何を言うべきかもわからずに上辺を取り繕いながら俺は部屋を出た。そしてプログラムされた機械のように隣の俺の家へと直行する。

 母親のおかえりを背に聞き、自分の部屋にたどり着き、ベッドに身を投げる。

 枕に熱い息を吹きかける間も頭のHDは忙しく働いているが、満足できる回答は得られそうにもない。マークシートで自分の回答が数回連続で同じ番号になったときのような、不安と居心地の悪さがある。


 夢オチならなぁ。


 読んだ作品が夢オチだと酷評するけど。

 しかし夢オチでないならば意識的にそうすればいいだけの話か。彼女を作れといわれ契約はしたが、それで俺が日常系の中の異能バトルに巻き込まれるわけではないだろう。それに体に紋章が浮かび上がってきたとかそういうこともない。変化はなにもないんだ。

 だから今日の出来事は忘れ、普段どおりに過ごせばいい。人は同調する生き物だ。俺がいつもどおりのスタンスを貫けば周りもまたそれに追随するはずだ。例えそれが上辺だけのもので、欺瞞であったとしても。


 って俺には同調してくれる周りがいないのでした!てへっ!


 つまりぼっちは同調しないし流されない。とりわけ右に倣えの風潮が強いこの国でNOが言える日本人と称えられてもいいはずなのに居場所が教室の隅なのはどうしてかしら。


 結局は俺の特技、議題を微妙にずらすが発動して俺は非日常から脱出する。 

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