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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.10 ~世界を統べる寂しがり屋な創造主<上>~
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Level.49:予期せぬ案内人

「君……は……あの時の……」


 何故、あの少女がここにいるのか。俺が庇った、あの少女が、何故。少女は……茜は、言った。自らのレベルが――0であると。……その言葉が何を意味しているのか。分からないフリをしようとしても、頭では理解してしまっている自分がいる。だってそれは、茜にとっても、俺にとっても、哀しすぎることだから。

 

「……? どうか、なさいましたか……?」


 顔をじっと見ていたからか、茜は首を傾げて、そう言った。その言葉で、声色で、俺は確信した。確信してしまった。

 ――茜は、現実世界の記憶を忘れている。

 俺が茜を庇ったあの時、少なからずとも茜は俺の顔を見ているはずだ。それに何より、茜の受け答えがあまりにも無機質過ぎる。出会ったばかりの神楽のものとも違う、感情そのものが欠落したかのような表情と声色。

 一体彼女は、何故、なんで、どうして、何のために、この世界にやって来てしまったのだろうか。

 本人に聞きたいところではあるが、そもそも茜がその事実を自分で認識しているのかどうかが分からない。その事実を突然伝えることにより、彼女という存在自体が崩壊してしまうかも知れない。

 だとしたら、やはり俺に出来ることは、先に進むことだけだ。この洞窟の奥にいるティアに、全てを問いただす。そしてもし出来るのであれば、茜を、どんな形であれ、救ってあげたい。それが、俺の唯一の願いだった。


「……いや、君が昔の知り合いに似てたからさ。……っと、自己紹介がまだだったな。俺の名前は――」


「……存じ上げております、折原和也様。他の方々……レイネ様、ティカ様、エレナ様、神楽様、リッカ様、彩月様、イズナ様、カイル様につきましても、お名前は把握しております。全て、ティア様より伺っております」


「……そうか。じゃあ改めて案内よろしくな……茜」


「かしこまりました」


 こうして俺達は、茜の案内で洞窟内部へと足を踏み入れたのだった。




「《リヴァイアサン》」

 

 茜の一声で水龍が出現し、アンデット型モンスターに襲いかかる。

 これまで出現した洞窟のモンスターは全てレベル20~10台であり、アンデット系モンスターが中心である。

 しかし、流石はレベル0と言ったところか。茜一人で、それらを全て片付けしまっているので、俺達はただ着いていくだけといった状況だ。


「ねえ、あの子……カズヤの知り合いって本当?」


 耳元で囁かれたレイネの問いに、俺は驚きと焦りを覚える。茜に対しては誤魔化したはずだったが、レイネまでは誤魔化せなかったようだ。


「一応……な。まあ、なんていうか、俺がこの世界に来た原因だな。レイネと出会ったばかりの頃、俺はトラックに轢かれてこの世界にきたって言っただろ? その時俺が庇った子が、あの子なんだよ」


「……そう」


 レイネは短くそう言った。そして神妙な面持ちになり、俺にだけ聞こえる声で呟いた。


「……皮肉なものね。不謹慎かも知れないけれども、あの子のおかげで私はカズヤに出会えた。でも逆に、私に出会わない……カズヤがこの世界に来たという事実が無かったら、逆説的にあの子がこの世界に来ることも無かったかも知れないんだもの」


「それは……」


 俺は返答に困ってしまう。俺は茜が原因でこの世界に来てレイネに出会った。言い換えるならば茜のおかげでレイネに出会えた。だがそれは同時に、茜があの事故の原因となってくれたから、という言葉にもなり得てしまう。その後どういった運命で茜がこの世界に来たのかは分からないが、あの日俺が取った行動が変わっていたら、もしかしたら茜の運命も変わっていたのかも知れないのだ。でも、それでも俺は、あの時の行動を、後悔したくは無い。それで俺が茜の運命を変えてしまったのだとしたら、その分またこの世界でその運命を変えてやればいい。同じレベル0なのだ。レイネを救えるのならば、茜も救えるはずだ。俺は決意を新たにし、レイネに微笑みかける。


「……確かにそうかも知れない。でも、だから……だからこそ、俺はお前と茜……両方を救ってみせる。……この世界から、解き放ってやる」


 その言葉にレイネは一瞬驚き、やがて呆れと照れが混ざったような笑顔を浮かべた。


「……そうね。アンタはそういう奴だったものね。でもそんな奴だったからこそ、私はアンタを好きになったのかもね」


「え……? それは、どういう……」


「なんでも無いわ。それよりも、アカネさん……だったかしら? アナタは何故、ティア様に従っているのかしら?」


 レイネの質問に、茜がピタリと足を止める。そしてゆっくりとこちらを振り向くと、ポツリと、こう呟いた。


「ティア様は……私を創ってくれたお方だから、です」


「創った……?」


「はい。私は人形。ティア様によって創造された、ティア様のための人形。よって私がティア様に従うことは、私の存在理由そのものであり、当たり前のことなのです」


 ますます頭が混乱してくる。ティアが茜を創った? 茜は元々人間のはずだ。それを創造する? 一体それは、どういうことなのだろうか。

 

「詳しくはティア様に直接お聞き下さいませ。自分の出自に関して私が話すより、創造主たるティア様にお聞きになった方がお詳しいと思います」


 俺の心境を知ってか否か、茜がそう言ってきた。……それもそうである。どのみち、ティアに会えば全ての答えは判明するはずだ。茜のことも、レイネのことも、この世界――辺境世界レイトノーフの全ても。


「それにしても、この洞窟……」


 俺がそんなことを考えていると、ふとそんな声が聞こえてきた。声の主、イズナさんは、どうやら壁に描かれている模様を凝視しているようだった。


「なんか分かったのか?」


「……団長。これなんですが……」


 カイルとイズナさんのそんなやり取りに感じた違和感。それを代わりに代弁してくれたのは、エレナだった。


「ねーねー。なんでイズナさんはカイル君に対して敬語なの? イズナさんの方が年上でしょ?」


「……思いっきりタメ口なアナタも人のこと言えませんわよ……?」


「まあまあリッカさん……。でもイズナさん、団長という立場上の方に対して、っていう理由だけでは無いんですよね?」


 ティカの問いに、イズナさんは何となく申し訳無さそうな表情を浮かべつつ、こう語ってくれた。


「……そうね。やっぱり、恩義、かしら。守衛兵団時代の団長を裏切り、同時にカズヤ君達も裏切った。そんな皆にとっての裏切り者の私に居場所をくれたのが、今の団長……カイル君だから」


「へー。ただの脳筋かと思ってたらそんなことしてたんだ。ボク、ちょっとだけ見直したかも」


「……ま、団長は団長で守衛兵団のあり方について考えてたのかも知れないけどな、俺はやっぱ、自分で言うのもなんだが今の近衛騎士団のが正しい気がするぜ。カズヤの言うようにこの世界が異世界だってんなら、世界のあり方は俺らが勝手に決めていいもんでも無いんだろうしな。だから俺は、俺に出来ることを、出来ることだけをやる。皆に居場所を作ってやることが、まず最初の目標だな」


 珍しく真面目な、如何にも団長、と言った言葉に俺達は目を丸くした。コイツはコイツなりに、団長としての覚悟と意思を持っているということを、改めて認識させられることとなった。


「ま、そんなわけだからさ。なんか俺にとっての心地いい居場所は、お前らと一緒にいることみたいなんだわ。これからも末永く、よろしく頼むぜ?」


「末永く、ね。ま、ボクも別にカイル君のこと嫌いじゃ無いし、よろしくしてあげてもいいよ。……ってあれ? 皆、変な顔してどうしたの?」


「嫌いじゃない……って、エレナ貴女……もしかしてカイルさんに気があるんじゃありませんの?」


 俺達の気持ちを、リッカが代弁する。それに対しエレナは一瞬固まり、やがて顔を真っ赤にしてまくし立てた。


「はあっ!? なんでボクがカイル君なんか! だいたいボクは出会ってからずっとカズヤ君が好きだったのに、そんな今更他の人を好きに……なん……て……」


 自分の発言を理解し、エレナの顔がさらに赤くなり、目尻に涙が浮かぶ。そして俺の方をチラリと見ると、大きな叫び声をあげながら一人でどこかに走り去ってしまった。

 エレナも恥ずかしいのだろうが、直接好意を伝えられて俺も恥ずかしい。レイネ達も皆それぞれ微妙な表情を浮かべている。

 と、先程まで俺達の様子を傍観していた茜が、急に血相を変えて叫んだ。


「エレナ様を連れ戻し下さい……! そちらのエリアは……!」


「キャアアアアアアアア!!」


 茜が言葉を言い終わらないうちに、エレナの叫び声が響いた。

 声のした方向に駆け付けると、通路の奥の方で、エレナに向けて巨大な鎌を振りかざす死神型モンスターの姿があった。……間に合わない。間に合わないと分かっていながらも、俺達はそれぞれの武器や魔法を解き放つ。

 しかしどれも死神には届かない。声にならない叫び声を上げた俺達が次に見たものは、宙に舞う、半ばから折れた死神の鎌だった。


「……《相位置換(ポジション・リプレス)》。何とか間に合ったようだな……。覚悟しやがれ死神野郎……!」


 カイルとエレナの位置が、入れ替わっている。《破壊と再生の巨剣(ウロボロス・バスタード)》で死神の鎌を切り落としたカイルは、そのまま剣を死神へと降り下ろした。

 死神の撃退に成功したカイルだったが、無傷とはいかなかったらしい。服の肩口には血が滲み出ていた。

 それを見たエレナは顔を蒼白に染め、かすれた声を絞り出す。


「カイル……君……。ボク……ボクのせいで……」

 

「……ん? こんぐらい大したこと無いっての。……ったく一人で突っ走りやがって。民全員を守るのが俺の使命なんだ。お前一人守ることぐらい造作もない。大人しく守られとけっての」


 カイルの言葉にエレナは顔を歪め、一言だけ、ポツリと呟いた。


「……うん」


 しゃくり上げるエレナと、それを落ち着かせている皆。その様子を離れて見ていた茜に俺は声をかけた。


「茜も、ありがとうな。お前のおかげで、エレナを守ることが出来た」


「いいえ、私は声をおかけしただけです。本当は私が皆様をお守りする立場なのに……」


「それでも十分、助かった。それにさ……立場とか、別に気にしなくていいんだぜ? 俺達はもう仲間なんだ。互いに守り、守られる。それが仲間ってもんだからな」


「私が……皆様の仲間……?」


「違うのか……?」


「いえ……考えたことも……ありませんでした。仲間……。いい、響きですね」


 そう言った茜の表情は、なんとなく微笑んだようにも見えた。

 茜を含め、俺達仲間の結束がより深まったように感じられた。




 それから数時間歩き続けた所で、ふと茜が足を止めた。


「さて皆さん……この扉の先に、ティア様がおります」


 目の前に、巨大な扉が現れる。どこか神秘的な雰囲気を纏ったその扉には、厳重に鍵がかけられ、さらに魔法による封が施されていた。


「いよいよか……」


 誰もが、緊張の面持ちを浮かべている。……この先に、世界の全ての答えが待っているのだ。

 しかし、扉に向かって歩き出そうとした俺を、茜が手で制した。

 そして神妙な面持ちで、語る。


「……ティア様に会われる前に、一つだけ知っておいて頂きたいことがあります。……このことを話されるのを、ティア様は嫌がりますから」


「このことって……?」


「この世界の名前……《辺境世界レイトノーフ》の、名が持つ意味について、です」


 レイネからその名を聞き、ただ世界の名前として認識していた《辺境世界レイトノーフ》。その名が表していたものとは、一体――。

 俺が続きを促すと、茜は、ゆっくりと、こう言った。


「《辺境世界レイトノーフ》。辺境……『frontier』。逆さにすると『reitnorf』……リートノーフもしくは、レイトノーフ。名は、体を表す。……この世界は、『反転した辺境の世界』そのものなのです」

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