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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.10 ~世界を統べる寂しがり屋な創造主<上>~
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Level.48:最果ての洞窟

 イズナさんとカイルを加えて始まった《最果ての洞窟》へ向けての旅は、意外にも呆気なく終わりを迎えようとしていた。

 というのも、王都直属守衛兵団……改め、レイトノーフ近衛騎士団下での旅ということもあり、一般には解放されていない王都の飛行挺を使わせて貰ったため、入口付近までは半日もかからずにひとっ飛びだった。改めて、正規ルート(コネがあるので正規と言えるかは微妙だが)のありがたみを感じる。

 しかし終わるのはあくまでも洞窟入口に向けての旅であり、むしろここからが本番なのである。内部に付いては兵団も足を踏み入れたことが無いらしく、全く未知数の領域と言っていいだろう。

 そしてその前に、門番とやらとの戦いが待っている。挑んだ冒険者が全員返り討ちにされているというその相手に、少なからずとも戦いを楽しめる期待を持っていた。……その、はずだった。


「《絶零の氷鎚(アブソリュート・スパイク)》」


 絶大な冷気を纏った、巨大な氷鎚。門番として君臨したレベル17のゴーレムは、凍り付き、砕かれ、一撃でその姿を粒子へと変えた。

 これまで挑んで来た冒険者が弱い……という訳では決して無いのだろう。

 弌彌兄ぃの計画によって、意図しない形で本来の力を取り戻したレイネが、強すぎるのだ。出会った時はレベル30のボアに苦戦していたレイネが、倍近く格上の相手を倒したという事実がそれを物語っている。

 まあレイネのレベルは0、俺よりも上、弌彌兄ぃと同格なのだから当然と言えば当然なのかも知れない。しかしそれは、単純な戦力として見れば喜ばしいことなのかも知れないが、『レベル0』という言葉が嫌でも俺の心を掻き乱す。

 すると、そんな俺の心中を知ってか、レイネが俺の右手をその両手で包み込んだ。


「……大丈夫。私はどこにも行かない。ずっとカズヤの側にいる。……側にいて、護られるだけじゃなく、カズヤを護るんだから」


「レイネ……」


「カズヤ……」


「あーあ、付き合い出したからってイチャイチャしちゃって。ボク達いるってこと忘れて無いよね?」


「……っ! こ、これは別にその……。そう! コイツが頼りないから私がしっかりしなきゃっていう意味のアレよ!」


 エレナの言葉に、レイネが真っ赤な顔で必死な弁解を図るも、あまり効果は無い。相思相愛になれたのはいいが、意識し過ぎるのもまた問題である。


「ふーん……?」


「なんだなんだ嫉妬かエレナよ? 代わりに俺に好意向けてくれてもいいんだぜ?」


「えー……。カイルってカズヤ君みたいに強いのかもよく分かんないし」


「だから俺は元三席で今は団長! 強いに決まってるだろ?」


「どうだかね~。ま、盾としてはちょっとだけ期待してあげるよ。アハハッ!」


「お前な~!」


 何だかんだで、エレナとカイルは相性が良いのでは無いか、などと思う。……まあ、お互いからかい合ってるだけで恋心があるようにはあまり見えないのだが。何はともあれ、イズナさんもティカや彩月とを中心に上手く話せているようだし、パーティーの絆が深まるのは喜ばしいことだと、心から思った。




 そんなこんなでゴーレムを倒した俺達は、洞窟の入口で足を止めた。入口に扉のようなものはなく、代わりに四つの模様と見慣れない文字が描かれていた。

 

「これは……? うーん……。よしとりあえず殴ってみるか」


「ちょっと待ちなさいカイル君!」

 

 脳筋思考で拳を握り締めるカイルを、イズナさんが片手で制した。


「これはただの壁じゃない……強固な魔法障壁よ。いくらカイル君でも、物理攻撃じゃ触れることすら出来ない程のものよ。……だからちょっと待ってて。私が文字を読んでみる」


「読めるんですか!?」


 と、カイルが驚く。


「一応、ね。伊達に調査班班長やってるわけじゃないもの。これは……レイトノーフに伝わる古代文字ね。『果てを……目指す者よ……今ここに……力を……示せ』……え!? 何で……? ここから違う文字になってる……。大事なところが読めない……!」


 狼狽するイズナさん。イズナさんが読めない文字を読めるはずも無かったが、俺は何となくその文字に目を凝らした。


(あれ……? これは……どこかで……)


「『……燃える炎、砕ける氷、吹き荒れる風、揺るがす大地。四大属性……最上位魔法を持って、その力を証明せよ。さすれば、果てへの道が開けん』」


「カズヤ君!? なんで読めるの……?」


「いや……なんかどこかで見たことがあるような気がして……。まあそれよりも、試してみようぜ。四大属性魔法……火・氷・風・土、だっけか?」


 イズナさんは完全に納得したといった様子では無かったが、これ以上の追及は無意味と考えてか、俺の発言に頷きを持って同意する。

 火はリッカ、氷はレイネ、風はエレナ、土はカイルと、偶然にも各属性魔法の使い手がここには揃っていた。ただ問題は、『最上位魔法』ということだ。


「……リッカさんが火の《灼熱世界(ムスペルヘイム)》を。レイネさんが氷の《氷結世界(ニヴルヘイム)》を。……となると残る二つ、《暴風世界(アルヴヘイム)》と《地裂世界(ヨトゥンヘイム)》ですが……エレナさん、カイルさん、可能でしょうか?」


 ティカが、神妙な面持ちでその魔法名を口にした。

 《アルヴヘイム》に、《ヨトゥンヘイム》。どちらも北欧神話に出てくる世界である。……が、俺の記憶だと、《アルヴヘイム》は妖精の世界、《ヨトゥンヘイム》は巨人の世界だったはずだ。オークとドワーフの見た目が逆のように、この世界の事象の命名には何か違和感が残るが、そんなことを言ってもゲーマーかつ『真っ黒い時期』に神話について調べまくっていた俺ぐらいにしか分からない話なのだろう。とりあえず、そこは言葉を飲み、エレナとカイルの返答を待つことにした。


「……ちょっと前のボクなら無理、って言ったかも知れないけど、それしか方法が無いならやるしかないよ。詠唱さえ分かれば、なんとかなる……と思う」


「俺は大丈夫だぜ。なんたって俺はレイトノーフ近衛騎士団団長……」


「ティカちゃん、詠唱を知ってたら教えてくれる?」


「せめて最後まで言わせろよ!?」


 カイルが喚いていたが気にすることは無いだろう。ティカが丁寧に詠唱を教え終わるのを待って、レイネとリッカも集中を高めていた。

 そして4人が、同時に詠唱を開始する。

 溢れ出す膨大な魔力の奔流。残った俺達もその渦に抗いながら魔法の発動を見守る。

 ……ふと、こんなことが頭を過る。

 ――この封印を施したティアは、俺達がここに来ることを知っていたのではないか。四大属性魔法を扱える者が、こうも都合良く揃うものだろうか……? 考えすぎかも知れないが、それもこれもこの先に待っているティアが全てを知っているはずだ。

 そんなことを考えているうちに、各自の詠唱がほぼ紡ぎ終わっていた。

 

「「「「『世界を――』」」」」


「『崩せ』『焦がせ』『呑め』『裂け』」


 ティカの合図で魔力が解放され、四大属性最上位魔法が、同時に放たれる。


「《氷結世界(ニヴルヘイム)》!!」


「《灼熱世界(ムスペルヘイム)》!!」


「《暴風世界(アルヴヘイム)》!!」


「《地裂世界(ヨトゥンヘイム)》!!」


 周囲の空気が、凍てつき、焦がされ、叩き付けられ、砕かれる。

 同時に障壁の模様が強く発光し、やがてひび割れ、粒子となって砕け散った。


「やりましたね! お疲れ様です」

 

 彩月がレイネ達を労う。今の魔法でレイネ達はかなりの魔力を消費したことだろう。

 少し休んでから内部に向かおうかと提案しかけた、その時だった。

 

「……! 皆、静かに! 誰か……来る……!」


 神楽が殺気立った表情で俺達の前に躍り出る。誰かが侵入者を排除しに来たのか――などと考えたのは、考えられたのは、一瞬だった。

 洞窟の中から顔を出した人物に、俺は言葉を失った。

 肩にかからない程度の所で切り揃えられた、艶やかな黒髪。触れれば折れてしまいそうな、細い手足。レイネ達と比べても申し分無いほどの、俺達と同年代と見受けらる美少女。

 それだけなら、言葉を失うまででも無かったかも知れない。

 だが、その人物の顔を見た瞬間、思い出した瞬間、あの日あの時の記憶が鮮明に蘇ってくる。


「君……は……」


「ようこそいらっしゃいました。レベル0・《案内人(グイーダ)》……漣波茜(さざなみ あかね) が、ご案内致します」


 機械のような声色でそう告げる少女。

 ……茜と名乗る彼女は、俺がこの世界、レイトノーフに来るキッカケとなった少女――俺があの日、大型トラックから庇った、少女だった。

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