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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.10 ~世界を統べる寂しがり屋な創造主<上>~
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Level.47:頼れる友

 レイトノーフでの暦は、12月31日、大晦日。

 俺がこの世界にやってきてから、すでに半年が経っていた。

 しかし今となっては、「まだ半年」と不思議に思うこともある。それだけ、この世界に来てから色々なことを経験し、色濃い日々を送って来たのだ。

 そして何よりも、大切な愛しい人に巡り合うことが出来た。そのことが、俺にとっての幸せであり、レイネにとっても幸せなことならば俺にとってもこれ以上ない喜びだ。

 この世界での生活に、俺は今、満ち足りていた。ここで皆とともに一生を終えても、悔いは残らないかも知れない。


「……なんてこと言ったら、弌彌兄ぃにぶっ飛ばされるよな」


 自嘲気味に、苦笑いせざるを得ない。それに、悔いが残らないのは、あくまでも俺が最初からこの世界で生まれ、生活していたらの場合だ。あるいは、俺が現実での記憶を持っていなかったら――。……いや、レベル1として迷い込んだからこそ意味があり、その力でレイネや仲間達を救ってこれたのだ。運命とは必然であり、その運命が未来を創ることもまた事実なのだ。

 そういえば、俺は先日仲間達に、現実世界の存在……そしてレベルの本当の意味についてを話した。

 元々現実世界についての記憶を持たないティカ・エレナ・リッカの3人は始めこそ困惑していたものの、現実での記憶に心当りがあるらしく、俺の話を受け入れてくれた。

 レベルの本当の意味については、本当は話すつもりでは無かった。それを話すということは即ち、レイネがイレギュラーな存在であるということを意味するのだから。でもレイネは、「構わない」と言った。むしろ本当の自分を知って欲しいと、自らの口で、自分の生い立ち、記憶についてを語った。

 話している途中、拒絶されるかもしれないという恐怖から、レイネの身体は小刻みに震えていた。しかし、話し終わった途端、エレナがレイネに飛びつき、他の4人も輪になってレイネを包み込んだ。互いのことを理解し合うのは難しいことではあるが、同時に幸せなことでもある。理解に至るまでの過程を楽しみ、理解した時の幸せを噛み締める。それを体現するかのように、少女達は微笑みあっていた。その姿を見た俺も、幸せで、満ち足りた気持ちになったのだった。




「あけましておめでとうございます」


 そんな言葉が、王都の町中で飛び交っている。

 年は明けて、1月1日……元旦。異世界であるレイトノーフでも元旦、お正月の文化はあるらしく、王都という近代都市で古式ゆかしき行事が行われるという何ともアンマッチな光景が広がっている。改めて思うが、何というかこの世界は、見た目こそゲームの中に広がっているようなものだが、中身は俺のよく知る日本そのものである。まあそのおかげで、よくある食事が合わない、等と言ったことも無いのだが。

 しかしここまで日本に似ているとなると、この世界の創造主――ティア・ブレイディ・ドロップディストは日本に何らかの思い入れ思い入れがあるのか、などど想像する。どの程度会話が成り立つのかは分からないが、そのこともだが、何よりも世界を創造した目的に付いてを聞かなくてはならない。俺には……《最果ての洞窟》に向かう俺達には、その役目があるはずなのだ。




「よしっ……と。それじゃあ皆、そろそろ準備はいいか?」


 1月4日。お正月を満喫した俺達は、《最果ての洞窟》に向かう最終準備を進めていた。

 創造主ティアに話を聞くだけ――となるに越したことは無いが、王都の人々の話だと、洞窟の入口には超強力なモンスター……さしずめ門番といった存在が出現するらしい。宝を目指し洞窟に向かった冒険者達は全て返り討ちにあったらしく、それ故に旧・王都直属守衛兵団により進入禁止区域として指定されていたらしい。だから誰もそこに向かう者はいなかったのだが、今回はカイルに話を通して、俺達は正規ルートで洞窟に向かえることとなった。手配犯の疑いも晴れたのだから、こそこそとした真似はもう後免である。

 しかし旧兵団の兵士達がいる手前、俺達だけを向かわせることは難しいらしく、カイル率いるレイトノーフ近衛騎士団の幹部クラスを同行させて欲しいとのことだった。俺としては戦力が増えるのに越したことは無いと思ってはいるので断る理由も無かったのだが――。


「……遅い!!」


 皆の気持ちを代弁して、レイネが不満を口にする。俺達の準備はとっくに整っていたのだが、その同行者がいつまで経っても待ち合わせ場所に現れない。いっそこのまま出発してやろうか、といった雰囲気が漂い始めた、その時だった。


「え!? 貴女は……!!」


 レイネが驚愕を(あらわ)にする。……無理も無いだろう。待ち合わせ場所にやってきたのは、俺達がよく知る女性――イズナさんだったのだから。


「遅くなってごめんなさい! 退院の許可が下りるのに時間がかかっちゃって……。レイトノーフ近衛騎士団調査班班長兼行商班班長兼書記長、イズナ・サファリア。あなた達に同行させて貰います!」


 ……兼任が多過ぎだろう。というツッコミがしたいのを堪えて、俺は気がかりなことをイズナさんに尋ねる。


「イズナさん……来てくれるのは嬉しいけど、怪我はもう大丈夫なんですか……?」


 そう、イズナさんは弌彌兄ぃによって塔から落とされ、つい先日まで入院していたはずだ。確かに今日退院するとの話は聞いていたが、無理をしているのではないかという不安が脳裏を過る。


「……ええ、もうバッチリよ。ティカちゃんにもだいぶお世話になったしね。……それに何より、私達はあなた達の力になりたいのよ。罪滅ぼし、恩返し……いえ、違うわね。……大切な、友人として」


「イズナさん……」


 その言葉に、心が暖かくなる。イズナさんの気持ちもありがたいし、同行者が俺達の友人ともなれば会話や連携もスムーズなものとなるだろう。レイネを含め、皆イズナさんを心から歓迎しているといった様子だった。


「イズナさん、よろしくお願いします。よし、じゃあこの8人で――。……あれ? そういやイズナさん、さっき、私『達』って……?」


「……ええ。多分そろそろ――」


 イズナさんが言葉を言い終わらない内に、何となく頭に浮かび上がった人物が、勢いよく駆け込んできた。


「待たせたなお前達! レイトノーフ近衛騎士団団長! カイル・グランディアが旅に同行してやるぜ!!」


 ……あまりのテンションに、場が一気に静まり返る。

 閉口した俺達を見て、カイルは意外そうな表情を浮かべた。


「おいおいどうしたお前ら? このカイル・グランディアが同行してやるっていうんだぜ? もっとワーとかキャーとかあってもいいんじゃないか?」


 何故かは分からんが、カイルはだいぶ調子に乗っているようである。……それを、ウチの女性陣が黙って放置するはずも無かった。


「……いや別に、頼んで無いし」


「ええ!?」


「ボク、うるさい人はちょっと……」


「うるさい……だと……?」


「……邪魔」


「……グサッ! これまた……直球ですね……」


「貴方、誰でしたかしら?」


「いや確かにあんま接点無かったかもだけど酷くね!?」


「カイル……ああ、そんな人もいましたね」


「副団長まで!? ってかアンタ絶対わざとだよな!? むしろわざとであってくれよ!?」


「こんな人、兵団にいましったけか~?」


「イズナさんまで!? って言うか俺の方立場上なのにさん付けもアレだけどイズナさんまで!? 後で減給するよ? しちゃうよ!?」


「ハハハ……。それで、カイルさんは何のご用なんですか?」


「ティカちゃんまで純粋な瞳で言うの止めない!? 結構傷付くから!!」


「ま、諦めてお家に帰るんだな」


「おいカズヤ! お前含めお前の連れ酷すぎね!? 俺に対する扱い雑だよね!?」


「まあ……イズナさんと違って理由無い遅刻は、なあ……?」


「うぐっ……。いや俺はなぁ! お前に折られた《破壊と再生の巨剣(ウロボロス・バスタード)》の修復とか兵団の指揮とか色々あって……! ……いや、はい。遅れて……スイマセンでした」


「分かればよろしい。……ってか冗談だよ冗談。お前が忙しいのは知ってるし、一緒に来てくれるってのは正直嬉しいって思ってる。期待していいんだよな? 頼りにしてるぜ……カイル団長!」


「……団長はよせっての。……もちろん力を貸すぜ、カズヤ!」


 こうして、お調子者だけど頼もしい、9人目の仲間が加わった。

 そして俺達は、《最果ての洞窟》に向けて歩き出すのだった……。

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