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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.8 ~絶対零度たる我儘な魔女<上>~
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Level.37:王都インペリアル

 神楽の創り出した《影間転移門シャドウ・トランスポート・ゲート》に飛び込んだ俺達は、リバーセントラル地下道の入口前へと戻ってきていた。そして、エレナが発現した《風の空舟エアライド》へと乗り込む。


「皆……行くぞ!」


 街中を抜けていくルート自体は、リッカが知っていたので、特に道に迷うなどといったことは無かった。しかし、街中を抜けていくということは、人目に付きやすいということでもあり―。




「ああっもうっ! しつこいっ!」


 俺達は今、守衛兵団の兵士達に追い回されていた。


「アイツらを逃がすなぁ!」


「主犯のオリハラカズヤを捕らえた者には七星騎士の称号が与えられるぞ! 全員心してかかれぇ!!」


 もちろん、俺達は《風の空舟(エアライド)》 に乗っているので、完全に追い付かれるということは無い。しかし、如何せん数が数だ。このままでは、兵士達が途切れずに放ってくる魔法が何れヒットしてしまうだろう。《風の空舟(エアライド)》の上から攻撃する手段があれば別なのだが、遠距離攻撃に長けているエレナは《風の空舟(エアライド)》の術者である以上、他の魔法を使おうにも精度に欠ける上、移動スピードも下がってしまう恐れがある。神楽と彩月はどちらかと言えば白兵戦を得意としているためここからの正確な攻撃は難しいし、リッカの焔もしくはティカの《魔法暴発(マジック・バースト)》という手段もあることにはあるが、街中でそんなことをしたら大惨事になりかねない。


(こんな時にレイネがいてくれれば……!)


 そんなことを思っても、今はどうしようも無い。かくなる上は……。

 俺は腰に吊り下げた《エクスカリバー》の柄に手をやった。するとその様子に気付いた彩月が、あわてたように声をかけてくる。


「ちょっ……和也さん!? こんなところでソレを使おうとしないで下さい!」


「いや……でも追われてるし……。王都に着く前に試しておかないとってのもあるしさ」


「そういう問題じゃ無いんです! いいですか? 《エクスカリバー》は確かに本当の《聖剣》程の力はありません。……ですが、その剣には一つだけ固有能力が……《刀身の巨大化》という能力が備わっているんです」


「意味あるのかソレ……?」


「……七星騎士は一人に付き一つの階層を与えられますから、その階層にオブジェとして突き立てている方が多いですね。……ともかく、です。こんな街中でソレを使って制御を誤れば、それこそ街を破壊しかね無いんです。ですから―」


「そうは言ってもお前らに魔力を使わせるわけにも……。―待てよ? 《刀身の巨大化》が能力……そう言ったよな?」


「……? はい。柄・鍔を除いた《刀身の巨大化》が《エクスカリバー》の固有能力です」


「ちなみにどこまで《巨大化》出来るんだ?」


「そうですね……。試したことは無いので分かりませんが、オブジェとしても使える以上、10メートル程度までなら余裕で巨大化出来るかと……。でも、それがどうかしたのですか?」


「……なら十分だな。……エレナ! 俺が合図をしたら《推進力》に魔力を集中させてくれるか!?」


 エレナの《風の空舟(エアライド)》は、矢弾で紡いだ舟を、《揚力》で浮游させ、風を操り《推進力》を得て進む魔法だ。現在エレナは魔力消耗を極力避けるために、最低限の揚力で地面スレスレを飛行している。それにより街中を抜けていくことになるので、《推進力》にもそれほど魔力を使っていない。


「それはもちろん出来るけど……。魔力を使うのは《推進力》だけでいいの?」


「……ああ、構わない。……それとティカ、その合図で『《推進力》に使われる魔力』に《魔法暴発(マジック・バースト)》を頼めるか?」


「出来ます……けど……。こんな所で使ったら……」


「もちろん『こんな所では』使わねーよ……。皆! 何かにガッチリ掴まっておけよ!」


 そう言うと俺は、腰から《エクスカリバー》を抜き取り、舟の後方スペースに立った。


「ちょっ!? カズヤ君危ないよっ!?」


「和也さん、何をするつもりで……!」


「……いいから、ちゃんと掴まっておけ……よ……!」


 俺はそう言うと、《エクスカリバー》を頭上に掲げ、力を込めて思いきり降り下ろした。

 《エクスカリバー》は誰もいない地面に向かって降り下ろされていく。その切っ先が地面に触れるとほぼ同時に、《エクスカリバー》の刀身が巨大化した。

 ……となれば、当然、俺達を乗せた《風の空舟(エアライド)》は―『《エクスカリバー》の刀身という土台』によって、遥か上空まで浮かび上がった。


「「「キャアアアッッッ!?」」」


 少女達の声が響き渡る。俺自身も危うく舟から投げ出されそうになったが、気付いていたらしい神楽が俺の身体を支えてくれていた。


「……和也。あったかい……」


「……神楽。……ってそれよりも! エレナ、ティカ、今だ!!」


 神楽の台詞を取り合えず聞き流し、俺はエレナとティカに合図を送る。

 エレナが《推進力》に魔力を注ぎ込み舟を加速、さらにはティカが《魔法暴発(マジック・バースト)》で文字通り推進力をバーストさせる。


「何!? アイツらあんな上空に!!」


「くそっ……待ちやがれ!」


 兵士達が必死で追おうとしているが、もう遅い。……結果《風の空舟(エアライド)》は、とてつもないスピードで街の上空を通り抜けていくこととなった。


「ひゃっほーい! 気持ちいいねコレ!」


「そういう問題ではありませんですわっ!? 落ち……落ち……っ!」


「私は誉れ高き騎士これしきの恐怖は恐怖と呼ばないというよりこれは恐怖などではなくただの冷や汗がもたらすものであって私は恐怖など……」


 対照的な少女達の反応に苦笑しながらも、俺は元の大きさに戻った《エクスカリバー》を手に、目の前に近付いてきた王都を見つめる。


「アレが……王都インペリアル……」


 上空には多くの浮遊物、地上にはきらびやかな高層ビル郡が立ち並ぶ、『東京』に似ているようで似ていない、《王都インペリアル》。その中心には、明らかに他の建物とは違う造りのタワーがそびえ立っていた。


「カズヤさん……」


 緊張したようなティカの声からも、それが守衛兵団の本部ということはすぐに理解することが出来た。


(あそこに……レイネと弌彌兄ぃが……)


 と、神楽が俺のコートの裾を摘まんで言う。


「……和也。……嫌な空気を感じる。ここからは地上を行った方がいい」


 確かに俺もさっきから嫌な空気を感じているし、重要な建造物である以上防空システム等の存在も考えられる。俺が指示を出すとエレナは頷き、《風の空舟(エアライド)》をタワーから500メートル程離れた場所に着陸させた。


「ここからが……本当の勝負だ。皆……覚悟はいいか? 俺に……力を貸してくれ!」


 皆は無言で頷き、返答の代わりに各々の武器を顕現させる。

 俺は心の中で感謝の言葉を呟き、塔に向かって伸びる陸橋を駆け出した。


「侵入者だ! 捕らえろ!」


「それにアイツらは……指名手配の!」


「絶対に生きて帰すな!」


「塔に侵入させるなぁ!」


 塔に近付くや否や、兵士達の大群が塔から流れ出てくる。

 魔法で焼き払おうとする者。

 矢で射抜こうとする者。

 剣で切り裂こうとする者。

 その数、数千は下らなかったが、不思議と今は全く恐れを感じ無かった。


「私の正義を……ここに示します!! 《魔法暴発(マジック・バースト)》!!」


 兵士が放った魔法が暴発し、周囲にいた兵士達を飲み込む。


「ボクの友達……返してもらうよっ!! 《暴虐の嵐(テンペスト)》!!」


 辺り一帯に暴風が吹き荒れ、兵士達を薙ぎ払う。


「私の力は、和也と……皆のために!! 《全ての存在を絶つ一矢(イグジスト・ダーツ)》!!」


 黒き影に覆われたクナイが、兵士達を突き抜ける。 


「燃え上がる想いは……止められませんわ!! 《真紅の雨(スカーレット・レイン)》!!」


 天空より焔が雨となりて、兵士達に降り注ぐ。


「守衛兵団としての形を正すため、私は貴殿方に……剣を向けます!! 《天雷(あまいかずち)・一閃》!!」


 雷鳴を纏った刃が、兵士達を斬り捨てる。


「……皆、ありがとう。……『お前』も俺に、力を貸してくれ。《物部(もののべ)流暗殺術・一ノ型一番―》」


 俺は完全に制御を可能とした《エクスカリバー》を腰に吊り下げたまま、兵士達の大群の中に突っ込んでいく。そして群れが途切れた場所で立ち止まり、半寸程抜いた《エクスカリバー》を、見えない鞘へと差し戻す。


「《―『畏逢(いあ)いの太刀』》」


 ―刹那、移動空間上にいた兵士達の身体が、崩れ落ちる。


(俺は皆を、自分の力を信じる。そして弌彌兄ぃの野望を必ず止めてやる。だから―)


 俺は思いきり息を吸い込み、塔の最上部に向けて―叫んだ。


「レイネェェェェェ!!!! 連れ戻しに来たぞぉぉぉぉぉ!!!! レイネシアだとか姫様だとか関係ねぇ!! 我儘でひねくれてて意地っ張りで、でも笑顔が最高に可愛い……俺が大好きな『お前自身』を!!!!」 

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