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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.7 ~雷鳴轟く孤高の刀剣士~
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Level.32:リバーセントラル地下道

 イズナさんからの予期せぬ連絡により助言を貰った俺達は、リバーセントラル地下道を進むことにした。

 イグニストの街を出てから歩くこと数分。森の入口付近に、明らかに人の出入りを拒むかのような鉄の扉が出現した。


「よし……ぶっ壊すか」


「やめなさい」


「やめて下さい」


「やめた方がいいんじゃない?」


「……やめて」


「やめて下さいませ」


 試しに一発殴ってみようかと思ったが、全員から頑なに反対されてしまった。


「冗談だっての……。全く……」


「アンタが言うと冗談に聞こえないから怖いのよ……」


「……全くですわ。大人しく鍵を使って下さいまし」


 リッカに言われ、俺は仕方なくイズナさんから貰った鍵を使うことにした。


「いやいや俺がそんなバカなこと……。っと、ティカ、頼む」


「はい、分かりました」


 俺から鍵を受け取ったティカは、鍵を鍵穴へと差し込んだ。扉は若干錆び付いていたものの鍵穴は無事で、鍵はすんなりと回った。


「よーし、開けるよ~」


 エレナが扉を開け、俺達はリバーセントラル地下道へと足を踏み入れるのだった。




 中は地下道だけにトンネルのような感じで、薄暗く少し気味が悪かった。


「うう……少し……怖い……です……」


「べ、べべ別に私は怖くなんて無いのよ! ただアンタが怖がっているんじゃないかと思って……。そ、それだけなんだからねっ!」


 右手にティカが、左手にはレイネがしがみついている。

 ティカはまだ分かるが、レイネが暗いところが苦手ということは正直意外だった。そんな少し可愛らしいレイネの一面を見ていると、不意に空間に明かりが灯された。


「……《フレア》。この空間ならこれで充分ですわね。……それにしてもレイネ、貴女……もしかしなくても怖いんですの? それならそうと早く言って下されば最初から《フレア》を使って差し上げましたのに」


「ぐっ……。あ、アンタがいつ自主的に光源発生係になるかを確かめるためよ……! うん、そう……やっぱりアンタにはその役割が似合ってるわ……!」


「なんですって!? 人がせっかく明かりを灯して差し上げたというのに……! 消してもよろしいのですよ!?」


「そ、それはダメよ……! あ、アンタは光源発生係なんだから……!」


「この……」


「アンタこそ……」


「ハァ……。はいはい2人ともそれぐらいにしとけ。時間は限られてるんだからさっさと先に進むぞ」


「「フンッ!!」」


 やれやれ、この2人はもう少し仲良く出来ないのだろうか? 前途多難である。




 リッカが魔法で火を灯してくれたお陰で、ある程度の光源は確保出来たので、取り合えず安全に進むことは出来ている、のだが……。


「もう……なんでこんなに歩かなきゃいけないわけ? そもそもカズヤ駆動の人力車はどうしたのよ?」


「なんだよ俺駆動って! つーかしゃーないだろ? 階段も多いんだ。こんな道荷車引いてじゃ歩け無いっての」


「でもさー、昔って動力無いんだから、昔の人達って人力で荷物運んだんじゃないの?」


「ええ、そうですよ。ん~と~、ほら。そこにレールの後があるじゃ無いですか。昔はこの上に荷車を乗せて人力で運んだそうですよ」


「和也も……頑張る……?」


「冗談じゃねぇよ! ってかレールも跡しか無いから完全なる人力じゃんかおい!」


「全く……騒がしい人達ですわね。……まあ、べ、別に嫌い……ってわけじゃありませんけどっ」


 今現在王都に向かっているということを分かっているのか分かっていないのかといった具合の俺達のパーティー。だがその前に、地下道らしい(?)難関が立ちはだかるのだった。


「こ、これは……」


 俺達の目の前に現れたのは、右・中央・左と三方向に分かれた分かれ道だった。流石のティカもこの事は分からなかったようで困惑している。取り合えず俺達は話し合いで道を決めることにした……のだが。


「左ね! これは左で間違い無いわ!」


「いいえ、ここは右ですわ。右に決まってるのですわ!」


「どう考えたら右になるってのよ! 最初は左からって決まってるのよ!」


「はあ? 貴女こそ何を言ってるのですか? 多くの物事は右から始まるのですわよ? 時計の回り方もそうですし、大抵の人は右利きですわ!」


「左利きで悪かったわね! そもそも私はアンタのその大体の人が~、とかっていう考え方が嫌いなのよ!」


「何ですって? 左利きのひねくれ魔女には言われたく無いですわ」


「この……」


「何を……」


 案の定、レイネとリッカが意見を対立させた。お約束と言えばそうなのかもしれないが、こちらにも時間が無いのである。困った俺が取った手段は……。


「なあティカ、どこが正解だと思う?」


「……真ん中、だと思います」


「よし、真ん中だな。行くぞ、神楽、エレナ」


「……うん」


「はいはーい!」


「「ちょっ……、(お)待ちなさい!!」」


 レイネとティカの叫びは、むなしくも地下道に響き渡るだけとなった。




 結局道は合っていたらしく、俺達は順調に王都への距離を縮めていた。左右どちらかの道に行っていたらどうなるか微妙に気になったが、交易に使われていた以上、行き止まりなどということは無いのだろう。だが普通に考えれば真っ直ぐに進んだ方が最短ルートであるということは当たり前なのかもしれない。

 と、少し進んだ所で道が開け、何やら大きな広間が現れた。


「ここは……交易所、ですね」


 ティカが言う。確かに広間の所々にはテーブルや椅子の残骸も見受けられる。かつてはここで多くの取引が行われていたのだろう。


(ん……?)


 と、その瓦礫の中に何か光る物を見付け、俺が手を伸ばしかけた……その時だった。


「……! 和也、後ろに跳んで!!」


 あまりにも切羽詰まった悲鳴にも似た神楽の声に、俺はその場でバク転し後ろに跳んだ。

 ―刹那。俺がさっきいた場所に、凄まじい音と速度で剣が突き刺さった。あの場に止まっていては、一溜まりも無かっただろう。


「誰だ!! 姿を現せ!!」


 俺が叫ぶと同時に、皆の間にも緊張が走る。


「……アレを避けるとは。流石にコロシアムを勝ち抜いただけはあるようですね」


 暗闇の中から聞こえてくるのは俺達と同年代と思われる少女の声。しかしその声は冷たく、どこまでも気高い志のようなものも感じられた。


「……! この声は……そんな……まさか……!?」


 ティカがしゃがれた声を上げる。ティカは声の持ち主を知っているだが、それは決して友好的な関係だと(うかが)わせるものでは無く、かと言って敵対的なものでも無い。あえて言うのならば、ティカが声の主に対して圧倒的な恐怖感を抱いているかのような―。

 足音はどんどん近付き、やがてその者は俺達の前に姿を現した。

 ポニーテールの形に結われた長い黒髪。大和撫子という言葉が相応しい美しく凛とした顔立ち。スラッとした身体を覆うのはきらびやかな黄金の鎧。

 見た目だけでも相当な実力者と見て取れる少女。そんな彼女の姿を目の当たりにした途端、ティカがガタガタと震えだした。


「あ……ああ……。あの……方は……! 守衛兵団七星騎士―」


 ―刹那、どこから現れたのか、ティカに向けて雷を纏った剣が放たれた。


「っ……!!」


 すんでのところで神楽が剣を弾き飛ばした。剣を放った少女はそれを見ても表情を一切変えること無く、冷淡な口調で言い放った。


「裏切り者がその名を口にするな。断罪してやる……と言いたいところだが、まあいい。……どうせこの場で、全員殺すのだから」


「「「……!!」」」


 少女から放たれる凄まじい殺気に、俺達は気圧されながらもそれぞれの武器を手に取った。


「ふむ……私と戦おうというのですか。……良いでしょう。ここまでたどり着いた貴殿方に最大限の敬意を表して、私の名を名乗るとしましょう」


 少女が指を鳴らすと、少女の周囲に無数の剣が出現した。

 一拍置いて、少女がその名を口にする。


「王都直属守衛兵団・七星騎士副長兼支部統括責任者、橘彩月(たちばな さつき)。レベル11刀剣士の力を持って……貴殿方の命を頂戴します」


 リバーセントラル地下道の広間に、雷光が瞬いた―。

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